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997年目
11 南の宮 ※チヒロ
しおりを挟む※※※ チヒロ ※※※
「ついでに植物図鑑を追加しようか?」
「――っいいのっ?!」
「ご褒美だよ。君は植物に興味津々だったからね」
なんのご褒美だかわからないけど、やった!
思わず両手が上がった!
ここに来て、一番嬉しいかもしれない!
ここは《私》がいた世界じゃない。
《私》がいた世界の、昔のような所だけど《違う世界》だ。
この宮に来るまでに見た森の木が。草が。庭園の花が。そう主張していた。
自慢じゃないが田舎育ちだし、園芸は趣味だったのだ。
なのにここの植物は、どれひとつ見たことなかった。
花が、バラか?蘭か?チューリップか?わからないなんて驚愕したわ!
……ああ、本当にもっとじっくり見たかった。いや、触って匂いを嗅いで。
写真撮りたかったなあ……。スマホがあれば。
無理よね。電気もなさそうなここにはあるはずがない。
そして、私に作れるはずもない。
スマホ、パソコン、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、レンジ、コンロ……。
私にあるのは《誰かが作った便利な道具を使う知識》だけだ。
私はたとえここに材料が全て揃っていても、《私》がいた国にあった道具を何ひとつ再現できない。
歴代の『空の子』の先輩たちは、ここで自分の持つ《知識》を存分に使って立派に英雄になっていらっしゃるのにね。
まあそれはいいんだけど。
どんな人たちだったのかな。それは知りたいよ。
私と同じように突然この国に来て、どんなふうに生きたんだろう。
生活はどうしてたの?家は?友達は?仲間は?恋人は?家族は?子孫はいるの?
伝えたものは今、どうなっているの?
『空の子』の先輩たちのことが知りたい。それは私が生きていく参考になる。
この国が知りたい。
街はどうなってるの?人々の生活は?植物は?動物や自然は?全部見たい。
ここがどんな世界なのか知りたい。知らなきゃ生きていけないもの。
だから外に出たい。
けれど外どころか王宮の中も、この南の宮の中も、庭に出ることも駄目だとは。
――「君は『空の子』なんだよ」――
殿下は私が人に会うことを相当に警戒してる。
一番初めに私の護衛を決めたくらいだ。
『空の子』はそれほどの人物だということだろう。この国にとって。
なんせ宇宙人だもんね。
きっと『空の子』の先輩たちも、はじめはそうだったんだろうな。
今は仕方がない。いずれ落ち着いたら許してくれると言うのだし我慢だ。
許可してもらえるまでは情報収集。座学に励もう。
そう思い直して、歴代の『空の子』たちについての記録と、この国について書かれた本を見せてもらうことにしたのだけれど。
植物図鑑があるとは思わなかった!
本当に嬉しい!
なのに殿下は続けた。
「……植物図鑑を渡すのは君が一通りこの国の知識を身につけてからね」
冷や水を浴びるとはこのことか!?
何ですって?
「殿下っ!」
思わず椅子から飛び降りた。
ほぼ同時に殿下は、まるで止まれというように片手をあげた。
「わかるよ。その喜び方。真っ先に図鑑を見る気だろう?でもダメ」
「何でっ?!」
「きっと君は飽きるまで図鑑しか見ない」
―――くうううぅー
図星だ。
きっと私は一日中図鑑を眺めてしまう。
なんでわかったのだ。ちっ、勘のいい。
でもそんなのってない!
そりゃ殿下が正しいのはわかってる。
今、私に必要なのは知識だ。
この国の、この世界のことを知ること。
何より《ここ》の常識をすぐにでも身につけること。
それが今の私には何より大事なことだ。
図鑑を見ることじゃない。わかってる
私だってわかってるよ!
だけど部屋から出ない。人とは会わない。
言い方が悪いかもしれないけど、それは軟禁だよね?
しかも期限が決められていない軟禁!
なのに図鑑までお預けなの?
唯一、癒しにできそうなことなのに。
私は、そんな楽しみも与えてはもらえないの?
私の気持ちを考えてはくれないの?!
「殿下」
「レオンだって」
「殿下!気をつけるから!」
「却下」
―――もう嫌っ!
吐き出そうとした言葉は、誰かの声に先を越された。
「殿下、発言をお許し下さい」
あ
さっき廊下で私を睨んだ護衛の人だ。
ちょっと怖いのだ。
銀髪に小麦色の肌の20代半ばくらいの男性だ。
それはともかく
かなりの長身と、透明かと思うほど薄い青色の瞳の迫力が半端ない。
ひえっと身体が縮みあがった。
けれど
「『空の子』様はまだ幼い。それは厳しすぎるのではないでしょうか?」
私は感動した!
いいひとだっ!!!
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