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997年目

12 南の宮 ※エリサ

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 ※※※ エリサ ※※※



「『空の子』様はまだ幼い。それは厳しすぎるのではないでしょうか?」


副隊長の擁護の声が、よほど嬉しかったのだろう。

チヒロ様は胸の前で手を合わせて、キラキラした瞳を副隊長に向けている。

わかりやすい……

一方、レオン様は手で口を押さえ俯いている。何故か身体を震わせて。

何故?

「幼い、ね」

「殿下、お許しになっても宜しいのではないでしょうか。
学びには息抜きも必要です。
それに植物を覚えることは自らの身を守ることになるかもしれません」

植物の中には毒のあるものもある。そのことを言ってるんだわ。
さすがです、副隊長。

レオン様もようやく顔を上げ「確かに」と頷いた。

「わかった。じゃあ、そうだな。
チヒロには教師をつけて、この国のことを勉強してもらおう。
その時間以外は部屋で好きに過ごせばいい。図鑑を見たりね。
それでいい?チヒロ」

チヒロ様はコクコク頷いた。

「そういうわけだから。
シン、悪いけど君の屋敷の家令をしばらく貸してもらえるかな。
毎日でなくても構わないし、都合のつく時間だけで良いから」

「セバスを、ですか?」

「あれ以上の適任はないだろう?」

「はい」

騎士は家名を名乗ることを禁じられているが、副隊長は貴族だ。

しかも《王家の盾》と呼ばれる、当主が代々王家に忠誠を誓ことで有名な騎士の家柄である。

その《王家の盾》の、現在の当主は副隊長だ。

その影響か人柄か。副隊長の屋敷は使用人全員が元・騎士だ。

中でも特に。
家令として屋敷を仕切るセバス様は、元・我が国一番と言われた騎士にして頭脳明晰で幼いレオン様の教育係でもあった。

今はいいお年でいつも笑顔なのだが、私は、実はセバス様が怖い。
お名前を聞いただけで背筋がのびた。

私はチヒロ様の専任護衛になったわけだし、あちらはチヒロ様の教師(たぶん兼、護衛)。

しばらく一緒かあ………。涙が出そう。

「チヒロ?」

―――ん?

レオン様の訝しげな問いかけに、見ればチヒロ様は副隊長を見たままだった。

気付いた副隊長も怪訝な顔になる。

「……シン?」

「はい」

「貴方の名前、シンって言うの?」

「はい。……そうですが、それが何か?」

チヒロ様の顔がぱっと輝いた。

「姓はなんていうの?もしかして先輩の子孫?」

「―――は?」

チヒロ様が一歩近づいたので、副隊長が一歩さがった。

―――センパイとは?

「ご先祖さまに先輩がいない?」

―――だからセンパイとは??

チヒロ様の勢いに押されて、副隊長はもう一歩後ろにひいた。

おお珍しい。副隊長が怯むところなんて初めて見ました。

一方、チヒロ様はようやく言葉が足らなかったと思い至ったらしい。

「ごめんなさい。
あの……《シン》っていう名前は《私》がいた国にある名前だったから。
もしかしたら貴方は、以前の『空の子』の子孫なのかと思って」

「……《私》がいた国?」

国?空じゃなく?私の疑問はレオン様と同じだったようだ。

「チヒロ。その辺の話を詳しく聞こうか」

レオン様は人払いをされた。


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