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998年目
07 第2王子 ※レオン
しおりを挟む※※※ レオン ※※※
「レオン」
《レ・オン》に聞こえる彼女独特の間で。チヒロが僕を呼んだ。
明らかに呼び慣れたその声に奴の顔が引きつる。
チヒロはそのまま僕のもとにパタパタと駆け寄った。
チヒロは無意識だっただろうが、良いことをしてくれた。
僕はほくそ笑んだ。
努めて優しく聞く。
「チヒロ。何の話をしていたの?」
「えっと、あの。ご挨拶と……お誘いを……」
「お誘い?」
「――『空の子』殿に、我が西の宮に遊びに来られるよう、お誘いしていたところだったんだよ」
奴が割り込んだ。
僕は鷹揚に言う。
「それはそれは……しかし、そういうお誘いは王子妃様がなさることでは?」
他の宮の女性を自分の宮に招くのは女性だ。
男が。ましてや王子がして良い事ではない。
しかし奴は自分が誘うしかなかったのだ。
だからチヒロに護衛がひとりしかついていない、この時を狙って声をかけた。
それを、まさか僕に見られているとは思わなかっただろう。
チヒロに《今日》、《ここ》への散歩をすすめて正解だったな。
忌々しげな奴に追い討ちをかける。
「西の王子妃様からのお茶会のお誘いでしたら、私も考えますが」
奴はカッと赤くなった。
そうだろう。
奴と妃は仲がよろしくないことは有名だ。
事あるごとに言い争ってばかりいると聞く。
「まずはお身内とお話をどうぞ。では失礼。チヒロ。行こうか」
チヒロを連れ、そのまま向きをかえることにする。
と。
奴が叫んだ。
「身内と話す必要があるのはお前の方じゃないのか?」
「は?」
「私を気にしていていいのか?
身内にもっと気にしなければいけない者がいるだろう」
―――何を言ってるんだろう。
そう思ったので足が止まった。
奴は静止した僕を見てにやりと笑うと、隣のチヒロに言った。
「『空の子』殿も、あの神獣に好かれているそうですね」
「あの神獣?――ああ、ジルのこと?」
「ええ。素晴らしいですね。あの神獣が認めたのはこの世に二人だけとは」
「はい?」
チヒロは首を傾げた。
奴は僕の方を向く。
「全く考えてもない顔だな」
「何を……」
奴はにやにやと笑ったままだ。
「ああ、今はまだ想像も出来ないか。しかし覚悟しておいた方がいいぞ。
7年なんてあっという間だ。年齢は誰も気にしないさ。《前例》があるからな」
―――なるほどね。
シンとチヒロか。
セバスのように勘違いしているわけだ。
僕が『空』に妃を望んだと。
それを利用して僕と、自分が苦手としているシンを離したいのだろう。
やすい挑発だ。
いかにも奴が考えそうな事だ。
さて。
何と返事をしたものか。
目は、前にいる奴のにやにやと笑っている顔をうつしている。
だが頭を過ぎるのは絵でしか見たことのない顔。
変わらぬ表情の男
悲痛なセバスの顔
焼けるような背中の痛み―――
拳をつくる。
そのまま息を整える。
返事を考えていると―――袖をぐっと引かれた。
「ねえレオン。この子、さっきから何を言ってるの?」
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