この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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998年目

35 対立 ※レオン

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 ※※※ レオン ※※※



「これが死病の特効薬になるかもしれない植物ですか!」

中央の医局に着くと王宮最高医師ロウエンがそれは喜んで僕らを迎えた。

「ええ。でも本当に弱い光でしかないので薬に使えるかどうかは。
それに枯れそうですし。
第一、特効薬の原料の中で唯一足りない植物の代わりになるかどうかもわかりません」

チヒロは申し訳なさそうに言ったが、ロウエンは「それでも素晴らしい発見です」と笑った。

チヒロとロウエンは、その植物は根や茎や葉、全体が弱い光を放っているのでどの部分も特効薬にできる可能性があること。
送られてきた3本全てを実験に使うのではなく、王宮で育てられないか試してみることなどを話していく。


そして執務を理由に、僕らは早々に医局を後にした。

帰りには、遠回りとなるが広い廊下を歩き南の宮へ戻ることにする。

この広い廊下は、来た時に使った《宮殿》への抜け道である狭い廊下とは違う。

執務や行事を行う広大な《中央》の中でも中心部に近く、訪れる人も多い為とても華やかな作りになっているのだ。

特に圧巻なのはアーチ型の天井。
壁から続く緻密なレシーフに、描かれている優美な模様。

二階まで吹き抜けで高く明かり取りの窓もあり、今は光が差し込んでいる。

二階には手すりのついた回廊があり、その向こうには政務を行う国の中枢である様々な部署が使用する部屋のドアが並ぶ。

一階も両端には部屋のドアが並び、絵画や彫刻も飾られている。
そして板を組み合わせ美しくデザインされた床。

この廊下を初めて通るチヒロは、その物珍しさにゆっくり歩き、僕も歩調を彼女に合わせる。

初めてと言ってもいい『空の子』の登場だ。

チヒロの漆黒の髪と瞳。美しい容姿。
そして《キモノ》と言うこの国にはない衣装。

居合わせた者たちが感嘆の声を上げる。
その声を聞きつけたのか、中には部屋から廊下に出てくる者までいる。

一階の皆が廊下の端に寄り、一様に頭を下げて僕たちを通す中、しばらく行くと数人が廊下の真ん中を歩き、こちらへと向かってきた。

その中央にお目当ての顔を見つけて、僕は喜びに震えた。

―――かかった。

拳を作る

息を整える


さあ。始めようか。


奴は満面の笑みで近づいてくるとチヒロに挨拶をした。

僕は奴の後ろにいた護衛に見知った顔がいない事を認めて口角を上げた。

奴はチヒロに向けて話し出す。

「『空の子』殿。ありがとうございました」

「え?」

「隠されずとも良いですよ。先程は医局に珍しい植物を届けて下さったとか。
嬉しい限りです。医局を管理する者としてお礼を言わせてください」

「―――」

周りが少しざわめいた。

チヒロは言葉を失っている。

想像通りの言葉だ。だが僕は目を見開き驚いてみせる。
奴はそれをちらりと見てにやりと笑った。

「『空の子』殿が薬に《興味》がおありだとは……嬉しい限りです。
是非とも我が国の為に知恵をお貸しください」

「あの……知恵……というほどのものでは」

「いえいえ。
《興味》を持たれるということは、何かしら思うところがあるのでしょう?
珍しい植物をお集めのようですし、新しい薬をお考えでしょうか。
素晴らしい。
薬は高い知識なしに作れるものではありません。
新しい薬となると尚更です。
謁見の際に《高い知識はない》と言われてましたが、ご謙遜だったようだ」

「いえ。あの、私は《高い知識》は――」

「――ああ。もしかしたら《誰か》に口止めされましたか?
《薬に興味があることは言わないように》と。もし、そうならひどい話ですね。
貴女を故意に貶めるようなものだ」

「いえ!誤解です!そんなことは――」

「――いいのですよ、庇わなくても。
貴女が医局を訪問されることが真実を物語っていますから」

「!――っ違います!それはっ」

「済んだことだ。水に流しましょう。
……それよりこれからの話しをしましょうか。
これからもどうか遠慮なく医局を訪問して下さい。
医師には貴女を手伝うように言っておきましょう。
他にも何かあれば私を、どうぞ遠慮なくお頼りください」

チヒロが戸惑っているのは誰の目にも明らかなのに、奴は気づかないのか。
わざとなのか。一人語っている。

そして、しばらくして言った。

「『空の子』殿、いっそ私の西の宮にいらっしゃいませんか?」


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