この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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998年目

45 真相 ※セバス

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 ※※※ セバス ※※※



レオン様の様子がどこかおかしい。

ゆっくりとお茶を味わうレオン様を見ていても、私は落ち着かない。


貴族から届けられた植物を、ここチヒロ様のお部屋に持って来られただけだ。
そしてチヒロ様に誘われるまま一緒にお茶を飲み談笑されているだけ。

だがこれまでレオン様がそんなことをされたことはない。

これまで届けられた植物をチヒロ様に届けるのは護衛の役目だった。
訪ねるのはほとんどの場合、レオン様ではなくチヒロ様の方だったのだ。


《中央》で第2王子と対立され、儀式の日に『空』にしたことを打ち明けられてからレオン様は変わられた。

この世の全てを玩具の《駒》のように見て。
第2王子に、王家に、国王陛下に。当てつけて自分の命を消そうとしていたレオン様。

そのレオン様はチヒロ様と我が主人のおかげで生きる選択をされたのだ。


―――そしてチヒロ様を気にされるようになった。


……それは良い変化だと思うのだが……何かが引っかかる。

私がレオン様とチヒロ様。
お二人の様子をうかがっているとチヒロ様がそれまでの笑みをおさめ、少し言いにくそうに切り出された。


「あの。レオン、許可が欲しいんだけど」

「何の?」

「医局に自由に行きたいの」

「―――」

「医局の医師せんせいたちが薬を作るところや患者さんを診察する様子を見ていたいの。
『仁眼』で、何か気づくことがあるかもしれないでしょう?
もちろん邪魔にならないように気をつける。
だから、毎回レオンに許可をもらわなくても行きたい時に行ってもいい?」

「――却下だ」

レオン様の言葉にチヒロ様は身を乗り出した。

「え、駄目?
でもレオンだって新しく医局の仕事も加わって忙しいよね?
私が医局に行くたびに許可をもらいに行ったらお邪魔なんじゃ――」

「――医局に行くこと自体が却下だ。
君が医局に居れば『空の子』を見たい人間を呼ぶだろう?」

「あ……」

「君を一人では行かせられない。
君が医局に行きたい時は僕が付き添う。
必ず付き添うから。
いいね?―――だから絶対に勝手に医局へは行かないで」

チヒロ様は肩を落とした。
後ろに控えていたエリサが慌ててチヒロ様の横に跪きチヒロ様に寄り添う。

それを見たレオン様は焦ったように「ごめん」と謝罪された。
チヒロ様は首を振り小さく笑う。

「私が考えなしだっただけだから」

レオン様の顔が辛そうに歪む。

「ごめん。……だけど君を守るためなんだ。
その代わりと言っては何だけど。他に何かしたいことはない?」

「え。他に?」

「うん」

「うーん。そうだなぁ……」

チヒロ様はしばらく上を見て、良い事を思いついた、と言うように手をぽんと叩いてみせた。

「休憩が取れる時には今日みたいにこの部屋に来て。みんなでお茶を飲もう」

「――は?そんなこと?」

「駄目?」

チヒロ様のお願いに、レオン様はほっとしたように言った。

「……いや。いいよ。じゃあお言葉に甘えて。ここを休憩室にさせてもらおう」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「殿下。ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか」

レオン様は我が主人に顔を向けた。

チヒロ様のお部屋から執務室へと戻り、レオン様が執務を再開しようとされていたところだ。

無表情でいるレオン様の返事を《諾》と取り、我が主人は静かに聞いた。

「あの儀式の際。殿下は『空』になんと言って喧嘩を売られたのですか?」

「―――」

それは私もお聞きしたかったことだった。

今日、確信した。

レオン様は以前と何も変わらないようでいて違う。

良い方に変わられたと思うのだが、どこかおかしい。
まるでどこかが壊れてしまわれたようだ。

チヒロ様を守りたいと言われていた。

だがあの態度。
あれはまるで……そう。

犯してしまった罪を償おうとしているように見えたのだ。

レオン様がチヒロ様に《何か》してしまったというのならば。
それはレオン様が『空』に喧嘩を売り、レオン様に喧嘩を売られた『空』がチヒロ様をこの地上へと降ろしたあの儀式しかない。

我が主人もそう察したからこそ、問われたのだろう。

我が主人と共に、じっとレオン様のお答えを待つ。
―――しかしレオン様は黙したまま動かない。

「……殿下?」

訝しんだ我が主人が声をかける。
レオン様の唇がようやく動いた。

「……言った?」

「はい。よろしければお教え――」

「―――――っはっ!」

「殿下?」

「あはははっ!」

突然、レオン様は身体を折って笑い出した。
我が主人も私も驚きで声が出ない。

どうされたのかも、どうしたら良いのかも分からず我が主人と二人立ちつくす。

レオン様はしばらく可笑しくてたまらないというように一人笑われたあと、我が主人に言った。

「ああ、ごめん。――シン。やっぱり君は凄いね」

我が主人は意味がわからないと言う顔をする。

それを見たレオン様はまた笑われた。
我が主人と私は顔を見合わせる。

「――言ってない」

「「――は?」」

我が主人と私の声が揃った。

レオン様はくすくす笑いながらようやく教えてくださった。

「言ってない。心の中で散々『空』に悪態をついていたけどね。
《声》にしたのはただひとつ―――」


レオン様に告げられたその言葉に、私はたまらず口を押さえた。


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