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999年目
15 緊張 ※チヒロ
しおりを挟む※※※ チヒロ ※※※
「エリサ。少し落ち着いてよ」
ドアを見てはそわそわしているエリサに声をかける。
エリサは飛び上がるようにしてこちらを振り返った。
「す、すみません。緊張してしまって」
朝から何度、このやりとりを繰り返しているだろう。
でも無理もないかもしれない。
今日はセバス先生の奥様が私に会いに来てくださる日。
その奥様が、元・騎士でエリサの憧れの方らしいのだ。
「そんなに凄い方なの?エリサ」
エリサは興奮した声を上げた。
「ええ!凄いなんてものじゃありません!
だってエスファニア様ですよ?
我が国初の女性騎士にして《伝説の女性騎士》エスファニア様です!
もう興奮して昨日は眠れませんでした!
ああ……本当に今日、お会いできるんですね」
「そんなにすごい人なんだ。セバス先生の奥様って」
「それはもう!我が国初の女性騎士ですよ?
しかも男性騎士に勝るとも劣らなかった強者です!武勇伝も数知れず!
……中でも《伝説の女性騎士》と言われるようになった理由がすごいんです」
「何なの?」
「当時の、この国一番の騎士で近衛隊長だった方を一喝されたそうなんです」
「……えっと。それってもしかして?」
「はい。セバス様です!
当時セバス様は国王陛下の信任厚く近衛隊長であると同時に陛下の補佐もされていまして。
仕事ばかりで何年も屋敷に帰らなかったそうなんです」
「……今、この《南の宮》に同じような人がいない?」
「副隊長とは全く違いますよ!
副隊長はちゃんと屋敷に顔を出されています。
セバス様は何年も帰らなかったんですよ?
しかもその頃すでに上の娘さんがいらしたんですけど、その娘さんの年齢も覚えていなかったとか。
――で、奥様のエスファニア様が激怒されてセバス様を一喝されたんです」
「なるほど。それは奥様が怒るのも無理はないわね」
「でしょう?
一人そんな方が、しかも国王陛下の近くにいれば他にも同じような方が出ます。
当時セバス様と同じように仕事ばかりで家族は顧みずという方が結構いて。
そこにエスファニア様の一喝です。
《宮殿》でされたその一喝は国王陛下の耳にすぐ届き、大いに反省された陛下が働き方の改善をなされたんです」
「そうなんだ」
「それまで誰も声をあげられなかったことですよ。
激務にたえていた者、顧みられていなかった家族。
当然、皆エスファニア様に感謝しました。
そうしてエスファニア様は《伝説の女性騎士》になったのです。
以来セバス様はエスファニア様に頭が上がらないそうですよ」
「そ、そうなんだ」
エリサは両手を胸の前で祈るように組んでうっとりしていた。
かと思ったら身だしなみを整えだす。
朝から何度もしていて、おかしなところなんてあるわけないのに。
そんな様子を見ていたらなんだか私も緊張してきた。
セバス先生を一喝する奥様ってどんな方なんだろう。
何だか私も怒られそうな気がしてきた……。
大丈夫かな。
「そんな強い方だったなんて。
レオンが淑女の中の淑女だって言ってたから。女性らしい方なのかと……」
「ああ、確かに淑女の中の淑女でいらっしゃいます。
なにせレオン様の乳母だった方ですから」
「乳母?」
「ええ。レオン様がお生まれになる数ヶ月前に出産されていて。
レオン様の、文字通りの乳母をつとめていらしたそうです」
「あ。レオンのお母様のかわりに母乳を?」
「はい」
そうなんだ。
強い女性騎士で淑女で乳母って。一体どんな方なんだろう……。
うう。本当に緊張してきた。
上手くご挨拶できるかな……。
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