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999年目

21 出会い ※チヒロ

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 ※※※ チヒロ ※※※



医局に飛び込んだ私たちを見て、何人かいた医師たちが悲鳴を上げた。

ジルを連れてきて、驚かせてしまったようだ。
私は謝罪をしつつ部屋の中をぐるりと見回した。が、会いたい医師の顔はない。

「チヒロ様?」

呼ばれて見ると、奥に見習い医師のトマスさんがいた。

急いで駆け寄りながら聞く。

「トマスさん!突然ごめんなさい、ロウエン先生は?
大至急お会いしたいんです!」

「はい?あの。でも、ロウエン先生は今、来客中で……」

医局の奥には応接室が3つある。

その手間にいたトマスさんが、湯気のたつティーカップを乗せたトレイを持っている理由がわかった。

お客様は見えたばかりなのだ。

「そんな。どうしよう……」

マグカップを持つ手に力が入った。

ロウエン先生に早く《これ》を見ていただきたいのに……

焦る私に、静かな声が言った。


「どうぞ『空の子』様。私は後でかまいませんので」


よく知っているようで、聞き覚えのない声だった。

ゆっくりと顔をあげる。

その声の主をトマスさんの後ろに見つけた私は、息を呑んだ。


そこには銀色の髪に小麦色の肌の、長身の男性が立っていた。

その瞳だけが、私の知っている人の色より濃い青色だ。
雲ひとつない、夏の青空のような青―――。


ひと目で誰だかわかった。間違えようがない。

「シンのお義兄さん……」

本来ならちゃんと《サージアズ卿》とお呼びするべきなのに、私の口から出たのはそれだった。

しかしシンのお義兄さん――サージアズ卿は、それを気にするふうでもなく、静かな笑みを浮かべて言った。

「どうぞお先に。お急ぎなのでしょう?」

私はようやく、ロウエン先生のお客様がサージアズ卿だということに気がついた。

それを裏付けるように、サージアズ卿が開けた医局の最奥にある応接室のドアの向こうからロウエン先生が顔を出す。

私はようやく会えた人に駆け寄った。

「ロウエン先生!」

「チヒロ様?どうしたのですか?何か――」

「――《これ》を!生きているうちに、どうしても見ていただきたくて!」

マグカップを差し出した私に、ロウエン先生は戸惑ったようだ。

自分に向かって差し出されたマグカップと、そして私の後ろ。
多分、医局の入り口のドアの横にいるのだろうエリサとジルの方に目をやった。

どう納得してくれたのか。

サージアズ卿に最奥の応接室で少し待ってくれるように頼むと、私達をその隣。
手前の、真ん中の応接室に案内してくれた。

私はサージアズ卿にお礼を言って、エリサとジルと応接室に入った。


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