この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

文字の大きさ
102 / 197
999年目

26 サージアズ卿 ※チヒロ

しおりを挟む



 ※※※ チヒロ ※※※



はたして応接室から出て見ると。

そこにはサージアズ卿とそして、シンがいた。

話をしていたらしい。
並ぶ二人は銀の髪色も背格好もそっくりで、まるで双子のようだった。

ジルがシンのところへ行き、シンに顎を撫でてもらうと満足そうに目を細めた。

ロウエン先生がサージアズ卿と話をし始めたので、私はジルの後を追い先にシンのもとへと向かった。

「シン。ごめんなさい、ジルを呼んでしまって」

「ジルは私のものではありません。
私に謝る必要はない。ジルはジルの意思で貴女のところに行ったのでしょう?」

まあそうなんだけど。
それでも、シンにひとこと言っておかなければと思わせるものがシンとジルにはある。

私にはジルが大きい犬――シベリアンハスキーにしか見えないからかな。
シンはジルのご主人様というか、何というか……特別なのだ。

「あ、そうだ。ジルが《私たちは医局に行った》と伝えてくれたの?」

「そんなわけないでしょう。エリサの伝言のおかげで知ったのです」

「……そう」

「……まさかジルと私が繋がっているという話を信じていたのですか」

「えっと。信じてたというか。多分わかるかな……と思ったんだけど」

「信じていたんですね。それで試してみた。そうでしょう?」

「ぐっ」

えへへと笑って誤魔化すしかない。
シンはため息を吐いた。

「……確かにジルの様子で、貴女に何かあったのは伝言より前にわかりましたが」

「本当?ジル、すごい!」

良くやっただろう、と言うようにジルは顎をしゃくった。
撫でろと言うことらしい。そうだね、褒めてあげなきゃ。

「ジル。ありがとう。助かったわ」

撫でようとした私よりジルの方が先に動き、私の肩に首をまわした。
頬や首にあたる柔らかい銀の毛がくすぐったくて、私は声を上げて笑ってしまった。

と。

横からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
私は慌ててジルから離れると、そちらに向かって深くお辞儀をした。

「すみません。突然お邪魔してしまって。
ありがとうございました、シンのお義兄さん」

「チ、チヒロ様っ!」

おっと、やってしまった。
エリサの声で気づいて言い直す。

「申し訳ありません。失礼を。サージアズ卿」

「いえ、私の名前をご存知だったのは光栄ですが。
《シンのお義兄さん》のままでいいですよ。
初めてそう呼ばれましたが、新鮮で気に入りました」

「えへへ、ありがとうございます」

エリサとシンが渋い顔をしているけど、見なかったことにしよう。

「それにしても。話には聞いていましたが、『空の子』様は本当にジル殿と仲良しなんですね」

「え?――ああ。はい、犬には好かれる方なので」

さらっと出てしまった言葉にシンの訂正が入った。

「……チヒロ様。何回も言わせないでください。ジルは銀狼です」

「ごめんなさい……」

サージアズ卿はクスクス笑い続けている。笑い上戸なのかもしれない。
熊――いや、近衛隊長さんに聞いていた通り、柔和な印象の人だ。

こういうところは違うんだ。

シンはチラッと見られただけで睨まれた!と思っちゃうもんね。
最初の印象は怖かったなあ……。

見ていたらシンに気付かれた。

「……何か」

「いえ別に」

サージアズ卿はまだ笑っていた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...