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1000年目
34 閑話 人攫い―四年前 ※テオ
しおりを挟む※※※ テオ ※※※
見たこともないほど大きな《家》の前で僕は青くなっていた。
隣にいた包帯だらけの男が僕の肩をポンと叩く。
父さんに
「子どものお前を騙すことなど大人なら簡単にできるぞ」と言われたのに。
「絶対そんな人じゃない!」なんて言い切った十日前の自分を殴ってやりたい。
騙された。
コイツ、人攫いだ―――――。
◆◇◆◇◆
町で暮らしてみたい。
ふもとの町の人間たちが使うという言葉を覚えたい。
大きな高山の中腹。
そこに暮らす民族に生まれた僕が、そう思ったきっかけはなんだっただろう。
もう忘れた。
けれどそれが《絶対行く》に変わったのは幼馴染の、ルミナの弟ロジが病気になった時だ。
僕たちの生活は自給自足。山の恵みを追って暮らしている。
茶葉を取る《虫寄せの木》を育て、小さな畑をあちこちに作り、鳥などわずかな小動物を飼って。
木の実や植物、動物。山の恵みを受けられる場所に留まり、なくなれば次の場所へと移る。
どうしても足りない物はふもとの町の人間たちと物々交換をして手に入れる。
一族の長である僕の父さんを始めとした大人の男たち数人がふもとの町に行って交換してくるのだ。
置物や籠などの小物から、衝立や飾り窓などの大きな物まで。
細工の得意な僕らが作った品と、ふもとの町に住む人間たちが作る布やナイフなどの生活用品。
そして薬と交換してもらう。
それまで僕は、それは普通だと思っていた。
だけど大人たちが七日かけて見事な細工を施した衝立が、小さなロジの1日分の薬にしかならなかった時。
言いようもない怒りと、そして疑問が湧いてきた。
――― その取り引きは本当に、公平で妥当なものなのか? ―――
その兵士を見つけたのは偶然だった。
いつも何か新しい細工ができないか考えていた僕は、その日もひとりで細工に使えそうな物を探して山を歩いていた。
その時、血のにおいがした。
山で暮らす僕らは目も耳も、そして鼻もいい。
そうでなければ獣の多い山で生きていけないから。
傷ついた獣だったら怖いけど、もし一族の誰かだったら大変だ。
僕は血の匂いの元を探した。
そして見つけたのが、その兵士だった。
ぎょっとした。身体がはねるほど驚いた。
一族以外の人間を、間近で見たのは生まれて初めてだったから。
その兵士は高山にいる兵士と似た服を着ていた。けれどその服は血だらけ。
怪我は酷いんだとすぐにわかった。
正直いって困った。
一族以外の人間と関わってはいけないと言われていたのに。
動けずにいるとその兵士は僕を見て、ちょっと笑った。
下がった目尻が父さんを思い出させた。
僕は決心した。
この兵士を助けよう。
周りをキョロキョロ見まわした。
少し前に剣を持った男を8人見かけていた。
高山にいる兵士じゃなかった。服が違ったからわかる。
兵士はみんな同じ服を着てるから。
8人は僕に気付くことなくふもとへ続く山道の方に向かって行ったけど、何か探してた。
きっとこの兵士を探していたんだ。
助けなければ。
8人が戻って来るかもしれない。
あいつらに見つかれば、きっとこの兵士は殺されてしまう。
周りには人の気配がなかった。
僕は急いで家に走った。
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