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1000年目
38 成長 ※エリサ
しおりを挟む※※※ エリサ ※※※
「あ。やっぱりいた」
「そりゃあいますよ。俺、今お嬢様の護衛ですから。何やってるんですか。
早くベッドに戻ってくださいよ」
「良かった。連れてってくれる?」
「はあ?」
「ちょっとそこまで行くだけだから」
「えー。ならエリサに言えばいいじゃないですか。どうして俺に?」
「エリサには心配かけたくないの。万一見つかって責任を背負わせたくないし」
「……俺ならいいんですか」
「いい」
「……酷くないですかそれ」
「嘘よ。貴方なら誰にも見つからないだろうし、もし見つかっても平気だから頼んでるの」
「えー。……嫌な予感しかしないんですけど。どこに行く気ですか」
「シンのお義兄さんの部屋」
「――っおじょっ!え?まさか、その歳で夜這い?!」
「違う!そんなわけないでしょ!ちょっとお話がしたいの。他の人には内緒で」
「ええー……」
「もし見咎められても男性の貴方なら《迷った》とか《眠れなくて散歩してた》とか、何とでも言い訳できるでしょう?
エリサがこの時間に部屋の外をウロウロしてたらおかしいじゃない。
お願い。私は勝手にエリサの目を盗んで一人で部屋を抜け出した事にするから」
「ええー。嫌ですよー。俺、エリサにまた殴られます」
「また?」
「何でもないです。とにかく嫌です」
「私を攫おうとしたことセバス先生に言ってもいい?」
「……喜んでお供します」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二人が音を立てずにドアを閉めて行った。
私はベッドに横たわっていた身体を起こし、ため息をついた。
「サージアズ卿にお話か……」
私たちは明日、《王都》に向けて出発する。
ここ、コドリッド伯のお屋敷でサージアズ卿と二人で話しがしたいのなら今夜しかない。
他人には知られたくない話なら尚更だ。
何をお話になりたいのかはわからないが、チヒロ様は訳もなく無理をいう方ではない。
望まれるだけの理由があるのだろう。
確かに、もう夜も更けている。
女性の私がチヒロ様を連れてコドリッド伯のお屋敷内を歩くのはおかしい。
それに《あの男》は諜報だ。
チヒロ様一人くらい何なく隠しながら何処へでも行けるし、男性だから人に会ってもいくらでも言い訳できる。
チヒロ様がサージアズ卿と二人で話をされている間、部屋の外にいても誰かに見咎められたりもしないだろう。
……やろうと思えばお二人の話を《外》から聞き取れるはずだ。
でもサージアズ卿に気付かれるかな。
とにかく。
だからチヒロ様の選択は正しい。
《あの男》に任せておけば安心だ。
《あの男》も私が起きているのに気づいていて、チヒロ様に言わせたのだ。
チヒロ様の行き先と、これは私に気を遣っての行動だと。
その上で、自分がついて行くから心配するなと言いたかったんだろう。
わかっている。《あいつ》の腕は認めている。任せてやるさ。
……わかっている。これが最善だ。
でも寂しいのだ。
チヒロ様に必要とされたのが自分ではないことが。
チヒロ様の成長を素直に喜べないことが。
はたと気が付いた。
……そういえばいつからだろう。
《おばちゃん》も、《おばあちゃん》も出ていない。
おばちゃん、おばあちゃん、子ども………
ぐらぐらと不安定だった精神の年齢が、安定されたのだろうか。
私は自分の身体を抱きしめるように両腕をまわした。
精神の年齢が安定されたのなら……喜ばしいことではないか。
何故、寂しいと思ってしまうのだ。
チヒロ様にとっては良いことだ。
もう私のフォローは……必要ない。
―――良いことなのだ。
ひとつ鼻をすする。
私は寝たふりを続ける為に元通りベッドに横たわった。
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