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1000年目
58 サージアズ卿 ※レオン
しおりを挟む※※※ レオン ※※※
「ただお話がしたいだけ、だそうですよ。『空』とは」
「――」
「今のところ『空』にお帰りになる気は全くないようですね。
《いつか》なんて先の約束を私にするくらいですし、間違いはないでしょう。
――ああ、聞けたのは本当に偶然ですので。
エリサさんが《『空』への呼びかけを聞いていた》とは気づかれておりません」
領地に戻る為の挨拶にやってきたサージアズ卿の言葉に、僕は呆気にとられた。
「……サージアズ卿。《盾》は主人との会話を秘するものでは?」
「我が主人は細かいことを気にするような方ではありませんので」
サージアズ卿は躊躇いなくさらりと言う。
僕は天を仰いだ。
「……貴方がチヒロの《盾》となった理由がわかった気がする……」
「お気付きになられましたか。さすが殿下」
なるほど。チヒロの読みはあたっていたようだ。
―――シンの為か……
本人より先に気がついたのか。
シンの胸に宿る想いに。
僕に忠誠を誓うシンの代わりに
自分がチヒロに忠誠を誓ったのか。
守ろうと言うのか。
生涯。命をかけて。
義弟が想う人の身も、心も―――
「……凄い人だな、貴方は」
優雅に笑うサージアズ卿に、僕も笑みを返す。
「……それにしても妙だね。察しが良すぎやしないかな。
――もしや、この宮にはシンの知らない《貴方の手の者》でもいるのかな?」
「なにせ『空の子』様が現れたのですから」
「……なるほど、最初からか。――ああ、陛下かな。
釘を刺したのが仇になったのか。まさか僕に内密でチヒロを探られるとはね。
……そこまで彼女を気にされていたのか。
……ともかく、納得できたよ。
貴方がシンの想いをよく知っているわけも。
《数回会っただけ》のはずの彼女を《生涯の主人》としたわけも。
それにしても。
僕に伝えなくても良かったのでは?せめてもの情けかな?」
「おや。勘違いされては困ります。私は殿下の敵ではありませんよ。
私は、我が主人が《誰を》選ぼうが構いません。
我が主人の気持ちが一番です。
《誰か》に誘導する気もない。
そんなことをすれば義弟に殺されますからね」
「……シンは本当に良い義兄を持ったようだね」
「お褒めいただき光栄です」
サージアズ卿はあっさり「それでは」と、言って去ろうとしたので告げてみる。
「シンには会っていかないのかな?今は訓練に出ているよ」
「すでに領地に戻ることは告げてありますので不要でしょう。
私はそこまで義弟にべったりではありませんので」
「よく言う」
「それよりこうして殿下とお話ができてよかったです。
《敵》と認識され、我が主人に近づくたびに睨まれてはたまりませんからね」
「……見定めていただけだよ。貴方がチヒロにどう接するのかをね」
「そうでしたか。それは失礼をいたしました。
――では、我が主人に挨拶して私は領地へ戻りますが。
我が主人をくれぐれもよろしくお願いします。
気をつけてくださいね。
――秘するばかりでは、大切なものを失いますよ?」
「―――――」
言葉を失った。
扉へと向かうサージアズ卿の後ろ姿を、僕はただ見つめることしかできなかった。
そのまま出ていくかと思ったサージアズ卿だったが、何故かくるりと振り返った。
「――ああ。そういえば、我が主人が面白いことを言っておられました。
国王陛下には、自分に向けられた表情をそのまま返す癖がおありだそうです」
「は?」
「もちろん、意識して表情を作られている時は違うでしょうが。
無意識の時は出るみたいですね。
例えば顔を見た瞬間など。
無には無を。怒りには怒りを。
――笑顔には笑顔を返されるそうですよ」
「―――――」
「誰かに笑いかけることなど滅多にない陛下が、我が主人には笑顔を向けられるので。
コツでもあるのかと我が主人に尋ねましたら、そう言っておられました。
我が主人は、陛下が《顔をあげられよ》と言い終わるかどうか、というところを狙って笑顔で顔をあげるそうです。
《先手必勝だ》とおっしゃってました」
「サージアズ卿、主人との会話は――。……いや。いい。……ありがとう」
サージアズ卿は優雅に一礼をすると執務室を後にした。
僕は力なく笑った。
「―――なんて人だ」
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