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1000年目

74 始まり 空の独白3 ※空

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 ※※※ 空 ※※※



高度な技術を持って手に入れた私たちの寿命は1000年。
きっかり1000年なのだから旅立つ日も、時間もわかる。

だから私だけが残ることは分かっていた。
『空』の仲間の中で、私は飛び抜けて若かったのだ。

私だけが地上ではなく、空で生まれた。

私は『空』の仲間が三人寿命を迎えた時に《種》から作られた。
そして1000年の寿命を得る《身体》をもらった者だ。

それは最後の《身体》だった。

丈夫で滅多に怪我や病気をすることなく、ほぼ老いることもなく、1000年という長い時を生きられる《身体》。

もう残ってはいないし、空では作ることもできない。


最後の《身体》をもらって『空』となった私には役目があった。


旅立つ仲間を見送ること。

それと、もうひとつ。

旅立つその日まで、最後の『空』として地上を見守り続けること―――


それが最後に生まれた私に与えられた、重要な大切な《使命》だった。

 
仲間を全員見送り、私は一人になった。

当たり前だが、一人の時間は仲間がいた時よりも長く感じた。
話せる相手のいないことを残念に思うこともあった。


……解決する方法がなかったわけではない。

『ヒトガタ』を作って仲間の《魂》を入れれば、彼らは《記憶》を持ったままここに――空に戻ってくる。

それはわかっていた。
私だけでなく『空』の全員がわかっていた。

だが、私を含めて『空』の誰もそれを望まなかった。
『空』として生きていたことを忘れ、別の人間に生まれ変わる方を望んだ。


当然だ。

『ヒトガタ』として生まれ変われば、地上の人間たちと同じわずか100年ほどの寿命を生きることになる。
その10倍の《1000年》を生きた、『空』であった記憶を持ちながら。

恐ろしくない方がおかしい。


私は仲間を『ヒトガタ』として呼び戻すことはしなかった。
一人で空にいることを決めた。

1000年の寿命が尽き、旅立つその日まで。

与えられた《使命》を全うすることにしたのだ。


悪い話ではない。
私の寿命は、残り時間だけでも地上の人間より遥かに長い。

その間、仲間と作った地上を存分に見守ることができる。


幸せではないか。


誰もいなくなった《空の空間》で、私は地上を眺め続けた。

青い空、たなびく雲。
穏やかな海、澄んだ湖。
こんこんと湧く水、流れる川。
緑の草木。
様々な形、色の花々。
若い実、熟れた実。
昆虫、鳥、動物
そして、人間たち。

何を見ても面白かった。

行ってみたいとは思わなかった。

《禁忌》だから、だけではない。

1000年の寿命と引き換えに得た身体は《人工的》なものだ。
《カラクリ》に近い。


私は自然だけの地上には相応しくない。


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