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1000年目
73 始まり 空の独白2 ※空
しおりを挟む※※※ 空 ※※※
地上はくるくる変わる。
私たちは地上に夢中になった。
だが成功ばかりだったわけではない。
失敗もあった。
まず、そのうち地上の様子から『ヒトガタ』が使う言語が様々だとわかった。
私たちは全ての言語を同じように理解するので、気がつかなかった。
どうやら《別の世界》では様々な言語があったらしい。
そのせいだろう。
地上の人間たちの中に、ぽつりぽつりと別れて暮らす者が出始めた。
同じ言語を使う者同士で集まるようだ。当然だった。
言語が通じないのは不便だ。
他にも、怪我や病の治療がろくに出来ていないのも気になった。
別々の言語を使う者たちがわかり合う為には、別の言語を理解する者が必要だ。
《カラクリ》のない地上では完璧な薬を作れないだろうが、薬は必要だ。
私たちは《自分達が持つ能力》をつけた『ヒトガタ』を降ろすことにした。
全ての言語を同じように理解する『全語』。
怪我や病が色として見え、薬を作れる『仁眼』。
《別の世界》の高い知識を持った魂は圧倒的に男性が多かったため、これまで地上に降ろす『ヒトガタ』は《男性》に決めてあった。
そんな『ヒトガタ』達とは別の役割を担ってもらうのだ。
『全語』と『仁眼』を《つける》のは女性の『ヒトガタ』にすることにした。
女性の『ヒトガタ』に入れるのも《別の世界》から帰ってきた魂だ。
だが地上を大きく変化させてしまうほどの高い知識があるわけではないので、観察する必要がない。
それに『全語』と『仁眼』ですぐに『ヒトガタ』だとわかる。
だから女性の『ヒトガタ』は男性のように髪と瞳を漆黒に統一はしなかった。
男性の『ヒトガタ』固有の色と決めた漆黒とは違い遺伝しても問題がない。
女性の『ヒトガタ』の作成を担当した仲間は様々な色を『ヒトガタ』に与えた。
黄金色、銀色、茶色、オレンジ色、赤色、そして白色。
そして私たちは『全語』と『仁眼』をつけた女性の『ヒトガタ』を地上に降ろした。
……しかし思った通りにはいかないものだ。
『全語』はたいして必要とされなかった。
『全語』があると言葉の《違い》を意識できない。
己は全ての言語が使えても、別の者に《教える》ことが出来ないのだ。
だからだろうか。
地上で違う言語を《体得》し、それを別の者に《教えられる》人間の方が重宝されていた。
『仁眼』の方は、最初のうちは《つけて》良かったと思った。
女性の『ヒトガタ』たちは『仁眼』を使い怪我や病に効く薬を作り広めてくれたから。
しかし時間が経つと、やはり失敗だったと思えた。
治療を《カラクリ》に頼っていた私たちは、『仁眼』に《治療する力》もある事を軽く考えていた。
『仁眼』をつけた『ヒトガタ』が、まさか他人の為に《自分の命》を使って《治療する》とは思わなかったのだ。
私たちの10分の1。
たった100年の寿命しか持たせていないのに。
案の定『仁眼』を《治療する》ことに使った『ヒトガタ』は数年で亡くなった。
私たちは知った。
やはり地上に自分たちの《人工的な能力》を降ろしても上手くはいかないのだ。
《医術の芽》は女性の『ヒトガタ』が植えてくれた。
これからは地上の人間たちがそれを育てていってくれるだろう。
もう『全語』と『仁眼』をつけた女性の『ヒトガタ』は必要ない。
そう結論づけて。
それ以降『全語』と『仁眼』をつけた女性の『ヒトガタ』は作らないことにした。
女性の『ヒトガタ』を作った仲間は肩を落としていた。
地上はくるくる変わる。
村ができ、町ができ、やがて国ができる。
どんどん発展し変わっていく。
喧嘩、争い、戦。
場所や形を変えまた村ができ、町ができ、新しい国ができる。
海、陸、生き物。
地上は変わる。
地上の変化は面白かった。
人間たちにはその発展に合わせて、
農耕・酪農・治水
鍛治・窯造・酒造
医療・学問・印刷
建築・商法・造船など
色んな知識を持つ『ヒトガタ』を降ろしてやった。
まるで地上の人間が、育てた花に水をやる様に。
私たちは地上の人間たちに『ヒトガタ』を与えた。
『ヒトガタ』の持つ知識が拍車をかけ、地上はあり得ない速さで発展していく。
その中の一人の『ヒトガタ』は、やがて地上の人間の長となり、王になった。
王には今後100年に一度、『ヒトガタ』を降ろすための儀式を教えた。
この世界と《別の世界》は時間の進み方が違う。
遅くなったり速くなったり。
速度は一定しなかったが、断然《別の世界》の方が時間の進みが早かった。
そのために
《別の世界》は《カラクリ》を使うほど発展してしまったのだ。
我々から見れば拙い《カラクリ》ではあるが、それでももうこの世界の地上に降ろせるような知識ではない。
《別の世界》からこの世界の地上に降ろせる知識を持って戻る魂はいなくなった。
今後地上に降ろせるのは《カラクリ》がなかった頃の《別の世界》で一生を過ごし、戻ってきてから生まれ変わらず空で眠っている魂のみだ。
つまり残りは数少ない。
ただでさえ《別の世界》に渡る魂は、ほんの僅かだったのだ。
『ヒトガタ』を地上に降ろせなくなるのは時間の問題だった。
そこで今後は100年に一度、『ヒトガタ』を降ろすことにした。
初めて地上の人間たちが行った儀式で森の祭壇へ降ろした『ヒトガタ』は、高い建築技術を持った者だった。
地上の人間たちは『空の子』様が現れたと歓喜していた。
地上の人間たちは我々空の住人を『空』と呼び、『ヒトガタ』を『空の子』様と呼んだ。
言い得て妙だ。
『空』の皆で笑った。
くるくる様子の変わる地上に『空』の皆は、夢中だった。
地上は私たち『空』が育てたものなのだから当然だ。
しかし
いくら1000年の寿命をもってしても時には勝てない。
仲間はどんどん減っていき……いつしか
残ったのは私だけになっていた。
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