この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

文字の大きさ
180 / 197
1000年目

72 始まり 空の独白1 ※空

しおりを挟む



 ※※※ 空 ※※※



私たちの世界が滅んだ。


《空》にいて生き残ったみんなで、何も無くなった地上を《作る》ことにした。

100年かけ地上を再生させて。

それから微生物、植物、そして動物を《種》から育て地上に降ろした。

古代の《種》は無かったから、新しい物になった。
特に《植物の種》は改良に改良を重ねた最新のものになったが、それも良しとした。

それが落ち着くと、今度は人間を降ろすことにした。

人間を降ろすのは難しかった。

《種》はある。
人間は作れる。

しかし今の何もない地上で生きていく《知識》を与えてはやれない。

自分たちには高度な文明の知識しかないのだ。
精密な《カラクリ》を使って生きる知識しかない。

精密な《カラクリ》を《作る》知識もない。

ましてや自然しかない地上で生きる遥か太古の知識。
そんなもの誰も持っていなかった。誰も何も知らないのだ。

この世界で眠っている魂も同じだった。

眠る前の、現世の記憶も精密な《カラクリ》のある世界。
生き残った《空》の私たちにも、眠っている魂にも、精密な《カラクリ》なしで生きた記憶はもうないのだ。


考えた私たちは《別の世界》から帰ってきた魂に頼ることにした。


どういうわけか、ここではない《別の世界》。
まだ《カラクリ》のない世界で生きて、死んで。
再びこの世界に《戻ってきた》魂。

その魂が持つ《記憶》こそ、今の地上で生きる人間に必要なのだ。


私たちは《別の世界》から戻った魂を地上に降ろすことにした。


《種》から育てた人間には勝手に魂が宿る。

だから私たちは『ヒトガタ』を作った。

身体の構造は《基本的に》人間と同じにして。
《選んだ魂》を入れることができる《器》を――『ヒトガタ』を作った。

ひと目で『ヒトガタ』だとわかるようにようにした。
『ヒトガタ』の髪と瞳を、この世界ではありえない《漆黒》にしたのだ。
遺伝も《させない》。

喋れない赤ん坊でも、寿命がすぐきてしまう歳でも困る。
10歳程度の『ヒトガタ』を作って、前世の《別の世界で生きた記憶》を持つ魂を入れた。

人工的に《入れる》からだろうか。

都合の良いことに、『ヒトガタ』に入れた魂は《種》から育てた人間に宿る魂と違って、前世の記憶を忘れはしなかった。

地上に《種》から育てた人間と、《前世の知識》のある『ヒトガタ』を降ろす。

『ヒトガタ』の先導のもと、《種》の人間と『ヒトガタ』は、共に工夫を凝らしながら地上に馴染んで生きていった。

それを見るのは楽しかった。

『ヒトガタ』が、《カラクリ》もないのに火をおこした時には感動した。
《種》の人間が、すぐにそれを真似て火をおこした時には驚いた。
《種》の人間が、《カラクリ》から作られたものでなく、はえていた木や草の実を食べた時も驚いた。
『ヒトガタ』が、食べられる草の実の種を綺麗に並べて土に入れ、畑を作ったのには驚愕した。

地上はくるくる変わる。

《空》の皆で飽きもせず地上を眺めた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...