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1000年目
71 対話 ※空
しおりを挟む※※※ 空 ※※※
「シンの言った通りですか?」
チヒロはベッドに腰掛けながらひとり話し始めた。
「私をずっと見てくれているのですか?」
チヒロに見えるはずもない。
けれど私は……頷いた。
「……もうずっとお願いしているのに。
会ってもらえないのには相応の理由があるのですか?」
もう一度、頷いた。
「そうじゃなかったらかなり頑固者ですよね。
私が毎日、こんなにお願いしているのに」
少し笑う。
……君の方が相当だと思うな……
どうして君は諦めないのだろう。
私の存在を、はっきり認識できているわけではないだろうに……
「私の声は聞こえているんでしょう?
私があなたに《シンのご両親の話》をしたら、ジルが《お料理の匂い》をつけてきたわ。
……あなたの仕業でしょう?ジルはあなたの《使い》なんでしょう?」
……するどいね……
「私も……でしょう?」
…………え?
「私もあなたの《使い》でしょう?
この世界から死病をなくす使命を持った『空』の《使い》」
君は《使い》ではないんだよ。
それに私は、君に使命など与えてはいない。
しかし、そうだと思わせてしまうことを私はしたのだろうね。
《東の宮》の小さな王子のマグカップに、死病の原因である《あの虫》を入れたのは私だ。
君が死病の原因に気づくきっかけになれば、と……
テオが死病に罹り、君の『仁眼』が目覚めた。
君は死病をなんとかしようと動き出した。
嬉しかったよ。
死病をなんとかしたかったのは私もなんだ。
でも君を利用する形になって申し訳ない。
君は本当に良くやってくれた。
君の《予防》という考えが広まっていけば死病は防げるだろう。
ありがとう。
《あの虫》は地上に降ろすつもりのなかった異物だったんだ。
けれど私も、仲間も、些細なことだと放っておいてしまった。
気付いた時には地上中に広がった後だったから。
他の生物の食餌、土壌の栄養など《あの虫》がいると良い点もあったから。
《あの虫》は通常、成虫になるのに小動物の身体を一時使うだけの無害な虫だから。
そんな言い訳をして、念のため薬の原料となる植物を地上に降ろして終わりにした。
そう心配することではない。
《あの虫》が成虫になるのに人を使う《毒》を持つのは、水辺近くの土の中に産み落とされた卵のうちに、人の鮮血を大量に浴びた時だけだ。
それに《あの虫》が《毒》を持った幼虫になっても《仲間が入っていない人の身体》に入れなければ死んでしまうだけ。
人が争いでもして大量に血を流さなければ憂いはない、と。
……私たちが何とかすべきだったのだろう。
私が見ていない間に、あの少年――シンが《あの虫》の毒に侵され死病になって私は、はじめて後悔した。
命は助かったが……父母と別れてしまったシンは変わってしまった。
それまでは元気でよく笑う少年だったのに。
シンの父母も変わった。
それまでよりもさらに山の奥深くで暮らすようになってやはり笑顔が減った。
君がシンの父母のことをサージアズ卿に聞き、私に言ったからジルを使った。
しかしシンの父母は、ジルの姿を見ても泣くばかり。
シンに会いに行こうとはしない。
そしてシンは、ジルが父母の所に行っていることに全く気づきはしなかった。
ジルに喋る《機能》を付けなかったことを後悔までしたよ。
そんなことをしたら大変なことになるだろうに……。
君が気づいてくれて良かった。
そして君は、シンも変えてくれた。
―――ありがとう。
「シンが言ったように。いつも私を見てくれていますか?」
もちろん……
「ずっと、毎日祈っている声も届いてますよね?」
……ああ。
「……どんな理由があって会ってもらえないのですか?」
……私は……君に会う資格はないんだよ。
「――どうして《作った》のは私だったの?」
それは……
「お願い……答えて。なんて言ったら貴方に届くの?」
……だから私は……
「あ。―――お友達になってください」
―――――
「………駄目ですか?」
君は……変わらないね
「お願い。
あなたが会ってくれないのには理由があるのかもしれない。
けれど私はあなたに会いたい。
どんな方法でもいい。
どんな姿でもいい。
会いたいのです―――」
………どうして?
君は何故、それほど私を呼ぶ?
君は、もう地上で沢山の人間に囲まれているのに。
私のことなど気にする必要はないだろうに。
私はただ、君が幸せであればいい。
だから会わずにいよう。
会えば、会って私の話を聞けば、君が嫌な思いをするだけだ。
会って私が、どんなものだか知れば君は―――
私を、知れば君は…………
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