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1000年目
70 シンとチヒロ ※空
しおりを挟む※※※ 空 ※※※
シンがジルを撫で言った。
「チヒロ様。実は今日は私の《生まれた日》――《裏誕生日》なんです」
「え、そうだったの?おめでとう」
「ええ。良い祝いをありがとうございます。
――ですので、お返しをしますよ。何か欲しいものはありますか?」
「お返し?……なんでもいいの?」
「ええ、私ができることでしたら」
「じゃあね……」
「はい」
チヒロは笑おうとして――失敗したようだ。
泣き笑いの顔になった。
「いなくならないで」
「――は?」
チヒロはシンに近づくとその服をぎゅっと掴んだ。
シンが呆気に取られる。
チヒロがシンの服に頭を押しつけるようにしてうつむき、もう一度言った。
「いなくならないで」
思いを全て吐き出すように言う。
「前にも言ったでしょう?
隊長さんがふざけて……シンが私を庇った時、本当に怖かった。
シンに何かあったらどうしようって。怖くてたまらなかった」
「……」
「だからいなくならないで。お願い。
シンがいなくなったら私、どうしていいのかわからない」
「……チヒロ様」
「何?」
「……念のためお聞きしますが。私は、今日が《裏誕生日》だと言いましたが」
チヒロはきょとんとした顔を上げた。
「聞いたよ?おめでとう」
「……やはり《知らない》のですね。そうだと思いました」
「え?」
「なんでもありません。
――ですが、それが《裏誕生日》の日の私にする願いなのですね」
「うん」
シンは珍しく照れたように笑った。
「いいでしょう。貴女が望むなら。私は貴女から決して離れません。
それで良いのですね?」
「うん。約束ね」
「―――ええ。約束です」
シンはチヒロの髪をひと束すくった。
そして不思議そうに見ているチヒロに言った。
「漆黒は空の色です」
「え?」
「世界を包み、人を優しく眠りへと導く。
明日を生きる力を与える色。
それが漆黒です。
貴女はそれを『空』から与えられた。
貴女は誰よりも『空』に愛されている。
会えないのには相当な理由があるはずです。
しかし例え会えなくても『空』は常に貴女を見ている。
……『空』は貴女を愛している。
私は『空』を信じています」
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