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1000年目
88 物語の続き ※青
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『空』と呼ばれるものたちがいて、地上を見守っていた。
地上全体を。
環境を、生物を、
そして何より人間を。
それは昔、地上の人間に持たされた使命。
――― 地上を。人間を見守り続けること ―――
使命を与えた地上の人間たちがいなくなっても
『空』と呼ばれるものたちは、忠実にその使命を守っていた。
―――しかし
ある時、『空』と呼ばれるものたちは困った。
『空』と呼ばれるものたちの寿命は1000年。
永遠に地上を見守り続けることは出来ない。
だが新しく作った地上が、もう少し発展するまでは
安心して残せるところまでは、見守りたい。
だが寿命がそれを許さない。
望むところまで地上を見守るには新しい『仲間』が必要なのだ。
幸いなことに空には《緊急用に置いてあった様々な種》の他に、予備の《身体》もあった。
《あとひとり》なら『仲間』を作ることが出来る。
けれど
『自分たち』に『仲間』は作れない。
そこで『空』と呼ばれるものたちは、ひとつの《魂》に白羽の矢を立てた。
『空の子』で初めて地上の人間たちの王となった、
《100年に一度、『空の子』を降ろすための儀式》を教え、人々に伝えさせた者の《魂》。
『空』と呼ばれるものたちは『ヒトガタ』を作ってその《魂》を入れた。
そして空で目覚めた『ヒトガタ』に、新しい『仲間』を作って欲しいと頼んだ。
『ヒトガタ』は『空』と呼ばれるものたちと過ごし、最期に《最後の『空』》を作った。
―――《自身の記憶》を《最後の『空』》に与えて。
そうして『ヒトガタ』は生を終えたのだ。
◆◇◆◇◆
――「『彼』も生まれ変わるのね。貴方のように。……今度は地上に」――
彼女にそう言われた時は返事が出来なかった。
……彼女に言わなくて良かったな。
あれは《カラクリ》だと。
前世の《私》の《記憶》を持った《カラクリ》なのだと―――――
彼女が『空の子』として降りて来た時、私は確信した。
『空』は今、『あいつ』一人なのだと。
そして『あいつ』の寿命は、あと僅かなのだと。
《前前世が『空の子』であり、地上の人間たちの王であった》とか、
《前世は『お前』を作るために空で暮らした『ヒトガタ』であった》とか
持たせられない《記憶》は『空』たちが《省いた》だろうから、
《最後の『空』》――『あいつ』にどのくらい正確に《私》の記憶が複製されているのかはわからない。
しかし『あいつ』は《彼女》を《特別》だと認識した。
寿命が残り僅かとなった『あいつ』は《彼女》を望み、
一緒にいられる時がないから地上へ降ろしたのだ。
そして三日前、彼女に別れを告げにきた。
……それは私の思った通りだった。
《義弟》という《お気に入りの人間》を作った理由だけは私にもわからないが。
…………まさか彼女の夫に、と思っていたのだろうか。
まあ……それはいいとして。
―――さて。
《最後の『空』》――『あいつ』はどうしただろうか。
空に戻った『あいつ』は《沈黙の部屋》と呼ばれる部屋へ入る。
寝台に身体を横たえ、そして寿命の時間が来て動かなくなる。
《終わる》はずだ。
他の『空』たちと同じように。
その前にどんな行動をとるだろう。
粛々と、ただ《沈黙の部屋》へ入るだろうか。……いいや。
最期にもう一度、彼女を見るのではないだろうか。
彼女を見たらどう感じるだろう。
『自分』と別れたことが辛いと泣き続けている彼女を見たら。
どういう行動を取っただろう。
『空』と呼ばれる《カラクリ》たちには幾つかの《制限》があった。
人間を傷付けないこと。
人間を平等に扱うこと。
そして
自分達の複製を作らないこと。
人間を決して傷付けることなどないように。
個人の命令で動かないように。
そして
《カラクリ》達が勝手に暴走しないように。
大昔―――
《カラクリ》を作り出した人間が空に置いた《カラクリ》につけた《制限》。
だが『あいつ』はそれを破っている。
太古の人間が《作った》完璧な『空』たちとは、何か違ったのだろう。
『あいつ』は《義弟》という《お気に入り》の人間を持った。
『ジル』という神獣型の《カラクリ》を寄越すほどの。
《彼女》という《特別》な人間を持った。
『ジル』と『シラユキ』という彼女を生涯《守るもの》をつけるほどの。
そして『空』の『仲間』が決めたことも破っている。
王女ではなく、王子に《儀式》を許した。
封印した《女性》の『空の子』を作って地上に降ろした。
そんな『あいつ』が『自分』の為に泣き続ける彼女を見ても
ただ大人しく規律を守り、《沈黙の部屋》で《終わる》ことができただろうか。
『あいつ』はどうしただろう。
《寿命》を延ばすことは不可能だ。
《身体》はないから《複製》は作れない。
だが……自分の《記憶》を《他のもの》に複製することは……?
『あいつ』は気がついたのではないだろうか。
『自分』の為に泣き続ける彼女を見て
どうにか《そばにいたい》とは思わなかっただろうか。
『ジル』と『シラユキ』は今、
本当に《自動で》動いているだけ、だろうか―――――。
「『分身』め」
当然かもしれないが、自分と《似ていて》なんとも腹立たしい。
《彼女》を《特別》だと認識しただと?
《彼女》を《特別》に思っていたのは私だ。
《彼女》は王だった時の私の、唯一の《娘》だったのだから。
《魂を見るカラクリ》があった。
前世、空にいた《私》はそれを使って生まれ変わった《娘》を探し出し、見守っていた。
最初に見た《娘》――《彼女》は老婆になっていた。
いつも微笑みを浮かべているところは私の《娘》であった時と変わらなかった。
その、《私》の《記憶》を『あいつ』は受け継いだ。
《彼女》に目がいく理由は知らなかっただろうが、
それでも《娘》を――《彼女》を探し、見ていたのだろう。
多分、ずっと。
自分の寿命が尽きるまで
1000年の間。
ため息が出た。
玄関から外に出る。
まだ真夜中と言って良い時間ではある。
それでも空は夜明けの準備をはじめたように感じた。
そう待たずとも、空は白み始めるだろう。
もうあの『空』たちのいない空だ。
意味のない鎮魂の祈りを、それでも捧げる。
そして私は歩き出した。
新しい今日が始まる―――――
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