195 / 197
1000年目
87 物語 ※青
しおりを挟む※※※ 青 ※※※
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昔々のお話です。
地上が滅び、《空にいたもの》たちだけが残されました。
そこで《空にいたもの》たちは、地上を作ることにします。
地上を元通りにしようとしたのです。
しかし問題がありました。
地上を元通りにするには、気の遠くなるような長い年月が必要だったのです。
ですが《空にいたもの》たちにその時間はありません。
《空にいたもの》たちは長寿でしたが、永遠ではありませんでしたから。
作ったばかりの地上を見ながら《空にいたもの》たちは考えました。
自分たちが地上を元通りにする時間はない。
途中まで見守ることしかできない。
ならば安心して残せるところまで地上を発展させられないだろうか。
―――全員が寿命を迎え、地上を見守るものがいなくなるその日までに、出来るだけ地上を発展させることは出来ないだろうか―――
《空にいたもの》たちは《別の世界から戻った人間》に頼むことにしました。
別の世界の《知識》を使って、地上を発展させてもらうことにしたのです。
《別の世界から戻った人間》のおかげで、地上はどんどん発展していきました。
そして《空にいたもの》たちが《安心して残していける》ところまで、地上を発展させることができたのです。
間に合ったのですよ。
《空にいたもの》たちの望みは叶った。
最後のひとりだった《空にいたもの》も、満足して眠りについたことでしょう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……それ、本当?」
それまで黙って私の話を聞いていた彼女が言った。
彼女の座っているベッドの横で、私は首を傾げてみせた。
「さあ、どうでしょう。なにせ《物語》ですから」
小さなランプひとつだけが灯る部屋。
色白の彼女の姿が、まるで浮かび上がるように見えていた。
その漆黒の瞳が縋るように私を見つめている。
「……何故、その《物語》を知ってるの?」
「何故でしょう。《昔》知ったのかもしれませんね」
「《昔》の《思い出》が、貴方にもあるの?私と同じように」
「ええ。不思議ですが。どうやらそのようです」
彼女は息を呑んだ。
「……その《最後のひとり》を……貴方は知っているの?」
「ええ。とても良く、ね」
涙の跡が残る彼女の顔が少し綻ぶ。
「……そう。良かった……」
「良かった、ですか?」
「うん。『彼』に仲間がいて。
ずっと《ひとりぼっち》だったんじゃなくて」
「そうですか」
溢れてきた涙を手で押さえながら、それでも彼女は微笑んだ。
「《物語》を話しにきてくれてありがとう。聞けて良かった。
あ、でも誰にも言わない方がいい?」
「そうですね。女性の寝室に入って良いのは夫か父親のみですので。
私が来たことは内緒にしていただけると助かります」
「じゃあエリサにも言っておかなくちゃ」
「ああ、エリサさんに言う必要はありませんよ。
今は隣のお部屋で良く眠っておられますから」
「眠って?」
「ええ。大丈夫、《お酒》を飲まれたわけではありません。
すぐに目を覚まされますよ。エリサさんは大丈夫です。
ですので、私がこうして来たことも、《物語》のことも貴女と私。
そしてジル殿と、《シラユキ》だけの秘密にしましょう」
「え?……白雪?」
「はい。
ラファールは巣立ちまで巣の中の雛を見せませんが、鳴き声は聞こえます。
《シロ》の雛は《2羽》のはずでした」
「……じゃあ。白雪は……」
彼女の瞳が見る見る輝きを取り戻す。
私は微笑んだ。
「ラファールの寿命は長い。
貴女のそばにいますよ。ずっとね」
彼女は一瞬笑った。
だが目にはまた涙が溢れだす。
溢れる涙を手で拭いてやろうとし――だが、やめてハンカチを渡す。
彼女はお礼を言って受け取り、それで涙を拭いた。
「さあ、そろそろお休みになってください。
もう三日もろくに寝ていないのでしょう?」
「……影?」
「はい」
「凄い」と言って彼女は笑った。
それから安心したように大きく息を吐いた。
『仁眼』を持つ彼女に《薬》を使えば気づかれる。
どうしたものかと思っていたが、必要はなかったらしい。
限界だったようだ。
ゆらりと小さく華奢な身体が揺れた。
まぶたも重くなったのだろう。長いまつ毛が伏せられた瞳を覆う。
「どうぞ。眠ってください、我が主人」
促せば彼女は「うん」と返事をして身体を横たえた。
その身に布団を掛けてやる。
と。
彼女は噛み締めるように、言った。
「『彼』も生まれ変わるのね。貴方のように。……今度は地上に」
「…………」
「アズ。もう少し、ここにいてくれる?」
「もちろんです。私は貴女の《盾》。
貴女が安心して眠るまで、ここにおりますよ」
「ふふ。嬉しい……まるで《お父さん》みたい……」
「……我が主人?」
返事はなかった。
彼女はもう夢の住人のようだ。
無防備なその寝顔を見て、私は小さく笑った。
「……本当に貴女は。勘だけはいい」
彼女の寝室を出るとそこには思っていた通り、義弟が立っていた。
呆然とした顔が可笑しかった。
「やはりお前には気づかれたか」
「義兄上……今の話は……」
「聞いていただろう?
ただの《物語》だ。眠れない《子ども》に聞かせた、お伽噺。
気にするようなものでも、《子ども》以外に話すようなものではない。
《わかる》だろう?」
人々は《敬う対象》を失った。
彼女は《最大の守護者》を失った。
誰も知らない方がいい話だ。
「……はい」
正確に理解しているのだろう義弟は頷いた。
そして唇を噛んだ。
そこにあるのは《最大の守護者》を失った彼女を、自分が絶対に守りきるのだという覚悟か。
それとも、
彼女の嘆きを、どうすることも出来なかった自分への怒りか。
私に対する嫉妬か。
――― 『空』はもう、いない ―――
『空』を敬う地上の人間には言えなかった痛み。
ひとり抱えた彼女が泣くために籠ったのは寝室だった。
少女とはいえ、女性の寝室に男が入ることは許されない。
たとえそこがこの、自分の屋敷内であっても、だ。
入ることが出来るのは彼女の夫か、父親のみ。
頼みのエリサにも理由を言わず、ただ泣き続けた彼女に近づけもしなかった口惜しさは相当なものであっただろうな。
私は苦笑しつつ、義弟を残し玄関へと向かった。
3
あなたにおすすめの小説
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
どんなあなたでも愛してる。
piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー
騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。
どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか?
※全四話+後日談一話。
※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。
※なろうにも投稿しています。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる