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一度目

11 最期

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ドリスが何故、全てを私に打ち明けたのか。
私は気づいていた。

《西の大国の王女》が――私が産んだ子は、この国の国王となった。
この国を乗っ取ることに成功した。

私の役目は……終わったのだ。

このまま置いておいても邪魔にしかならない偽物の王女を――私を、もう生かしておく必要は、ない。
西の大国の国王様は――お父様は、そう判断されたのだ。

夜、いつもと変わらず就寝し、朝には《何故か》目覚めなかった。
国母の私を消すなら、その方法が一番いいだろう。

そんな私の考えは間違っていなかった。


セオが私の部屋へやってきたのはその夜だった。

私は黙って彼を迎えた。
嬉しかった。

この国にきてすぐに、死のうと思った。
でも彼のために私は生きた。

だから誰かの手にかかるなら、彼がいい。
たとえ、お父様に命じられて私に近づき、私を好きなふりをしていた人だとしても。
殺されるのなら、彼にがいい―――。


けれど、セオのきた理由は全く違った。


「逃げよう」とセオは私の手を取った。

「逃げよう、カタリナ。
もうすぐドリスがお前を殺しにくる。
だから……俺と一緒に、逃げよう。」

それから言った。

「ドリスから全て聞いたのだろう?
……すまなかった。ドリスの言ったことは本当だ。
我が国王陛下はこの国を乗っ取るために、お前をこの国の王妃にした。
そして、お前がちゃんと従うように……我が国王陛下は俺に、お前の唯一になれと命じられた。
俺はそれで……お前に近づいたんだ。だが―――」

「……だが?」

「俺はいつの間にか……本当にお前を好きになってしまった。
お前が俺にだけ笑うのが、たまらなく嬉しかった。
お前に俺を知って欲しくて、生い立ちまで話した。
俺の故郷で、俺の好きな果物をお前に食べてもらいたいと思った。
流行り病で亡くなった家族の墓に、一緒に行って欲しいと思った。
……あとは。
この国の国王だったあいつのところになんか行かせたくなかった。
……一目見て。子が俺の子だとわかった時は。それは、まずいとは思ったけど……幸せで。涙が止まらなくなった」

「―――――」

「カタリナ……」

私はセオに抱きついた。
セオが言ったのと同じ。嬉しくて、幸せで。涙が止まらなかった。


空っぽで、嘘ばかりだった私はやっと
満ちたりて、真実を得たのだ。


セオは私をきつく抱きしめて。
「行こう」と言った。

私は頷き、セオについて行った。


―――だけど。
やめておくべきだった。

セオ一人なら、容易に抜け出せただろうに。
私が一緒だったせいですぐに見つかった。

私たちは走って逃げた。行けるところまで。
セオは強かった。
追ってくる人を何人も倒した。その中にはドリスもいた。

―――それでも限界がある。


セオは討ち取られ、私は毒を渡された。

赤い髪と瞳の兵士たちが見守る中、私は喜んで毒を飲んだ。
セオを追って逝けるのが嬉しかった。

心残りがあるとすればあの子……でも。

ごめんね。お母様は貴方の本当のお父様と逝く。
ごめんね。一人残すことになって。


―――また会えますように。

冷たくなったセオに最期のキスをして、私は目を閉じた。


こうして、私は、命を終えた―――――。


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