私の幸せは貴方が側にいないこと【第二章まで完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)

文字の大きさ
9 / 54
第一章

09 決意

しおりを挟む


私の話を聞きながら紡いだ糸をお婆さんが織っていく。
もちろん、まだはじめたばかり。

ほんのさわり部分だけ。それでもわかる。

お婆さんが言ったのは《こういう》ことだったのか。
目にしてようやく理解できた。

お婆さんの手によって、私の話を聞きながら紡いだ糸が織られていく。
私が話した、私の生きた記憶が形になっていく。

《見える》わけではない。《聞こえる》わけでもない。
ただ、感じる。


―――《これ》は私の記憶だと。


目が離せなかった。
私はお婆さんが織っている手元を見たまま聞く。

「お婆さん……本当は何者なのですか」

「私は占い師だよ」

「それは嘘でしょう?こんなことができるなんて……それに結界も……。
お婆さんは……もしかしたら魔女ですか?」

「そう呼ばれたこともあったねえ」

お婆さんが笑った。

「占い師、魔女、巫女。その時々に、色々な名で呼ばれたよ。でも私は私。
そこはお前さんと似ているのかもしれないね」

「その時々……」

その可能性に気づく。

「もしかしたら……お婆さんも《竜》ですか」

「やっと気づいたのかい」

お婆さんはまた笑った。

「そうさ、私も《竜》」

「お婆さんも……。じゃあ、クルスさんも《竜》ですか」

「そうだよ。あれは《竜気》を持たない《竜》」

「《竜気》を……持たない?」

「そう。《竜気》は《竜》の……まあ、香りみたいなものだ。
クルスにはそれがない。
だからクルスはこの家――《結界》から出入りしても王子に気付かれない。

まあ転生を繰り返した《竜王》――王子に《番》であるお前さん以外の《竜気》が読めるかどうかはわからないけれどね。
用心のため、使いはクルスに頼んでいるのさ」

「《竜気》を持たない《竜》だから……」

「そうだよ。珍しいんだ、クルスみたいなのは。
《竜気》を持たないだけで、普通の《竜》となんら変わりはないんだけどね。
ああ、あと――《感情がない》と言われているよ」

「感情が……ない?」

「王子がクルスを見つけられないように、《竜気》のないクルスは他の《竜》にも見つからない。

そしてクルスも《見つけられない》んだよ。
《竜》を見つけるのに必要な《竜気》がないからね。

―――つまり《番》を探せないんだ。

《番》なしで、それでも生きる。生きられる。
それは《感情がない》からだ、と言うわけさ。
……本当かどうかは怪しいものだが……」

お婆さんはくく、と笑った。

「……お婆さんは……《結界》から出ない。つまり《竜気》があるんですね?」

「ああ、あるよ。ただし、私も《普通》じゃあない。竜になれない竜だからね」

「竜になれない?」

「人の姿しかとれないんだよ。生まれた時からね。占いも結界も。
そして《この力》もその反動のようなものだね」

そう言ったお婆さんが織っていくのは私の記憶。

ひとつの織物になっていく私の数えきれない転生の数々。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

生まれ変わって歩んだ生。

形になっていく《それ》を見て、どれひとつ、同じではないと気がついた。
その時々に、違う名前で呼ばれた《私》。

けれど、どの生でも変わらぬものがある。

私は必死、だった。

私に教養がないからかと教育を受けた。

私に社交性がないからかと話術を学んだ。

私に気品がないからかと礼儀作法を習い。

私の性格が合わないのかと自分を変えようと努力し。

私の評判が良くないからかと常に他人の目を気にし。


《番》なのに

彼に愛されるどころか見てももらえないのは私に原因があるからだと

私が彼に相応しい《番》になればきっと彼は愛してくれるだろうと

どの生でも

私は、必死、だった。

必死に向き合ってきた。


流れる涙を拭わず立つ。


―――会おう


逃げないで
彼に会って、話をしなくては。

私は覚悟を決めた。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

陛下を捨てた理由

甘糖むい
恋愛
美しく才能あふれる侯爵令嬢ジェニエルは、幼い頃から王子セオドールの婚約者として約束され、完璧な王妃教育を受けてきた。20歳で結婚した二人だったが、3年経っても子供に恵まれず、彼女には「問題がある」という噂が広がりはじめる始末。 そんな中、セオドールが「オリヴィア」という女性を王宮に連れてきたことで、夫婦の関係は一変し始める。 ※改定、追加や修正を予告なくする場合がございます。ご了承ください。

【完結】最後に貴方と。

たろ
恋愛
わたしの余命はあと半年。 貴方のために出来ることをしてわたしは死んでいきたい。 ただそれだけ。 愛する婚約者には好きな人がいる。二人のためにわたしは悪女になりこの世を去ろうと思います。 ◆病名がハッキリと出てしまいます。辛いと思われる方は読まないことをお勧めします ◆悲しい切ない話です。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...