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夢の園
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俺と楓柊花の関係が大きく動いたのは、舞台の千秋楽を終えて、打ち上げに参加したときのことだ。
「今回のスペシャルゲスト、振付のMASA先生!本当にありがとうございました。また、花蘭の振付に来てください。」
打ち上げの幹事にそう言われて、夢の園の仕事を終えたことを実感する。
「これで先生とはお別れですね、寂しいなぁ」
ひよりが女役らしいビジュアルとは異なる、さっぱりとした物言いで言った。
「本当に寂しいとは思ってないだろ?」
「そんなことないですよ!みんな先生の振りが大好きでしたから。」
俺の振付は客からも評判が良く、劇団の団員たちも気に入ってくれたようで、俺はやたらとちやほやされた。
男役が半分を占めているにせよ、若い女性が集うとやはり賑やかしい。
男性が少ない分、そこら辺の飲み会よりも、高い声があちこちで響く。
男性の俺にとっては、居心地が悪いと感じるくらいだ。
まるで女子校に紛れ込んだような気分だった。
とりあえず、酔いを覚まそうかと、俺は店のテラスで夜風に当たることにした。
次にこのメンバーと仕事をするのはいつになるのか…
妙な感慨に浸りながら、柄にもなくぼんやりと星なんか眺めてしまう。
後ろからは、賑やかな笑い声が聞こえてくるのだが、そんな声さえもシャットアウトされて、俺は俺の世界に浸っていた。
「今日で終わりですね」
甲高い女子たちの声とは異質な、低音の声が耳に響く。
心地よく響く、俺の好きな声だ。
「そうだなぁ。」
俺は平然を装って、声の主、柊花と会話する。
この半年で、俺は彼女に完全に取り込まれてしまったから、このまま別れるのは惜しい。
だが、彼女の立場を考えたら付き合うなんて到底できないし、想いを告げることさえ許されない気がする。
「いつもここが打ち上げ場所なんですよ。私の幼馴染が経営しているから、色々と融通が利くんです。大好きな場所だけど、外部の先生とか花蘭を辞める人たちとの別れの場でもあるから、ちょっと悲しい場所でもあるんです。」
人との関わりを大切に思う、彼女ならではの優しい発言だと思った。
「別れもあれば出会いもあるって、前向きになかなか捉えられなくて。お世話になった人と、もう仕事が出来ないのかもって思うと、打ち上げではいつもはしゃぐ気分になれなくて。」
今日の彼女は確かにいつもより大人しく、感慨深げだ。
「確かにいつもの威勢が無いなあ。」
「いつもの威勢って。そんなにいつも圧がありますか、わたし。」
柊花が驚いたように笑う。
「いや、パッと明るい…ってことだ。」
大したことは言っていないのに柊花に対して下心があると自覚しているせいか、何だか恥ずかしくなった。
行き場を失った手で、適当に鼻を掻いてごまかした。
柊花は「ありがとうございます。」と笑ったがそれ以上何も言わなかった。
「…ああ、そういえば」
この気まずい沈黙と埋めたくて、俺は話題を変えた。
「劇団の人間は、誰も君の本名を知らないのか?」
「知りません。私もみんなの本名は知らないんです。」
「すごいよな、それ。」
「不思議な感じがしますよね。毎日顔を合わせているのに名前は知らないなんて。」
少し寂し気に視線を落とした柊花。
「…教えてくれないよな。」
「え?」
「俺に本名を教えてくれたりしないよな?」
「…それは」
返答に困ったように、柊花が言葉を詰まらせる。
きっぱり断ってくれたら諦めがつくのに、と言いたくなる。
「いや、冗談。この仕事のちょっとした手土産が欲しかっただけだ。」
俺の言葉に、柊花は呆れたように笑った。
「私が仕事仲間に本名を教えることはありません。恋してしまえば、別ですけどね。」
俺が何も答えないからか、彼女は話題を変えた。
「ねえ先生。実は私、花蘭続けられないかもって思ってた時期があったんです。ちょうど1年くらい前から」
片手にワインを持って、テラスに身を預けて、静かに声を発する柊花。
その姿はまるで映画のワンシーンのように麗しい。
俺はうっかり見惚れてしまいそうになるのを制御して、相槌を打つ。
「ほら、個性がないんじゃないかって先生に話したじゃないですか。あれ昔からの悩みだったんですけど、一年前くらいからそのせいで、舞台を楽しめないくらいになっちゃって。踊りも歌もお芝居も、全部大好きだったのに、全部怖くなって。情けないけど、潮時かもって思っていたんです。かと言って、相談できる人もいないから一人でどんどん抱え込んじゃって、パンク寸前みたいな状況で…でもね、先生が私の個性を教えてくれたんです。」
柊花がゆっくりと丁寧に言葉を紡ぐ。
嘘でも大袈裟でもないような、言葉の発し方。
「先生ありがとう。」
少し震えたような声だ。
「いや、俺は何も。」
柊花の顔を見られなくて、俺は手にしていたビールを一気に流し込む。
「ただ、柊花はここで輝く人だってことは間違いないよ。それだけは保証する。ファンとして。」
紛れもない本心を、嘘臭くも寒くもならないように、本気で言った。一言ずつに思いを込めて。
人が本気で物を言う時、その思いは相手に自然と届くものだ。
「あーあ。」
いつの間にか、空になっているワイングラスを見つめながら、柊花が大きくため息をついた。
「なんだよ。」
「私が男役じゃなかったらなぁって。」
「ん?」
「ただの女だったらなぁ、なーんて。」
お酒に強いと噂の彼女の頬が真っ赤に染まっているのを見て、言葉の真偽を判断する。
柊花と視線が交錯する。
目の奥に強い光があって、逸らすことが出来ない。
周囲の音が消えて、彼女と俺だけがこの世界に取り残されたような気分になる。
柊花は笑っていない。
うっかり彼女の頬に手を伸ばしそうになる。
が、その瞬間に柊花の方から視線を外された。
止まった時が動き出して、周囲の音も戻って来た。
「お?本名を教える気になったってことか?」
動揺を悟られまいと冗談めかしてそう聞くと、「冗談冗談。冗談ですー。」と柊花は手を振りながら繰り返した。
「酒の力は、時に奇抜な冗談まで言わせるんだな。」
「あはは。」
彼女の乾いた笑い声が響く。
「…ちょっと良い気分だったから、冗談かましちゃいました」
赤い顔を手の甲で冷やしながら、柊花が言う。
「舞台のワンシーンみたいなセリフだったな。」
「じゃあ私、脚本家になれるかもしれないですね」
「ただし、ちょっと昔の脚本家だな。」
「古臭いってことですか?」
「まあ。」
「ひどーい!」
俺たちはそんな間柄になってはいけない。
彼女の男役としての輝かしい人生を、俺が潰すわけにはいかない。
そう思ったから、俺は彼女の言葉を冗談で流した。
機転が効くなんてレベルじゃない。
好きなオンナから、それらしいことを言われて、それで何もせずにいられるなんて、俺はきっと相当惚れている。
「じゃ、俺は中に戻るよ。」
うまく笑えていたからわからないが、それだけ言って、テラスを離れた。
柊花をこれ以上まともに見ることが出来なかった。
それから打ち上げが終わるまで、柊花とは一度も話さなかった。
打ち上げは終電に合わせて終わり、男役と女役が連れ立って帰っていく。
男役はホンモノの男性に見えるから、女役のボディガードになるらしく、「送っていくよ」とあちこちで同じ会話が繰り広げられる。本当の男女のようだ。
そんな中で、柊花は特に誰にも声をかけず、帰っていく面々に、ゆるゆると手を振っていた。
俺は明日から別の仕事を控えていたから、他の仕事でこの“危険な恋煩い”とやらを忘れたかった。
「じゃあ、元気でな。」
大多数が帰ったが、数人で残っていたので、柊花を含むその男役グループに声をかける。
「先生、ありがとうございました~!」
皆のケロッとした別れの挨拶に、俺も「随分さっぱりだな。じゃあまたどこかで。」と返す。
柊花の目は見ることができなかった。
彼女の声も聞こえなかった。
外に出ると、夢の世界から現実に戻ってきたような感覚になった。
街は静かだったが、それも当然だ。
というのも、今日は日曜日で、世間は明日からまた新たな一週間が始まるのだ。
夜の街が静かに明日から始まる現実を受け入れているのに、俺はそれに拮抗するように今日までの夢の日々を振り返った。
花蘭の団員の振付を依頼されたとき、正直断る気でいた。
女性同士で男女の振りを踊るとなると、双方が互いにより“男らしさ”“女らしさ”を強調しないと、男女の振りとして成立しない。
しかし、どちらも体は女性なので、筋肉の付き方も男性とは違う。
体の効く範囲が異なるし、男性よりも柔らかさが出てしまう。
それを、振付で如何に“男女”に見せられるかが課題となる。
それは、アイドルのような可愛らしい振付を多く担当してきた俺の得意分野ではないと感じた。
それに、花蘭をよく知らない俺が振り付けて良いのか、という疑問も生じていた。
だが、一度観劇をして俺の心はあっという間にこの世界に引き込まれた。
皆が本気で目を輝かせる“青春”そのもののようなこの世界はなんと美しいのだろうと。
舞台のクオリティ云々ではなく、俺は役者たちの舞台を楽しむ精神に魅せられた。
端で踊る団員さえ、体を目一杯使って歌い踊り、今を懸命に生きている。
純粋無垢にこの世界に陶酔する姿は、現実だけを見る傾向にある現代において異様な光景で、そして誰もが憧れているものだと思った。
その中でも特に、楓柊花の熱さは、忘れかけていた熱情を思い出させた。
もちろん振付をすることに不安があるのは否めなかったが、それでもこの世界に少しでも関わりたいと思った。
実際に関わってみて、俺はますますこの世界に、そして楓柊花に溺れていった。
その世界と彼女に別れを告げた今夜は、感傷に浸らざるを得ない。
「今回のスペシャルゲスト、振付のMASA先生!本当にありがとうございました。また、花蘭の振付に来てください。」
打ち上げの幹事にそう言われて、夢の園の仕事を終えたことを実感する。
「これで先生とはお別れですね、寂しいなぁ」
ひよりが女役らしいビジュアルとは異なる、さっぱりとした物言いで言った。
「本当に寂しいとは思ってないだろ?」
「そんなことないですよ!みんな先生の振りが大好きでしたから。」
俺の振付は客からも評判が良く、劇団の団員たちも気に入ってくれたようで、俺はやたらとちやほやされた。
男役が半分を占めているにせよ、若い女性が集うとやはり賑やかしい。
男性が少ない分、そこら辺の飲み会よりも、高い声があちこちで響く。
男性の俺にとっては、居心地が悪いと感じるくらいだ。
まるで女子校に紛れ込んだような気分だった。
とりあえず、酔いを覚まそうかと、俺は店のテラスで夜風に当たることにした。
次にこのメンバーと仕事をするのはいつになるのか…
妙な感慨に浸りながら、柄にもなくぼんやりと星なんか眺めてしまう。
後ろからは、賑やかな笑い声が聞こえてくるのだが、そんな声さえもシャットアウトされて、俺は俺の世界に浸っていた。
「今日で終わりですね」
甲高い女子たちの声とは異質な、低音の声が耳に響く。
心地よく響く、俺の好きな声だ。
「そうだなぁ。」
俺は平然を装って、声の主、柊花と会話する。
この半年で、俺は彼女に完全に取り込まれてしまったから、このまま別れるのは惜しい。
だが、彼女の立場を考えたら付き合うなんて到底できないし、想いを告げることさえ許されない気がする。
「いつもここが打ち上げ場所なんですよ。私の幼馴染が経営しているから、色々と融通が利くんです。大好きな場所だけど、外部の先生とか花蘭を辞める人たちとの別れの場でもあるから、ちょっと悲しい場所でもあるんです。」
人との関わりを大切に思う、彼女ならではの優しい発言だと思った。
「別れもあれば出会いもあるって、前向きになかなか捉えられなくて。お世話になった人と、もう仕事が出来ないのかもって思うと、打ち上げではいつもはしゃぐ気分になれなくて。」
今日の彼女は確かにいつもより大人しく、感慨深げだ。
「確かにいつもの威勢が無いなあ。」
「いつもの威勢って。そんなにいつも圧がありますか、わたし。」
柊花が驚いたように笑う。
「いや、パッと明るい…ってことだ。」
大したことは言っていないのに柊花に対して下心があると自覚しているせいか、何だか恥ずかしくなった。
行き場を失った手で、適当に鼻を掻いてごまかした。
柊花は「ありがとうございます。」と笑ったがそれ以上何も言わなかった。
「…ああ、そういえば」
この気まずい沈黙と埋めたくて、俺は話題を変えた。
「劇団の人間は、誰も君の本名を知らないのか?」
「知りません。私もみんなの本名は知らないんです。」
「すごいよな、それ。」
「不思議な感じがしますよね。毎日顔を合わせているのに名前は知らないなんて。」
少し寂し気に視線を落とした柊花。
「…教えてくれないよな。」
「え?」
「俺に本名を教えてくれたりしないよな?」
「…それは」
返答に困ったように、柊花が言葉を詰まらせる。
きっぱり断ってくれたら諦めがつくのに、と言いたくなる。
「いや、冗談。この仕事のちょっとした手土産が欲しかっただけだ。」
俺の言葉に、柊花は呆れたように笑った。
「私が仕事仲間に本名を教えることはありません。恋してしまえば、別ですけどね。」
俺が何も答えないからか、彼女は話題を変えた。
「ねえ先生。実は私、花蘭続けられないかもって思ってた時期があったんです。ちょうど1年くらい前から」
片手にワインを持って、テラスに身を預けて、静かに声を発する柊花。
その姿はまるで映画のワンシーンのように麗しい。
俺はうっかり見惚れてしまいそうになるのを制御して、相槌を打つ。
「ほら、個性がないんじゃないかって先生に話したじゃないですか。あれ昔からの悩みだったんですけど、一年前くらいからそのせいで、舞台を楽しめないくらいになっちゃって。踊りも歌もお芝居も、全部大好きだったのに、全部怖くなって。情けないけど、潮時かもって思っていたんです。かと言って、相談できる人もいないから一人でどんどん抱え込んじゃって、パンク寸前みたいな状況で…でもね、先生が私の個性を教えてくれたんです。」
柊花がゆっくりと丁寧に言葉を紡ぐ。
嘘でも大袈裟でもないような、言葉の発し方。
「先生ありがとう。」
少し震えたような声だ。
「いや、俺は何も。」
柊花の顔を見られなくて、俺は手にしていたビールを一気に流し込む。
「ただ、柊花はここで輝く人だってことは間違いないよ。それだけは保証する。ファンとして。」
紛れもない本心を、嘘臭くも寒くもならないように、本気で言った。一言ずつに思いを込めて。
人が本気で物を言う時、その思いは相手に自然と届くものだ。
「あーあ。」
いつの間にか、空になっているワイングラスを見つめながら、柊花が大きくため息をついた。
「なんだよ。」
「私が男役じゃなかったらなぁって。」
「ん?」
「ただの女だったらなぁ、なーんて。」
お酒に強いと噂の彼女の頬が真っ赤に染まっているのを見て、言葉の真偽を判断する。
柊花と視線が交錯する。
目の奥に強い光があって、逸らすことが出来ない。
周囲の音が消えて、彼女と俺だけがこの世界に取り残されたような気分になる。
柊花は笑っていない。
うっかり彼女の頬に手を伸ばしそうになる。
が、その瞬間に柊花の方から視線を外された。
止まった時が動き出して、周囲の音も戻って来た。
「お?本名を教える気になったってことか?」
動揺を悟られまいと冗談めかしてそう聞くと、「冗談冗談。冗談ですー。」と柊花は手を振りながら繰り返した。
「酒の力は、時に奇抜な冗談まで言わせるんだな。」
「あはは。」
彼女の乾いた笑い声が響く。
「…ちょっと良い気分だったから、冗談かましちゃいました」
赤い顔を手の甲で冷やしながら、柊花が言う。
「舞台のワンシーンみたいなセリフだったな。」
「じゃあ私、脚本家になれるかもしれないですね」
「ただし、ちょっと昔の脚本家だな。」
「古臭いってことですか?」
「まあ。」
「ひどーい!」
俺たちはそんな間柄になってはいけない。
彼女の男役としての輝かしい人生を、俺が潰すわけにはいかない。
そう思ったから、俺は彼女の言葉を冗談で流した。
機転が効くなんてレベルじゃない。
好きなオンナから、それらしいことを言われて、それで何もせずにいられるなんて、俺はきっと相当惚れている。
「じゃ、俺は中に戻るよ。」
うまく笑えていたからわからないが、それだけ言って、テラスを離れた。
柊花をこれ以上まともに見ることが出来なかった。
それから打ち上げが終わるまで、柊花とは一度も話さなかった。
打ち上げは終電に合わせて終わり、男役と女役が連れ立って帰っていく。
男役はホンモノの男性に見えるから、女役のボディガードになるらしく、「送っていくよ」とあちこちで同じ会話が繰り広げられる。本当の男女のようだ。
そんな中で、柊花は特に誰にも声をかけず、帰っていく面々に、ゆるゆると手を振っていた。
俺は明日から別の仕事を控えていたから、他の仕事でこの“危険な恋煩い”とやらを忘れたかった。
「じゃあ、元気でな。」
大多数が帰ったが、数人で残っていたので、柊花を含むその男役グループに声をかける。
「先生、ありがとうございました~!」
皆のケロッとした別れの挨拶に、俺も「随分さっぱりだな。じゃあまたどこかで。」と返す。
柊花の目は見ることができなかった。
彼女の声も聞こえなかった。
外に出ると、夢の世界から現実に戻ってきたような感覚になった。
街は静かだったが、それも当然だ。
というのも、今日は日曜日で、世間は明日からまた新たな一週間が始まるのだ。
夜の街が静かに明日から始まる現実を受け入れているのに、俺はそれに拮抗するように今日までの夢の日々を振り返った。
花蘭の団員の振付を依頼されたとき、正直断る気でいた。
女性同士で男女の振りを踊るとなると、双方が互いにより“男らしさ”“女らしさ”を強調しないと、男女の振りとして成立しない。
しかし、どちらも体は女性なので、筋肉の付き方も男性とは違う。
体の効く範囲が異なるし、男性よりも柔らかさが出てしまう。
それを、振付で如何に“男女”に見せられるかが課題となる。
それは、アイドルのような可愛らしい振付を多く担当してきた俺の得意分野ではないと感じた。
それに、花蘭をよく知らない俺が振り付けて良いのか、という疑問も生じていた。
だが、一度観劇をして俺の心はあっという間にこの世界に引き込まれた。
皆が本気で目を輝かせる“青春”そのもののようなこの世界はなんと美しいのだろうと。
舞台のクオリティ云々ではなく、俺は役者たちの舞台を楽しむ精神に魅せられた。
端で踊る団員さえ、体を目一杯使って歌い踊り、今を懸命に生きている。
純粋無垢にこの世界に陶酔する姿は、現実だけを見る傾向にある現代において異様な光景で、そして誰もが憧れているものだと思った。
その中でも特に、楓柊花の熱さは、忘れかけていた熱情を思い出させた。
もちろん振付をすることに不安があるのは否めなかったが、それでもこの世界に少しでも関わりたいと思った。
実際に関わってみて、俺はますますこの世界に、そして楓柊花に溺れていった。
その世界と彼女に別れを告げた今夜は、感傷に浸らざるを得ない。
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