確かに俺は文官だが

パチェル

文字の大きさ
73 / 424
第2章

過保護になるのも仕方がない19

しおりを挟む
 



「あっ!」 


 チャリンチャリンと硬貨が散らばってしまった。ヒカリのなけなしの全財産だ。
 さっと手を出したつもりだったが、遅かった。その上、差し出した手が邪魔をしてしまったようで、お金が四方八方に転がっていってしまう。

 しゃがみこんで一枚一枚拾っていく。封筒に入れているから仕舞い辛かったのだろう。


 でも、今はこれしかないし。


 いつか余裕ができたら財布も買おう。簡単な巾着みたいなものを作ってもいいかな。


 封筒にチャリンと集めながら、ふと思い出した。


 日本にいた時は100円均一のお店の簡単な財布を使っていた。
 マジックテープで開けるやつだ。マジックテープのペリペリ感が結構好きだった。100円で機能性に優れた財布を作ろうという意気込みが籠っていて愛用していたのだ。



 しかし、ある日、クラスメートの男子が中3にもなって財布が100円均一のやつとかダサすぎだろう。女にもてないぜとか言ってきて、ひゃっきんとか呼ばれるようになった。


 修学旅行の時にそう言われて、でも使いやすいし、別に人の財布なんてそんなに気にするものかな。
 ていうか周りのみんなもそんな自分のお小遣いで買えないような高級な財布持ってないよ。僕大人になってほしいのがあったら自分で買うし。


 なんて財布の話をする度に言っていたら、しつこく付きまとわれて、俺のお古の財布やろうか? とか言われて、そんなとげとげの生えた財布、カバンの中に入れてたら邪魔じゃない? って言ったらまた怒って無理やり財布を渡されそうになった。


 高いんだぞ。受け取れよ。
 ていうのがうるさくて無視してたら、気付かないうちにカバンに入れられてるのに家に帰ってから気付いた。


 盗んだとか言われるのが嫌で素手で触らないようにした。
 ハンカチでくるんで保存袋に入れて明日返そうとしてたら、家に帰ってきた兄ちゃんにそれどうしたって聞かれて、このもやもやした気持ち丸ごと、正直に話した。



 聞いた兄ちゃんは困ったように頭をポリポリ掻いていた。
 僕はだよねぇ、変な人だよね。いらないって言ってるのに無理やりカバンに入ってるんだもん。いつ入れたんだろう。なんて一人でしゃべってたら兄ちゃんがちょっと待ってろって、部屋に戻って綺麗に袋に入れられた包みを渡してきた。


「なにこれ? おいしいもの?」
「ばか、違うよ。本当は誕生日に渡そうと思ってたんだけど、必要な時にあったほうがいいよな。開けてみ?」


 ちょっと重いそれを開くと中から、正方形に近い形の深い緑で端っこに赤いスタンプが押されている皮でできたような財布が出てきた。

「わぁ、かっこいい! わわわ! すごい。わ、これ、いいの?」
「あぁ、いいよ。その代わり今年の誕生日プレゼントは無しな? 丈夫なやつ選んだから、長く使えるぞ」
「うん、うん! 大事にするよ! 一生使う! ありがとう。兄ちゃん、大好き!」
「うんうん、お前は中3になっても変わんないね。俺も大好き!……いやーはずぃ。それよりその使い勝手の悪そうな財布は返してこい。変な因縁付けられても嫌だろう。兄ちゃんにもらったやつあるからってそれ見せたら相手も退くだろう」
「ありがとうー! 兄ちゃんかっこいい! 僕も灯に同じようにしてあげたいな」
「じゃあ、お金貯めないとな。あとはセンスも磨かないと」
「そうだね! 兄ちゃんに弟子入りするよ」


 そう言えばこっちに来た時に持ってきたカバンの中には財布が見当たらなかった。
 来るときに落としてしまったのだろうか。一生使うって言ったのに。嘘ついちゃったな。

 僕だけの、兄ちゃんが選んだ財布。
 あれ見せたら、あの男子もかっこいいじゃんって言ってくれて、僕も、でしょう?ってちょっと鼻高々になった。財布にこだわる人の気持ちが少しわかったような気がした。



 あの財布はもう僕の手元には戻ってこないのだろうか。ようやく手になじんできた、僕だけの。





 封筒の中に入ったお金を数えると少し足りない。どこに落ちちゃったのかな。

「おーい、ヒカリ何してるんだ?」
「しんどくなったのか?」

 戻ってきたヒカリの保護者が近づいてくるので、ヒカリは笑う。

「ううん、お金落としちゃた。だけ、しんどくないよ?」

「見つからないのか?」
「何セル落としたんだ?」
「20セル……」


 20セルなんて駄菓子屋さんで子どもが使うようなお値段だ。こだわるような価値はないかもしれない。しかし、そう告げたら二人が同じようにしゃがみ込んで棚の隙間をのぞき込む。
 スピカが棚の奥を魔法で照らし、セイリオスも魔道具を出して棚の隙間を照らし、見ていく。

「お、あ、あるぞここに一つ」
「こっちにも!」

 二人がヒカリ! ヒカリ! と呼び手で招く。腕が太くて入らないからヒカリがとってくれと言う。

「でも、お店のかもしれない、よ?」
「いや、そこで落としたんだろう? じゃあ方向的にここに落ちていてもおかしくない」
「それに、守銭奴のキハナがお金を落としたまま放置しておくはずもないから他の場所には落ちていなさそうだし、ヒカリの20セルだよ。ほら早く!」

 後ろのキハナを伺えば、「守銭奴の何が悪いんじゃー」と腕捲りしていたので『守銭奴』が何かは聞かないでおいた。

 狭くて細い隙間に腕を突っ込んで指先で10セルに触れる。上からは二人が10セルを照らしてくれているので間違うことはない。


「あ、とれた!」
「よっしゃ、じゃ次はこっちな」


 同じようにもう一つの棚の隙間に手を伸ばして掴む。掴んだ10セルを持ち上げて眺める。
 確かにヒカリの10セルのような気がする。名前も書いてないし、他のと違うところなんて見つけられそうにないけど。ヒカリの10セルだと何となく思ってしまう。


 しゃがみこんだまま10セルを眺めているヒカリの頭にセイリオスが触れた。

「一生懸命探してたもんな。見つかってよかったな」

 セイリオスの手にはふわふわの埃が捕まえられていた。埃ってどこでつくんだろう。

「ありがとー。セイリオス! スピカ! ふふっ、これで、飴ちゃん買えるね?」

「そうだなぁ、じゃあ、ヒカリにおごってもらおうかな」
「じゃあ、俺も―。味はヒカリが選んでねー」

 飴ちゃんならヒカリは結構詳しいので自信を持って頷いておいた。

「まかせて、ね?」


 何だか計画以上のものを今日は手に入れてしまった気持ちになって、帰りは三人で仲良く、気になっていたお店や飴屋に寄り道して帰った。楽しくて帰りが少し遅れてしまったのも計画通りではなかったが、それでも構わない位楽しかった。








しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...