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第2章
過保護になるのも仕方がない33
しおりを挟む「あ、あのぶちょうさん! やぱり、いそがしかたです、よね? 今日はお休み取ってください。えと、僕は家に、もどります。よくたべてねてくだ、さい。あと、あとスピカに言ったら、何かいい薬とか、体も診てくれるから、医務室に行ってください」
ヒカリがわたわたと慌て始めると、難民部部長はヒカリから目を背けた。
それがヒカリにはさらに苦しんでいるように見えた。
「あ、ぼく、スピカ呼んでくる!!」
今すぐ飛び出しそうなヒカリの腕をセイリオスがつかんだ。ヒカリは止められたことに驚いてセイリオスの方を振り向く。
「セイリオスッ!!」
「俺が連れて行った方が早いだろう。ほら、病人は抱き上げて運んであげないと」
とセイリオスが難民部部長に近づく。
掌を上に向け、胸の下ぐらいの位置にして一歩ずつ近づく。難民部部長はその腕に抱きかかえられた自分を想像し、シャキッと背筋を伸ばした。
「いや、君にそこまでしてもらうほどの事でも医務室に行くほどの事でもない。休むほどの事でもない」
「そうですか? むしろ休むためにも図書館でヒカリの横で休んでいるのがいいかもしれませんね。な、ヒカリ?」
「あ、ほんと? 大丈夫ですか?」
下から見上げられたら、ハイ、ノックアウト。
この難民部部長さんにはお子さんがいる。思春期真っただ中の娘さんと息子さん。なかなかの反抗期っぷりにこれは染みるだろう。
難民部部長はコクコクと頷く。自然と飴と鞭状態になってしまっている。
「ぼく、本を読むだけだけだから、大人しくするから、となりで、いてくれますか?」
「……あ、あぁ」
ホッとしたヒカリはリュックから水筒を取り出して目の前の人物に差し出した。
「部長さん、のみますか?」
「大丈夫だ。っ気にしないでくれ」
そういうと、ヒカリが少ししょんぼりしたので難民部部長が慌て始めた。
どう見ても子どもに見える男の子を泣かしてしまいそうなことと、その隣の保護者が笑っているのに笑っていないことが恐ろしい。
「そのな、さっき昼食を食べすぎてしまったんだ。それが苦しくてな。だから、その、気遣いありがとう」
「!!……食堂のご飯、おいしーね。しかたない、です」
ヒカリは難民部部長のお腹を横目でちらっと見て笑ってしまう。
こんなに素敵な人なのに食いしん坊なのだ。ヒカリと同じところがあって少し嬉しくて、難民部部長がちょっと可愛く見えてしまい、つい笑ってしまった。
ヒカリが微笑んだのでセイリオスも最後に難民部部長に満面の笑みを向ける。
「では、ヒカリも落ち着いたことですし、彼の身柄を預けてもいいでしょうか? ヒカリ、くれぐれも大人しくな。迷惑をかけてはいけないからな。まぁ、難民部部長ならきっとヒカリが困ることは起きないと思うから」
ヒカリが頷く。その信頼はどこからやってくるのだという目で難民部部長がヒカリを見ていた。
「そうだな。素晴らしい人だからな。何かあれば言うと言い。いいですよね?」
「あ、あぁ、任せてくれ」
難民部部長は渋々なんだからな、仕方なしなんだからなと言う姿勢を中途半端に示しながら、ヒカリのキラキラの視線ビームを見ないように図書館へと向かっていった。
さっさと歩いて行ってしまう難民部部長にタタタと早足で着いて行くヒカリを見て前途多難な気もしたが、多くの目がある図書館で何があるわけでもないしとセイリオスも仕事へと向かった。
「あれ、ヒノさん。今日はおひとりですか?」
本を読んでいるヒカリに声を掛けたのは昨日対応してくれた図書部員だった。
周りをきょろきょろと見まわしている。
「いいえ、ちがいます。今日はなんみんぶぶちょーさんと来ています」
「その方は今どちらに?」
「あちらの方でほんをさがしています」
ヒカリがさし示した所には確かに狸のように腹が出ているおじさんが本を一つ取り出し熱心に見ている。
顔色もよくない。昨日の付き添いのチャコとは違って頼りがいがあるようには見えなかった。
「……ヒノさん。何かあれば私を呼んでくださいね」
「…? はい、ありがとうございます」
「今のところはお困りのことはないですか?」
「えと……ないです」
ヒカリは少し躊躇うそぶりをしたが、その申し出を断った。
本当は少しわからない単語が出てきて書物を読み進められないのだ。だが、それは図書部員に聞くことではないと判断したのだ。
図書部員はヒカリを気にしながらも他の仕事に戻って行った。
うんうん唸りながら書物の前後を読んでみてその単語の意味を推測で考えたが、やっぱりわからない。
セイリオスだったらわかるだろうか。
ついにばたんと机の上に突っ伏してしまった。リタイアの四文字が出てくる。
しかし、休める筈の時間も仕事に回す難民部部長や、セイリオスやスピカのことを考えるとこんなことでリタイアするのも恥ずかしい。
難民部部長は仕事を休憩できる機会なのに、仕事で気になることを調べ始めてしまったようで邪魔もしづらい。
付いて来てくれるだけでありがたいのだ。
そこでふと思いたった。
昨日読んだ簡単に読める書物の方をもう一度取り出して、読み返してみよう。
何かわかるかもしれない。確か、本棚はどこだったっけ。
ヒカリは一人で本を探しに行くことにした。
難民部部長も図書部員も気づかない。ヒカリもすぐに戻るつもりだったので気にせず。図書館なんてどこも似たようなものだななんて思いながら。
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