確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

過保護になるのも仕方がない34

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『えーっと。確かこっちだったかな』

 ヒカリが向かったのは人気の少ない棚の方。
 広い通路の方は改築された比較的新しい通路だったのだが、ヒカリが読みたい本は古い通路で人が二人すれ違うのは厳しいぐらいの細い通路がある場所だった。

 しかし、棚の高さは同じなので一番てっぺんは手なんか届かないぐらい高いのだ。そこの棚を一つ一つ見ていく。名前の順に並んでいるので推測でどこら辺だったかなと上の方を見上げる。

『あそこらへんだなぁ。……うーん、ぐっ、うぅんっ。ダメだ届かない』


 ギリギリ届きそうな位置なのに届かない。
 何度か試しているとヒカリのいる通路に人が通りがかった。通り過ぎたと思えば、こちらの通路に入ってきたのでヒカリは本棚に体をペタリとくっつけた。後ろを通るかもしれないと思ったのだ。


 足音が近づきやはり後ろを通っていった。
 思いのほか大きい人だったようでヒカリは本棚に押し付けられるようになってしまい、その人の体がぎゅっと当たると、ヒカリの体が少し震えた。


 その人が通り過ぎてヒカリは少しぼんやりしたが、本来の目的を思い出しまた、手を伸ばす。
 そう言えば、踏み台とかないのかな。とあたりを見て見るがない。違う棚の方を見て見てもない。もしかしたら魔道具とか魔法とかでみんなとるのかもしれないと思い始め、また目的の本がある棚の方へ向かう。


 本来なら踏み台などのものは各棚とはいかないまでも、そこらを探せばすぐに見つかるようになっている。だが、この時は目に付くところになかったのだ。


 目的の本がある棚の方へ戻ると一人の男の人が立っていた。
 ちょうどヒカリの欲しい本がある棚の向かいの、すこし遠い位置で上を見上げている。あの人も高い位置にある本が欲しいのだろうか。



 ヒカリも欲しい本がある場所を眺めているとふと、手の甲に何かが当たる。


 最初はフッと、次はちっと当たる感じで、さわさわ当たり始めて隣を見ると先ほど向かいの棚を見ていた人が隣に立っていた。
 ばちッと目が合うと、その人はにこりともしないで声を掛けてきた。


「さっきからここで何をしているの」

 抑揚のない声に少しドギマギする。

「え、えと、あの本がとりたくて」
「どれ」

 ヒカリにさらに近づく。ヒカリは指さしてあれと言う。

「とってあげるよ」

 ひょいっと本を取ってヒカリに差し出した。
 ヒカリがありがとうと本を受け取ろうとしたら上から手を包み込むようにされて肩が少し跳ねた。その人はその時に少し笑った。

 変な汗が出る。


 ヒカリはお礼を言ってもう一つの目的の本を取るために、違う棚へとそそくさと向かった。


『うげぇー、何で欲しい本はあんな高い位置にあるんだよー。絶対無理じゃん。いくら大きい人が多いって言ったって小さい人もいるし子どもだっているのに。セイリオスに聞けば、いい道具とかあったりするのかなぁ』


 ヒカリが絶望的な高さの位置にある本を見上げている。
 本来ならここにも踏み台、もとい高い位置にある本を取る棚虫という魔道具があるはずだがなぜかここにもなかった。
 一縷の望みをかけて何度もピョンピョン飛んでみる。そのうち、必死になって周りが見えなくなった。




「また、本がとれないの?」
「わっ」

 いつの間にか横にいた人にびっくりして着地を失敗しかけてしまう。
 横にいた人がすかさずヒカリの肩を持ち背後に回った。



「どれ?」



 その人がヒカリの顔の横に顔を近づける。
 あれ、この人どこかで……。
 ぼんやり見つめているとさらに顔を近づけてヒカリを見てくる。




「どれ?」

「あ、あれです」
「あぁ、ちょっとあれは俺でも高いなぁ。ちょっとごめんな」



 その人は謝りながらヒカリの肩に手を置きもう片方の手を上の方へ伸ばした。
 その人の体重がヒカリにかかり、息が苦しくなるほど押しつぶされた。


 肩に置かれた手が少し下の方へずれて、その人の体がさらに密着されていく。


 その人は体を伸ばしたと思えば本がとれないのか、背伸びをやめて、膝を使って体を上下に動かすので、ヒカリの体にその人の体がずりずりとぶつかる。



 そのうち何か硬いものが的確に同じ位置にあたり。












 気付けば床に転がっていた。




「まてっ。この野郎!!」
「おい、お前大丈夫か? おい」


 目の前にはヒカリと同じぐらいの男の子がヒカリをのぞき込んでいた。


『あれ? 何で僕、寝転がってるんだ?』
「おい、お前外国から来たのか? 言葉分かるか? 親は? お父さんとかお母さんとかは?」


 少年の言葉遣いが幼い子にかけるような言葉だったので面白くなって、笑ってしまう。


「おい、お前何笑ってんだ? 痛いとことかないのか?」


 それよりもそうだ、何で寝転がってて、突然ここにこの人が現れたんだろう? 
 必死そうに肩を掴んで揺さぶられる。


「あ、あの、だいじょーぶ。痛いとこないよ?」
「なんだ、喋れんのかよ。さっさと声出せよ! っていうか、大丈夫なわけないだろっ、おまえ!あんなことっ!」

「あんなこと?」


 はて、何の事だかと首を傾げる。


「えと、本をとって貰おうとして、とれなくて……とれなくて? あれ、あ、何で、寝転んで? あれ? あれ、君はどこから?」


 そう言って目の前の少年を見た。
 本当ならきりっとした眉毛が今は下がってしまっている。目は切れ長で、目と髪の毛が同じ濃い青色で。心配そうな色をしている。


 誰を?
 きっと僕だ。


「あ、ごめ、僕? なんか、あれれ」
「もう、いいから。とりあえず服、整えろよ」


 少年に指摘されてから気づく。

 襟元は乱れ、ボタンが上から3つ外れている。
 ズボンの中に入れていた服の裾は片方だけ飛び出ていて。




 少し遠くに落ちている本と靴が片っぽ。




 何故か体が震えていた。







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