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第2章
過保護になるのも仕方がない41
しおりを挟むダーナーやスピカがセイリオスに大きな声で怒鳴るのも仕方がない。
ヒカリはもう自分なんか狙われないと思っているが、問題はそう簡単ではない。恐らく百発百中で狙いに来るのではないかとセイリオスも思っているのだ。
何故なら、ヒカリは変質者の顔を見ているのだと言う。
あの日にあったのが最初だと思っていたが、そうではなかったのだとヒカリが言ったのだ。当日にも顔を見て、事前に手まで振っている。似顔絵も描けるよーと言っていたとフィルから聞いた。
確実に狙われている。
この国では便利な自白剤が存在しているが、これを使うには決まりがいくつかある。
まず、自白剤は国営で一括管理されている。
それは、使われる成分が少しでも違うとかなり人体に影響があるためだ。しっかりした品質を保証するために致し方ない。自白剤が作られた始めた時にはこれは便利だと濫用したためかなりの被害が出た。
作った者でかなり品質に差が出たのだ。
その為、証拠として使う時には決まりがある。
国に申請をすること。申請が通れば所有することができる。
その時に質問事項も一緒に申請するので決まったことしか証言を取れない仕組みだ。
ついでに色々なことを聞いて悪用するものもいるかもしれない、と言うかそういう事が実際にあったのだ。証言をするときは担当の部署のものが着いて行き、自白剤の効果が切れるまでその場で待機する仕組みだ。
次に自白剤を飲むのを相手が承諾していること。
体に害があることも万が一の可能性があるため、自白剤を使って身の潔白を証明したいもののみに対して使用が許可される。
もし害が出て、身が潔白であればその後の処理は使用したものが負担することになる仕組みだ。
仕事の手を抜くなという事なのだろう。
上手いこと逃げたいものが作った決まりのようでもあるが。
まぁ、逆に飲まないとその分怪しさは増すわけで。
つまり何が言いたいかと言うと、この国では自白剤があるために犯罪被害者に対して警戒がかなり必要になるのだ。
顔を見られてしまったという決定的な証拠があるとき、被害者は大抵無事では済まない。
話さないような脅しをされるか、物理的に話さないようにされるかのどちらかだ。
被害者は疚しいことがないので自白剤を飲む。
加害者は飲めない。飲めば犯罪について話してしまう。飲まなければ自白剤によって被害者の証言が採用される。どちらの道をとっても有罪だ。
だから顔を見て逃げおおせたものは、犯人が捕まるまで安寧が訪れることはない。犯人も然りだ。
顔見知りなら、だれだれが犯人ですと言えるが、顔を見ただけでだれかわからない場合は自白剤を濫用できないのでかなり警戒が必要になる。
つまりヒカリは、顔を見たので狙われる。
この国では性犯罪者は有無を言わせず鉱山送りである。
これが二回目なら、性器を使えない処置をされる。
三回目なら性欲を覚えたとたん体に激痛が走る処置を施される。
それでも再犯するものは一生鉱山で無償労働だ。
その犯罪者が一回目ならまだ大丈夫かもしれないが、二回目ならまずい。
しかもヒカリは犯人に下見されている。
王城で襲うぐらいだ。リスクを承知で狙いに来たのだ。聞かないと分からないが、かなり好みだったのではないだろうか。
その場で襲ってしまうぐらいに。
ヒカリのことも調べているかもしれない。
だとしたら、まずいだろう。
難民なんぞの人権はないと考えている輩も多い。
嫌な考えばかりが浮かんでは、消えずにセイリオスの頭の中に渦巻く。
ダーナーは心配しているのだ。
そんなお花畑の頭でふらふら歩かせるな。至極もっともなお怒りで。
まったくもって囮になってしまっている状況なのだ。
そしてダーナーが怒ったという事はそんな囮などいらないと即答したのも同然だ。
しかし、セイリオスもヒカリに説明しようとしたのだ。
したのだが、できなかった。
当日は心を落ち着かせるためにその話を避け、スピカに話してから二人で説明しようとした。
が、その前に問題が発生したのだ。
「じゃあ、今日の夜にでも俺らでヒカリに話してやらないとな。この国の犯罪加害者の行動の傾向をな」
しかし、セイリオスはなんとも気まずげな顔をする。
「それがだな、スピカ。その、犯罪者を捕まえてからにしようかと」
「……セイリオース? 俺の耳、おかしいか? 今、俺に話したら話すって流れじゃなかったっけ?」
試験管の漏れがないかチェックしていると、スピカがグリンと顔をこっちに向けた。
「そのな、最近、お前夜帰って来てないだろう?」
「あぁ、夜勤だからな」
スピカは最近夜勤の業務を通常通りに戻した。
いつまでも断っていてはほかの人にも支障が出るし、ダーナーに害がないとうすうす分かったから業務を元通りに戻し始めているのだろう。
今のところ、セイリオスが夜しっかり家にいる予定なのでその間に夜勤を入れているのだ。
朝帰ってヒカリと一緒に早めの晩ご飯を食べて、お見送りをするとはにかむヒカリがとってもかわいいのだ。
ご飯を用意して待っているのも楽しい。ヒカリがどれもこれもおいしく食べて口をパンパンにして、今日あったことを話すのも面白い。
そして今度はスピカがお見送りされるのだ。
残業で帰るとヒカリがせっせとお世話をしようとしてくれるのも楽しいので、ついついお任せすると活き活きとしたヒカリが見られるのも楽しい。
自分の患者だった少年が、俺をお世話してくれるまでになったんだぞ。と誰彼構わず話したくなる。
自分が見ていない間にどんな楽しいことがあったんだと話すヒカリは、キラキラしていて生きている力があふれているのだ。
そしてスピカの話を聞いているヒカリは自分の想像力を最大限に発揮してそのキラキラを放ちながら話を聞いてくる。
いつの間にか自分の家を見返すために、医師をしていたような気がし始めていて、それが嫌で仕事に打ち込んで、恋愛も一人前にできている気がして付き合っては長く続かなかった。
相手は自分に完璧を求めているのではないかと思って仕事も恋愛も手を抜かずにいようとしたら、気力が先に無くなってしまったのだ。
自分もこんな風に相手に弱さを曝け出せたらよかったのかなとふと思う。
そんなスピカがいない間に何があったというのだと問い詰めようとしたら、セイリオスがスピカの手元を見る。
「それ、やっぱり漏れているな。薬品自体はもれていないが魔力が漏れている。それは廃品行きだな」
「あぁ、そうか。じゃあ、こっちの箱だな。……で、続きは?」
「お前、絶対大きい声出すなよ。ヒカリには口止めされてるんだが」
そう言って話し始めたセイリオスの話をぶった切って、案の定スピカは大きい声を出した。
「なんだよそれ――――!ずるいわっ!」
「うるせぇって言ってんだろ。あぁもうっ」
「俺、今日の夜勤、スタンに代わってもらうわっ」
飛び出そうとするスピカをセイリオスが掴んで止める。
「止めるな。お前だけ独り占めとか」
「恥ずかしいこと言うな。独り占めとかいい大人が言うな」
「言うね。俺は何度でも言うね。ヒカリに関しては誰よりも大人で、だれよりも子どもの対応をすると決めてんの。放せっ」
「いや、夜勤は交代してもらえばいいと思うが、今はこちらの仕事中だ。仕事を放りだすな」
「そっち?」
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