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第2章
過保護になるのも仕方がない48
しおりを挟む「話そうぜ? 辛いことも楽しいことも。俺がヒカリに言うようにヒカリも言って? でさ、一緒に寝ることでヒカリが戦えるんなら、俺は大歓迎なわけ。簡単簡単。ヒカリの可愛い寝顔みられるんなら一石二鳥だよ。もちろんおねしょしても俺は怒らない。呆れもしない。だってヒカリは俺がおねしょしたってそんなことしないだろう」
「…しないとおもう…」
「そこはしないって断言してほしいなぁ」
「絶対はほしょーできないよ」
人間だもの。とヒカリはある朝の母と父を思い出す。
玄関で正座している父と無言で床を拭く母と、さっさと学校行った方がいいぞヒカリ、と声を掛ける兄ちゃんを。その顔がやたら真剣だったのでスピカがどうかしたのかと視線で問うてきた。
ヒカリは話していいものか迷ったが、保証できない理由を話したくなった。
「あのね、前ね、お父さんが、いっぱいよぱらって、玄関でおねしょしたことあったんだ。朝起きたら、お母さんにめっちゃ、怒られてた。これ、内緒ね」
「ぷっ、くくくく、それは、怒られるなぁ」
「さけはのんでものまれるな? あってる?」
「あってるあってる」
笑いに耐えられなくなってヒカリを抱えたまま、後ろにばたりと倒れこんだスピカはくすくすと震えていて、ヒカリも同じように笑っていた。
と言うわけで隣にはスピカがいる。
あの後はヒカリの頭を撫でながら小さな声で歌を歌い始めた。ヒカリの額にスピカの顎があたった。時々、ヒカリを見下ろすように視線を寄こして目が合うと、その眼がにこりと細められる。
寝転がったベッドは寝るには困らないけど、二人で寝るには少し狭くて。
だから、ヒカリはスピカに抱え込まれて寝ている。こんな風にホールドされて寝るのは初めてな気がするなと温かい赤の瞳を覗きこんだ。ますます温かさを帯びるような瞳に心がポカポカする。
あとスピカの胸がギュウギュウとヒカリにぶつかる。もっと固いと思ってたけど。
「スピカの胸って、なんか、気持ちいね」
「う、え、いきなり、何?」
「何か、キンニクのかたまりと思てたから、もっと、カチカチかとおもってたけど」
「けど?」
「ちょうといい、弾力っていうか。ずっとさわてても、あきが? こない」
そうそう、何かずっと触っていたくなる感触のおもちゃを彷彿とさせるような、無限何とか的なものと相通じるものがあると思う。
「このクッション、ほしいね、てかんじ」
「じゃあ、ほら」
そう言うとスピカがヒカリの頭を優しく抱えて胸に抱きかかえる。
ぎゅむぎゅむと挟んできて、しまいには筋肉をぴくぴく動かすのでおかしくなってしまった。
「く、ふふふ、や、もう、スピカっ! あははは、笑かさないでっ。全然眠くならないよ!」
両手で押しのけて顔を見上げると、スピカも笑っていた。
「今度、どうやったら動くか教えて?」
「えー、ヒカリにできるかなー」
「ははは、まずはきんにく、付けないとだ、ね」
スピカの部屋はセイリオスの部屋と違って明るい色で統一されている。しかし物は少なげで。
「スピカの部屋は、物が少ないね?」
ヒカリの部屋よりも少ないのではないだろうか。聞けば、仮住まいだからと言う。
「そうなの。本当の家じゃないの?」
「居候的な感じだからな。俺の家は今や物置だな」
「僕と同じだね」
スピカはここのところ家にはとんと帰っていない。
言った通り物置としてしか機能はしていなかった。必要なものだけをここに持ち込んだ結果、何とも寂しいのだ。
ぎゅむぎゅむと動いていた無限ムニムニが動きを止めた。どうしたことかと、目の前にあるもりもりした筋肉からぷはっと顔を出すとスピカの瞳がヒカリを捉える。
「じゃあ、今度の休みは俺の買い物に付き合ってよ。この部屋にさ、もう少し色々置きたいんだけど今一つ決められなくてさ」
「おー、何、かうの?」
「まずはこの部屋に合う棚だな。薬を置くためのいい棚が欲しいんだよな。後は薬草を保存する棚だろう。後はラグも欲しい。ここにあったやつはちょっと趣味が合わないし」
この部屋にあったのは元をたどればスピカのために誂えられた家具などだった。
しかしそれは大人になる前のスピカに誂えられたものだったので、今の自分が使うにはかわいらしすぎるとも思っていた。仮住まいだと思って手を加えていなかったが、今のスピカにとってはもはや仮住まいどころではなくなっている。
これを機に家具を買いそろえて、あわよくばヒカリとお出かけできるじゃん、俺って天才とも思っている。
「後はもう少し大きいベッドだな」
「ベッド? 小さい?」
小さい小さい。
一人用だから二人で寝るにはちょっと狭い。だから今、ヒカリはスピカの腕のなかに閉じ込められているのだが。
ヒカリの形のいい頭を一つ撫でるとこちらを見上げてくる。
腕の中に閉じ込められているとそのしぐさもしづらいだろうに、いちいち話すときに目を見上げてくる。
「スピカ、約束ね。今度の休み買い物行こう」
「やっぱりベッドはまた今度でいいかもな」
二人の言葉が被ってしまった。
「えっ?」
「いんやー、何もないよー」
沢山笑うと眠くならないと思っていたのにスピカの心臓の音が耳から入って自分の心臓にまで届くようで、そのリズムを聞き入っていたらいつの間にか眠っていて、いつの間にか朝だったのだ。
スピカの胸筋は偉大だと思ったし、自分も欲しいと思った。
もし灯が一人、心細い夜には同じように抱きしめてあげられたらいいなと思うのだ。
灯は今、一人で泣いていないだろうか。
それが少しだけチクリとヒカリのどこかに刺さった。
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