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第3章
闘えないとは言っていない33
しおりを挟む本日合同訓練が行われる闘技場はかなり広い。
大きいドーム球場ぐらいあるのではなかろうか。その一番上の観客席に行けば人が豆粒ぐらいに見えてしまうほど大きい。
闘技場のコートは四角く等間隔で区切られており、隣との隙間も十分空いている。
声は大きければ聞こえるぐらいだろう。
騎士課と警吏課の合同訓練は初の試みであった。
仲が良いとは言えないので行ったことがなかったのだが、それ以外とならどちらも行っているので準備自体は慣れたものである。
中央では警吏課課長と騎士課課長が舞台上に上がっており、本日の趣旨を説明していた。
開会のあいさつも終わり、区切られた各舞台上に事前に組み合わせられた対戦相手が上り、ストレッチなどを行っている。
和気あいあいとしているところもあれば、そうでないところもあった。
その一つが警吏課課長の対戦相手だ。
中央ではダーナーと騎士課課長が上がっている。
ダーナーは面倒くさいから傍観を決め込んでいたのだが、騎士課課長から、という騎士課副課長からさらには警吏課副課長からも言われては断れない。
目立つことになってもいいとは言っていたが、極力は目立ちたくない弟子のためには派手な自分が最適なのもわかっているので、うがうが言いながら大人しくここにいる。
ギラギラしている奴の相手なんかしたくないよーと思っているのであんまり目も合わせない。
うっわ、見てる見てる……。視線だけで疲れるんだけど。
対戦前からげんなりしているダーナーの隣の舞台にはチャコが立っている。
対戦相手はセイリオスのことを副課長に話した騎士。
こちらはすごく和やかで、話も盛り上がっている。
また、そこから少し離れたところに警吏課副課長のカシオが立っている。
相手は挑みたいものがいれば順番に相手するので並びなさいと腕を組んで立っていた。
そこには警吏課と騎士課どちらの職員も並んでおり、それぞれ得意なものを用意してワクワクしながら待っていた。
対戦の仕方は各々事前に申請していたものである。
武器の有無、魔法の有無などの最終確認をして、見届け人が各組合せに一人ついている。
争いが大きくなった時のために仲裁人も一人ついている。因みに仲裁人の中には魔道具関連課もちらほら呼ばれている。
仲裁用の魔道具をいくつか持って立っているだけでいいのでひ弱な人間でも務まるのだ。
そして何やらにぎやかで衆目を集めそうな面々からだいぶ離れた一端で、魔道具関連課のセイリオス・サダルスウドは立っていた。
その顔はいつもと変わらず、ただ顔色だけが少しよくない。
足首をぐりぐりしたり手首をぐりぐりしたり、首を回している。服装は魔道具関連課のつなぎである。
手に持った武器をよくよく眺め、刃先を確認している。
対して相手は騎士課のものである。
鋭い目つきで相手をにらんでいた。もう準備はできているとばかりに微動だにしない。
そこに見届け人が確認のためにやってきた。
「では確認いたします。今回、こちらの舞台では魔道具関連課の希望により、剣と籠手の仕様に関する検証のための訓練となります。そのため真剣を使用。また魔法の類の使用は認められていません。どちらかが参ったというまで続けさせていただきます。どちらかが戦闘不能になった場合はこちらで止めさせていただきます。いいですか?」
それに対して二人とも返事をした。
訓練なのでよろしくお願いしますと言うのが合図だと聞いていたセイリオスが言ってみるが相手からの返事はない。それなのにニヤリと笑って話し始めた。
「聞いたぜ? お前、なかなかやれるらしいじゃねぇか」
「そうだな。闘えないとは言っていないが」
「せいぜい楽しもうぜ」
え、なんか間違っていたっけ? あれ、返事ないんだけどとか思っていたら相手が勝手に戦いの火ぶたを切って落としていたようでセイリオスに向かってきていた。
やっぱりお前、騎士に向いていないよ。
そう思いながら初手をひらりとよけた。
観客席は外部からのギャラリーはおらずちらほらとヒカリのように見に来た人がいるくらいなため、それなりに静かだが騎士課と警吏課の怒号のような盛り上がりが少しだけヒカリの背筋を上った。
何やらダーナーがおかしなことをしたようで盛り上がったようだ。
しかし、ヒカリが見ているのはあくまで隅っこで行われている、誰も見ないような騎士と魔道具関連課の職員による、魔道具試行だ。
両手を握って一番前の席よりは少し遠い席から見ている。
セイリオスはいつもと変わりない表情に見える。
見えるけど、遠いからちょっとわからない気もする。
ちょっと、怒っている気もする。
もっと近くで見たい。
一歩だけ足が前に出た。
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