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第3章
闘えないとは言っていない34
しおりを挟む騎士が上から、横から、下から、斜めから、時には突くように一太刀をセイリオスに当てようとするが、セイリオスはそれをひらりひらりとよけてしまう。
ギリギリまで動かず、必要最小限の動きでよけている。
相手もよけられるのを見越して途中で剣先を違う方向へやるもそれもたったの一歩、動くだけでよけてしまった。
振りかぶられた刃先が背を逸らしたセイリオスの上をすれすれで過った。
騎士がその勢いのままにきりこみにいこうとするが、足がぶつかって体勢を整えられないでいる間にセイリオスが少し距離をあけている。
そしてまた騎士が剣をふるう。
本日は束ねている緑の髪の毛がセイリオスの後をつくようにピュンピュンと動いている。
目線も大きくは動かない。
両手も剣を持ってはいるが、持っているだけという感じだ。
つまり、なんだか。
騎士からしたらすごく腹が立つことだった。
「てめぇ、ビビってんのか?」
「あぁ、すまん。性能調査だというのについ……どうぞ?」
「お前、これ使った戦闘が苦手らしいな」
「あ、知ってたのか。そうだな。苦手だ」
そこでセイリオスもようやく剣を構えた。
振ってきた刀身をセイリオスも己の刀身で受ける。合わさった刃が鳴り二人の距離が近づく。受けたそれを弾く。
何度も二人が刃を合わせる。
そのたびにセイリオスは受け流した。
周囲の派手な訓練の中、すごく地味である。
ただ本当に刃を合わせているだけだ。
息ぴったりにまるで演武の様に、リズミカルに刃がぶつかる。
ここだけ本当の訓練をしているみたいだとスピカはヒカリの隣で頬杖を突きながら見ていた。
ヒカリもあぁ、夜聞こえていた音に似ているなぁと思いながら頑張って目で追いかける。
セイリオスの顔を見ても何だかいつもと変わらない。
それにほっとする。
「ふむ、まぁこんなもんか」
「あぁ、てめぇなに余裕こいてやが」
またぶつかると思った刃をセイリオスが腕で防いだ。
ガィンッ。
変な音がしたと思えば、刃がキラキラ回って飛んでいった。
飛んでいった刃を仲裁人が縄を投げてキャッチする。
「は?」
「そうだな。この籠手なんだがここに溝があるだろう? 刃こぼれしたところにちょうど充てるとさっきの様に刃を折ることができる。もしくはこうやって」
セイリオスが自分の持っていた剣を地面に置き、片手を横腹に、片手の拳を固めてその刀身に振り下ろした。
パキリ。
拳の下には真っ二つになった剣の刃がある。
「というわけだ。こちらの剣は強度を出そうとしすぎたんだな。簡単に折れる」
「は?」
「そうだな。次は籠手の方の性能調査に付き合ってもらおうか。すまないな」
その後はセイリオスの独壇場だった。
セイリオスは確かに得物を使った戦いが苦手である。
簡単に人が殺せるものを使用するのがどうにも性に合わないというものだ。
幾度となく視てきた記憶の中で、どうしても使用方法が平和的でないものを使用した時の感覚がよみがえることもある。
どこをどうしたら簡単に人が死ぬのか、それが手に取るように分かるためとっさの判断でよけてしまうのだ。
その点、自分自身を使用する戦いは我慢しないでよいのでとてものびのびと戦えてしまう。
普段使用しているように肉体を使えばいいので、特に意識することもない。
相手の防具の場所も、強度もそれなりに分かっているので余程何かがない限り、失敗なんてしないだろう。
だから、延々と軽いダメージを与えてやる。
額、鼻、顎に掠めるぐらいの拳を当てる。
次に右肩、左肩、腹に軽くジャブを。
最後に背中に回り込み、腕で首を拘束し、少しだけ宙に浮かせる。
相手が腕を外された勢いで地面に膝をついた。
「軽すぎたか? 避けてもらっても構わないんだが」
「おまえ」
「それとも騎士って言うのは剣でしか戦えないのか?……マジで? 」
勢いよく立ち上がった相手が今度は拳をふるい始める。
セイリオスはそれをどれも受け止める。顔に当たるもの以外は全て。
背中から蹴りが入っても受け止めていた。
セイリオスが行った攻撃の回数受けると、次の攻撃を掌で受け止めて詰め寄った。
「また同じようにしてやるから、よけてもらっても構わない」
そしてその繰り返しが何回も行われた。回が増えるごとに少しづつ強くなっていく打撃。しかし、騎士はそれを避けられない。
セイリオスの拳が早いのだ。
防いでもそれを突破する強さがある。
何度も、何度も、甚振られているような感覚になってくる。
セイリオスのその表情には何も見えない。
焦りも、楽しみも。
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