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第3章
闘えないとは言っていない37
しおりを挟むどうしてこんな催し物をすることになったのか、それはヒカリが目覚めてすぐのこと。
目覚めたヒカリが証言すると言ったのに対して、セイリオスとスピカがウンと言わなかったのだ。
「ヒカリ、今回は便利な記録する石もないし、以前のように同じ場所で再び犯罪を起こすとも考えられないからヒカリが犯人だと証言しても、すぐには捕まえられないかもしれないんだ」
「それにヒカリは犯人の顔をしっかり思い出せる?」
そう言われて、思い出そうとしても確かにぼやややんとしてうまく像が結べないことに驚いた。
ヒカリの中では言動などが確実にチョーキョーしていた人だと思うものの、そちらの方も長期間薬を使われたことによってだとは思うが顔を描けと言われても描けそうもない。
「うぁ、むりかも?」
思い出そうと頑張っていたら、思い出すのは平気かと訊ねられてしまう。そこは別に平気だなと隣に座るセイリオスを見上げる。
「セイリオスとスピカいるから、へいきっ。へへ」
そう言うとソファのヒカリの隣にスピカも座って二人で挟み込んでぎゅうぎゅうにされた。
あぁ、これこれと半端ない安心感にまどろんでいると、頭上で二人が話始めた。
少し困っていそうな声色だった。
「やはり血液を採取するというのは、よほどの信用がないと提供はしてもらえそうにないな」
「信憑性が指紋よりはないからね。呪術に使われるイメージだろ? 確かに怖いわな」
「魔核質さえ証拠能力があるとして採用されたら、犯人もすぐに捕まえられるんだがな」
なんて話をしている。
で、少しばかり難しい話になっていってるのでヒカリも考えたことを紙に書いて少し暇つぶしをすることにした。
勉強もいいが、たまには違うこともしないと気が詰まる。
要は血液や髪の毛を採取することはこの世界では結構思い切りのいることのようで、それを使おうとする人は悪い人だというイメージがあるらしいのだ。
つまりは血液などを使ったものへのイメージアップ。
真逆のイメージとぶつぶつつぶやき始めたヒカリを頭上の二人は黙って見守り始めているがヒカリは気付かずにぶつぶつ。
「これは何だ?」
「これ?これは、おしばいみたいなで宣伝する」
「こっちは?」
「お祭りみたいなで、せんでんする」
「ほうほう」
「たのしくしっかりせんでんしたら、嫌なイメージがなくなるでしょ? あとね、『付加価値』があるといいんだけど」
「フカカチ?」
「えとね。へいわなとき、犯罪にまきもまれるとおもわないでしょ」
セイリオスが巻き込まれる、だなと訂正する。
起きてから口がうまく回らない時があって、ゆっくり話していてもかなり活舌がよくなくて、ちょっと口をとんがらせてブブブと唇を震わせる。
「そう、巻き込まれる! でも、せっとーは結構あると思う。だから、けっこうある犯罪をふせげら、防げたらみんな興味持つと思う」
「なるほどなぁ」
「そうか」
そう言ったきり二人が何か考え込んでしまい、ヒカリはしばしそのまま二人を待っていたのだが、筋肉に挟まれた安定感抜群の姿勢のままちょっとだけ寝た。
何か、あれ、寝たことないけど。お値段がすごいベッドに寝たらあんな感じじゃないのかなと思う。
というわけで早速セイリオスは催しができないか声をかけに行った。それがベルフラワー商会である。ディルとフィルの実家だ。
この広場を貸し切るのには相当なお金か、縁か、伝統か、名誉か、何かしらがいる。
セイリオスもヒカリも持ちえないものなのでこういう手に出たのだが。
「え、何それ。あー、ほうほう。面白そうだね。それ、うちと共同開発っていう手にはできない?」
と逆に乗って来られて色々準備していたセイリオスとしては拍子抜けした。
ディルかフィルが口利きをしてくれていたのかと聞けば。
ディルには無視され、フィルには笑われた。
「セイリオスさんも、案外自分のことは見えてないんだな。うちの父親、セイリオスさんの大ファンなんだよ」
その時のセイリオスの何とも言えない変な顔を見てまた、フィルが笑った。
スピカはというと、ケーティと共に医務課の会議室で話し合っていた。机の上には書類がちらほら。
「つまり、呪術を使うときに魔核質が作用しているわけですよね」
「そうだよ。魔核質には本人の情報が埋め込まれていてね、ヒノくんの言う通りなら同じものは一つとてないんだ。その実証ができていないのが難点だけど。おそらくヒノくんの言うディーエヌエー自体に本人の魔力の源も情報として登録されているんだと思うんだ。だから血液からでも、本人の一部からなら魔核質が採取できるんだ。奴隷の時に使われているのも呪術だよ。この国は借金と犯罪奴隷は認めているからね」
「呪術と薬草学には実は似たようなところがあるんですが」
「あぁ、あるね。浄化剤なんかがいい例だ。体内の汚物だけを消化するなんて、かなり難しいだろう」
「そうです。あれは解毒に使われる薬草を使用しているんですが、解毒の場合は汚物は消化しません。だからその方向性を呪文で方向付けるんです。汚物のみを排除するように。その方向付けの呪文を魔核質にも適用できないかなと」
解毒に使われる薬草は山奥に住んでいる苔牛から取れる。
苔牛の背中に体内から突き出て生えているのだ。いわゆる共生状態。その名も苔牛草。
苔牛草は同じ植物を栄養源としている植物だ。
苔牛の背中に生えている苔を栄養源として、そのおすそ分けをもらう代わりに苔牛に迫る危険を遠ざけてくれる。
その危険というものが毒である。
それがウイルスでも菌でも何でも苔牛の体内で苔牛を攻撃したら、それを敵とみなして排除する。すべて溶かしてしまい、無害なものへと変換する。
そして体外へ排出するという仕組みだ。
免疫機能のようなものなので、苔牛の寿命はかなり長いと言われている。苔が生えているくらいなのだからそうだろうとは思うが、長生きすればするほど大きいが、隠れるのも非常にうまい。
匂いは生えている苔が隠してくれるし、その巨体に似合わず音もなく移動する。非常にゆっくりとしか進まない。苔が生えているのでしゃがんでしまえばその山の中に溶け込む仕様だ。
苔が生えている場所以外は鋼のように固く、苔自体が激マズなので食べようと思う天敵もいない。
その苔牛草を解毒剤に使う。そして体内の排せつ物を毒と認識させて消させる。
ヒカリが聞いたら、そんなに努力して作ってるんだ。あれ……。と胡乱な目を向けそうな話だ。
「なるほどー。いいね。それでこれらのうちのどれかを作るってことだね」
呪術の場合は古から培われてきた技術でいまだよくわからず使われているものも多い。
それゆえ怪しいと一般人からは避けられがちだ。呪文を唱えることで魔力が作用するのだ。
しかしこれは、通常の魔力使用でも使われるもので呪文を唱えることで特定の魔法を発動できる。訓練すれば唱えなくても使えることもある。
呪術に使われる言葉は呪語と言われる言葉でその国の言葉でもない。一説には失われた国の言葉か、精霊の言葉などと言われている。
その中でも人の一部を使ったものは呪いに使われることが多かった。
生物を使う事でただの魔法ではできないようなことを成し遂げられる。
それで亡んだ国もあると言われる。
特に人体は威力を底上げするのによくよく使われ、かつての人身売買がそういった材料の売り買いとして行われていたこともあり、この国が人身売買、奴隷の禁止を進めたのもそこに所以がある。
呪術は好まれてはいないが失われないように国でも研究を続けている。
ケーティの実家は公ではないがそこらへんには詳しいのだ。なぜなら借金奴隷の呪術を扱うのは彼のご実家の仕事だからである。
犯罪奴隷の場合は神官だが。
「浄化剤の方向付け……、マーキング……、奴隷……」
ケーティが紙をペラペラめくり、丸と三角とバツの印をつけていく。
机の上の書類は、かわいらしい焼き鳥の絵が描いてあり、計画書と銘打ってある。
「それなりにきれいな文字が書けるようになってきたね。これならうちの臨時職員として雇っても問題なさそうだなぁ」
「そうですか? あなたにそう言ってもらったらヒカリすごく喜ぶと思います」
「そう? 断られないかな? 忙しいから君たちと一緒にいる時間が減ってしまうからね」
「ははは、セイリオスと一緒の職場なら喜んでいきますよ。たぶん」
それもそうだねと魔道具関連課課長はにっこりと笑った。
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