確かに俺は文官だが

パチェル

文字の大きさ
228 / 424
第3章

闘えないとは言っていない37

しおりを挟む




 どうしてこんな催し物をすることになったのか、それはヒカリが目覚めてすぐのこと。


 目覚めたヒカリが証言すると言ったのに対して、セイリオスとスピカがウンと言わなかったのだ。

「ヒカリ、今回は便利な記録する石もないし、以前のように同じ場所で再び犯罪を起こすとも考えられないからヒカリが犯人だと証言しても、すぐには捕まえられないかもしれないんだ」
「それにヒカリは犯人の顔をしっかり思い出せる?」



 そう言われて、思い出そうとしても確かにぼやややんとしてうまく像が結べないことに驚いた。

 ヒカリの中では言動などが確実にチョーキョーしていた人だと思うものの、そちらの方も長期間薬を使われたことによってだとは思うが顔を描けと言われても描けそうもない。



「うぁ、むりかも?」


 思い出そうと頑張っていたら、思い出すのは平気かと訊ねられてしまう。そこは別に平気だなと隣に座るセイリオスを見上げる。


「セイリオスとスピカいるから、へいきっ。へへ」

 そう言うとソファのヒカリの隣にスピカも座って二人で挟み込んでぎゅうぎゅうにされた。
 あぁ、これこれと半端ない安心感にまどろんでいると、頭上で二人が話始めた。



 少し困っていそうな声色だった。


「やはり血液を採取するというのは、よほどの信用がないと提供はしてもらえそうにないな」
「信憑性が指紋よりはないからね。呪術に使われるイメージだろ? 確かに怖いわな」
「魔核質さえ証拠能力があるとして採用されたら、犯人もすぐに捕まえられるんだがな」


 なんて話をしている。
 で、少しばかり難しい話になっていってるのでヒカリも考えたことを紙に書いて少し暇つぶしをすることにした。



 勉強もいいが、たまには違うこともしないと気が詰まる。

 要は血液や髪の毛を採取することはこの世界では結構思い切りのいることのようで、それを使おうとする人は悪い人だというイメージがあるらしいのだ。

 つまりは血液などを使ったものへのイメージアップ。
 真逆のイメージとぶつぶつつぶやき始めたヒカリを頭上の二人は黙って見守り始めているがヒカリは気付かずにぶつぶつ。



「これは何だ?」
「これ?これは、おしばいみたいなで宣伝する」

「こっちは?」
「お祭りみたいなで、せんでんする」
「ほうほう」

「たのしくしっかりせんでんしたら、嫌なイメージがなくなるでしょ? あとね、『付加価値』があるといいんだけど」
「フカカチ?」
「えとね。へいわなとき、犯罪にまきもまれるとおもわないでしょ」

 セイリオスが巻き込まれる、だなと訂正する。
 起きてから口がうまく回らない時があって、ゆっくり話していてもかなり活舌がよくなくて、ちょっと口をとんがらせてブブブと唇を震わせる。


「そう、巻き込まれる! でも、せっとーは結構あると思う。だから、けっこうある犯罪をふせげら、防げたらみんな興味持つと思う」
「なるほどなぁ」
「そうか」


 そう言ったきり二人が何か考え込んでしまい、ヒカリはしばしそのまま二人を待っていたのだが、筋肉に挟まれた安定感抜群の姿勢のままちょっとだけ寝た。

 何か、あれ、寝たことないけど。お値段がすごいベッドに寝たらあんな感じじゃないのかなと思う。





 というわけで早速セイリオスは催しができないか声をかけに行った。それがベルフラワー商会である。ディルとフィルの実家だ。


 この広場を貸し切るのには相当なお金か、縁か、伝統か、名誉か、何かしらがいる。
 セイリオスもヒカリも持ちえないものなのでこういう手に出たのだが。



「え、何それ。あー、ほうほう。面白そうだね。それ、うちと共同開発っていう手にはできない?」


 と逆に乗って来られて色々準備していたセイリオスとしては拍子抜けした。
 ディルかフィルが口利きをしてくれていたのかと聞けば。



 ディルには無視され、フィルには笑われた。

「セイリオスさんも、案外自分のことは見えてないんだな。うちの父親、セイリオスさんの大ファンなんだよ」


 その時のセイリオスの何とも言えない変な顔を見てまた、フィルが笑った。







 スピカはというと、ケーティと共に医務課の会議室で話し合っていた。机の上には書類がちらほら。



「つまり、呪術を使うときに魔核質が作用しているわけですよね」
「そうだよ。魔核質には本人の情報が埋め込まれていてね、ヒノくんの言う通りなら同じものは一つとてないんだ。その実証ができていないのが難点だけど。おそらくヒノくんの言うディーエヌエー自体に本人の魔力の源も情報として登録されているんだと思うんだ。だから血液からでも、本人の一部からなら魔核質が採取できるんだ。奴隷の時に使われているのも呪術だよ。この国は借金と犯罪奴隷は認めているからね」

「呪術と薬草学には実は似たようなところがあるんですが」
「あぁ、あるね。浄化剤なんかがいい例だ。体内の汚物だけを消化するなんて、かなり難しいだろう」

「そうです。あれは解毒に使われる薬草を使用しているんですが、解毒の場合は汚物は消化しません。だからその方向性を呪文で方向付けるんです。汚物のみを排除するように。その方向付けの呪文を魔核質にも適用できないかなと」



 解毒に使われる薬草は山奥に住んでいる苔牛から取れる。
 苔牛の背中に体内から突き出て生えているのだ。いわゆる共生状態。その名も苔牛草。

  


 苔牛草は同じ植物を栄養源としている植物だ。
 苔牛の背中に生えている苔を栄養源として、そのおすそ分けをもらう代わりに苔牛に迫る危険を遠ざけてくれる。


 その危険というものが毒である。
 それがウイルスでも菌でも何でも苔牛の体内で苔牛を攻撃したら、それを敵とみなして排除する。すべて溶かしてしまい、無害なものへと変換する。
 そして体外へ排出するという仕組みだ。



 免疫機能のようなものなので、苔牛の寿命はかなり長いと言われている。苔が生えているくらいなのだからそうだろうとは思うが、長生きすればするほど大きいが、隠れるのも非常にうまい。

 匂いは生えている苔が隠してくれるし、その巨体に似合わず音もなく移動する。非常にゆっくりとしか進まない。苔が生えているのでしゃがんでしまえばその山の中に溶け込む仕様だ。


 苔が生えている場所以外は鋼のように固く、苔自体が激マズなので食べようと思う天敵もいない。

 その苔牛草を解毒剤に使う。そして体内の排せつ物を毒と認識させて消させる。



 ヒカリが聞いたら、そんなに努力して作ってるんだ。あれ……。と胡乱な目を向けそうな話だ。




「なるほどー。いいね。それでこれらのうちのどれかを作るってことだね」


 呪術の場合は古から培われてきた技術でいまだよくわからず使われているものも多い。
 それゆえ怪しいと一般人からは避けられがちだ。呪文を唱えることで魔力が作用するのだ。


 しかしこれは、通常の魔力使用でも使われるもので呪文を唱えることで特定の魔法を発動できる。訓練すれば唱えなくても使えることもある。
 呪術に使われる言葉は呪語と言われる言葉でその国の言葉でもない。一説には失われた国の言葉か、精霊の言葉などと言われている。


 その中でも人の一部を使ったものは呪いに使われることが多かった。
 生物を使う事でただの魔法ではできないようなことを成し遂げられる。
 それで亡んだ国もあると言われる。


 特に人体は威力を底上げするのによくよく使われ、かつての人身売買がそういった材料の売り買いとして行われていたこともあり、この国が人身売買、奴隷の禁止を進めたのもそこに所以がある。


 呪術は好まれてはいないが失われないように国でも研究を続けている。

 ケーティの実家は公ではないがそこらへんには詳しいのだ。なぜなら借金奴隷の呪術を扱うのは彼のご実家の仕事だからである。

 犯罪奴隷の場合は神官だが。




「浄化剤の方向付け……、マーキング……、奴隷……」

 ケーティが紙をペラペラめくり、丸と三角とバツの印をつけていく。
 机の上の書類は、かわいらしい焼き鳥の絵が描いてあり、計画書と銘打ってある。


「それなりにきれいな文字が書けるようになってきたね。これならうちの臨時職員として雇っても問題なさそうだなぁ」
「そうですか? あなたにそう言ってもらったらヒカリすごく喜ぶと思います」
「そう? 断られないかな? 忙しいから君たちと一緒にいる時間が減ってしまうからね」
「ははは、セイリオスと一緒の職場なら喜んでいきますよ。たぶん」




 それもそうだねと魔道具関連課課長はにっこりと笑った。




  






しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...