確かに俺は文官だが

パチェル

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第3章

闘えないとは言っていない38

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 というわけで詰め詰めのスケジュールとなったわけだが、ちょっとばかしケンカもしつつ、しっかり準備を整えていったヒカリはすごく楽しんでいた。



「楽しそうだな!」

 また何か肉を食べながら隣を歩くフィルに話しかけられる。


「もちろん!」

 楽しくないわけがない!



 午前中はかっこよいセイリオスを見届けられたし、しかもセイリオスは怪我をしなかった。
 午後は久しぶりに仕事を手伝えるし、本当のお祭りみたいで目と鼻と耳が忙しい。



 所々出ている屋台はいい匂いをさせているし、大道芸をしている人もいる。

 商品に興味がなくてもお祭りには興味あるという人も集まるといいよねとヒカリが言ったのでやってみたら大盛況。大人も子どもも集まった。


 とある大きな樹の下では大道芸をしている。

 シダー液で作った防犯カラーボールで楽しそうにお手玉をしている。
 いくつも持ったそれを落とさないように、時々高く放り投げてキャッチすると周囲の人が拍手する。どんどん高くなっていき観客の歓声もその高さに合わせて大きくなる。



 しかし突然、空高く放り投げた防犯カラーボールを樹の幹に寄りかかっていたアシスタントが素早く出した槍で突いた。


 前を見たまま大道芸をしていたものだから気付かない芸人の手が空振る。



 見上げれば中からカラフルな液体が出て、冷たい雨を降らせて周りの観客にかかった。驚いた観客が何だこれと言って前を見ると小さな虹。


 皆、さっきまではすごいすごいと歓声を上げていたのに一転、大笑いをしている。
 その虹の前には一番びしょぬれになった大道芸人が、アシスタントに怒ってどぎつい色の防犯カラーボールをぶつけて怒っていた。



 ヒカリが商品を使ったわかりやすい芸みたいなものがあると楽しい気持ちになりやすいし、目を引くよねと言ったから頼んでみたらかなり乗り気でやってくれたのだが、ヒカリは自分の発案だとも思わず一緒に大笑いしていた。



 小さく作られた舞台では役者が一芝居うって、商品の宣伝をしている。

 コメディーバージョンも行えばシリアスバージョンもある。普通に説明する場所もあった。
 見に来た人は自分に合ったスタイルで商品の説明を聞く。
 紹介する商品は今回のテーマ、防犯グッズだ。もちろんスタンガンもどきも出品している。



 因みに名前は電撃びりびりくんになっていた。






 色々なところをめぐっていたら、時間がたつのもあっという間で。

「ヒカリー、お前そろそろ時間じゃねぇの?」
「あ、本当だ! わわ」


 今回の目玉は研究に協力してくれる人を募集することである。
 ヒカリはそろそろ始まるだろう石舞台の方へと踵を返した。
 慌てていたので一人で人込みの中へ飛び込むとあっという間に人の壁に阻まれた。こちらでは子どもと思われるサイズなので致し方ないのだが。



 至る所で催し物をしているので流れも読めず、なんとか人波をかき分けて進む。


 人込みに飲まれそうになった時パシッと両隣から手が伸びてきてヒカリを捕まえた。
 右手がスピカ、左手がセイリオス。


「スピカ!」
「お待たせ、ヒカリ。あっち行きたいのか?」


 汗をかいて、現れたスピカはヒカリの進みたい方へと指をさす。
 それにセイリオスが答えた。


「そうだ。そろそろうちの課長が舞台に上がるからな」
「この人ごみのなかじゃ進みにくいな」
「早くいかなきゃ!」
「そっか、ヒカリも手伝うんだっけ?」

 じゃあ、任せろと言ってスピカがヒカリの両脇を持って高く持ち上げた。

「うひゃあぁぁぁ」
「つかまってろ」


 セイリオスがヒカリを抱えたスピカの前を歩いて道を開けていく。ヒカリはえっさほいさと運ばれている。
 後ろ向きに進む高い位置からの眺め。
 怖さと興奮とおかしさが同時にいきなりやってきた。


「あははは、たかい! こわい!」
「怖いのに笑ってるのか? おかしくないか?」

 まじめに返答するセイリオスがおかしくてもっと笑った。


「もっと早く進め、スピカ!」
「いや、なんでお前が命令するんだよっ」
「きゃははははっ、わっ! ははは」
「お前の胸筋ならやれる。ヒカリを時間までにあの石舞台へ」

 涙が出るくらい笑って、いつもより高い位置から広場に集まった人を見る。みんな楽しそうで胸のなかがムズムズした。





 無事時間に間に合うと、スピカがヒカリを地面にそっと下ろした。
 セイリオスが、しわっとなったヒカリのローブの裾を引っ張り直し、カツラをかぶせて整えられた。




「茶色い髪のヒカリ……。赤色もいいと思ったけど、茶色もいいな」

 などとスピカがぶつぶつつぶやいている。





 
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