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第3章
闘えないとは言っていない39
しおりを挟むヒカリは鏡に映った自分を見てポツリ。
『灯と同じだぁ』
ちょっと違和感があるけど、面白くって何度も鏡の前で動いてみる。
少し照れて前髪を撫でつけているヒカリは、洗礼前でも魔核質が登録できる証明としてやってきている。
出番が来たら、舞台上に上がるのだ。
洗礼前の子どもを実験台に使おうなどという人がいないため、適任じゃんと即答でOKしたヒカリはやる気に満ち溢れている。
することは体液を提供することだけだと言えども。
ケーティがベルフラワー商会に依頼したのは、金庫のさらなる強化の依頼。
今までの金庫は開ける順序が違っていたりパスワードを間違えば爆発する、溶けて酸になるなど物騒なものが多く、家の誰でも触れるような場所には簡単には置けない代物になっていた。
この血液の中の魔核質を使えば本人にしか開けない金庫ができるのではないだろうかという話から、それならベルフラワー商会に持っていこうとなったのだ。
金庫の呪術はベルフラワー商会の得意としているところであり、数多くの商品を生み出してきた実績と信頼がある。
しかも、ヒカリとセイリオスの知り合いで信用も御墨付だ。
隷属の呪術を利用して金庫に同じ血液、つまり同じ魔核質を持っているものしか開けないように呪術を組む。
それだけで複雑なからくりもいらないし、誤って誰かが死ぬこともない。
通常より安全な金庫ができた。
また、財布につけるキーホルダーも作った。
雷石は衝撃に弱い。
通常は衝撃が伝わらないような場所に設置されるなど、そうならないように加工されているのだが、今回の様にキーホルダーにすると常に摩擦されることになり、危険性が高まる。
ここも呪術でどうにかしようと頭をひねっていたらヒカリが言ったのだ。
シダー液で覆っちゃえばいいんじゃない?
シダー液はどのような環境にも適応するのが功を奏したのか、鎮静作用のある呪術を使用した溶液を溶かし、それで雷石自体を覆うことにした。
これで誤発の可能性が防げた。
失くしたくないものにキーホルダーをつける。
今、舞台上で提示しているのは雷石の小さい削りかすを利用した飾りである。
削りかすの上に切れにくいジンバの尾を使った組紐をシダー液でつなぎわせた。
それらの周囲を硬くしたシダー液で固めることによって摩擦による事故を防ぐ。
で、ジンバの組紐に血液をたらせばそれが雷石へと流れる。
シダー液で固めているため、一週間ほど魔核質が定着するという代物だ。
ケーティが血を垂らすと一瞬光って元に戻った。
失くしても布の下にあっても同じく痕跡ライトに血液を垂らしてかざせば光る代物だ。
しかも研究次第によっては財布の形次第で本人にしか開けない財布も作れるという。
というような説明を舞台上でしており、その血液の提供をケーティとベルフラワー商会の会長とヒカリが行った。
観客の反応はそれなりに上々だった。
「今回、我々の研究に協力していただける人を募集しています。もちろんデータが取れた後は、目の前で皆様から提供された血液等は焼却処分させていただきます」
しかし、血液提供の話をしたら観客が引いていくのがわかった。
皆、難しい顔をして知り合いと話している。
そして一人二人、ここから離れようとしていくのが見えて思わずヒカリは声を出していた。
「まって、まってください!」
ケーティがヒカリの評価しているところの一つに声の聞き取りやすさが含まれる。
たどたどしい話し方なのに話が通じるのは、ヒカリの発声や声の通りやすさ、聞き心地の良い声質があるからだと考えている。
この声が聞こえると耳を傾けなくてはという気持ちにさせるものだから、これは才能だなぁと舞台の上でケーティは聞く姿勢に入った。
引き留めたものの何も考えていないヒカリはとりあえず笑った。
えっと、えっとと目をくるくる動かして何を言おうか考えているのだろう。
「あ、あの! 僕、ヒカリヒノと言います。はじめまして」
ブッと噴き出したのはフィルだけだ。
でも、そのフィルを見つけてヒカリは話をつづけた。
「呪術がコワいって言うのは、よくわかります。だれだて、よくわからないものはこわいし、まいにちがいそがしいし、だから、しらないとこでしらないだれかがきずついてるから、たすけてください、っていわ、れてもむずかしいです」
観客がそうだそうだとヤジを飛ばす。
ヒカリはその人を見てそうですよねと頷く。話を聞いてくれるのがうれしいのでついにっこりしてしまう。
誰だって毎日の生活の中に小さな不安がある。それは今ある幸せや喜びや安心を守るために感じる、不安だ。
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