確かに俺は文官だが

パチェル

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第4章

帰り道の夕焼けは目に眩しい27

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 リゲルたち医務課と、マックスの魔法研鑽部人体研究室はなかなか折り合いがよくない。


 医者でもないのに体にメスを入れるのを良しとしない医務課からすれば永遠に分かり合えない部署なのだ。
 被験者がそんなに集まらないため、彼らは自分たちの体にお互いでメスを入れあっている。
 一応治癒魔術を扱えるものがいるので、死人は今のところ出ていない。


 そんなところへ最近知り合った移民の人が入ろうとしているのだから、思わす付いて来てしまった。


 これ、息子に知られたら怒られるだろうかと、こっそりあたりを見回してから声をかけた。
 何かあれば、息子の代わりに治癒をかける心づもりで同行したので怒られる所以もないかと、途中からは開き直っている。





 さて、その人体研究室にはシンプルな木の机の上に、水の入った盥が一つ置いてある。
 では、ここに座って水に手を付けてください。それだけで、簡単、安全に、魔力の保有量がわかります。


 確かに簡単だ。子どもでもできる。


 ただ、絵面が少し。
 隣でセイリオスがヒカリを心配そうに見て。


「本当に嫌だったら、いいからな。無理はしないでいいから」
「……う、うん」



 ヒカリはもう一度盥の中に目を向ける。


 盥の中にはスイスイと2センチくらいの小魚、いや、ヒレも尾びれもない。というか口以外の器官が見当たらない水生生物がピコピコと泳いでいる。色合いは薄い灰色で、遠目に見たら水面にゴミが浮いているように見える。
 それらの謎の水生生物は目が見えないのに、盥の目の前に立っているマックスの方でびちゃびちゃ水を跳ねている個体が多く見える。


 やっぱり飼い主に懐いているんだろうか。でも、目も鼻もないのにどうやって……。


 そんなことを考えていたら、もう一人付き添いで来てくれたリギルがずいっと一歩前に出た。

「被験者が怯えている。ほんとに害がないかお手本を見せてもらってもいいかな」
「あー、確かに……」


 確かにとつぶやきながら、扉の向こうの助手を呼んできて手を突っ込ませる。

 途端に謎の水生生物たちはその手を取り囲み始めた。
 最初の勢いはすごく、手に口が吸いつくように。まるで5月ごろになると、川の上に飛ばされるこいのぼりのように整列している。


「こうやって振っても離れません、でもちっとも痛くないんですよ。ほら、ほら、ほら。ちょっとこしょばいくらいです」


 と助手さんはにっこり笑って、1分ほどしたらその水生生物たちは離れていき、一匹も吸い付かなくなった。
 確かに指には何の痕も残っていない。


「この魔魚の一種のガラは魔力を吸い取る。湖に生息しているんだけど、こうやって吸い取ってはその生物の魔力が半分になったところで全員食事をやめるんだ。肉を食うわけじゃないから、えさの個体が生き残っていた方が効率的なんだろうな」




 因みに、現在の魔力量の把握は結構あいまいだ。

 体力の把握のように、力比べをしてだれだれより魔力が大きいとか、使える魔法の種類によって魔力量が多いとか判断しているそうだ。
 だからヒカリも小さいものからお試ししているのだが、今のところ魔力切れになった感じがない。

 かといって、水が勢いよく指先から出る兆候もないし、砂粒は相変わらず一粒動くだけ。


 つまり自分の限界がいまいち把握できていないということになる。




 セイリオスとしては仕事中にこまめにチェックできていない現状を歯がゆく思っており、把握できないまま時間がずるずると過ぎていることに終止符を打とうと思ってこちらへやってきたのだ。


 あまり人が近寄らない所だが、セイリオスはその有用性を理解して魔道具の相談にものっている。


 ヒカリは異世界から来た人間だ。
 食べ物などは受け付けているし、体調に変化はない。


 しかし、彼の世界には魔法がないと言っていた。
 ヒカリの体は、魔力に耐えうるのか。
 魔力を使ってもおかしくはならないか。


 体を切り開くわけにはいかないからそれ以外の方法で何かしら手掛かりが欲しい、と考えていたセイリオスからしたらこの研究室は渡りに船なのである。


 他の人の理解が得られていないので、被験者が集まらず信憑性がないうえに、実験に使うのはなぜかこういうグロテスクなものが多い。だから、規模も小さいし、特に利権があってこの研究室を使うものもいない。


 ちなみにスピカが言う変人部とはここのことである。積極的に理解を得ようとしている節もないので致し方ないが。



 ヒカリもそのどう見ても魚には見えない生き物を見てちょっと頬が引きつっていた。食べようとすら思わないものはやはり気持ち悪いかと心配していた。

 




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