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第4章
帰り道の夕焼けは目に眩しい28
しおりを挟むヒカリが手をポンッと打って言った。
「あ、そかそか、これなら洗礼前の、子どもでも、あんぜんにはかれる? 洗礼のとき、大変だたし。へー」
「まぁ、そうなんだよ。事前に魔力の量がわかっていたら少しは安全だからね。ということで手を付けてくれるかな」
ガラは魔力を吸ったからか、さっきより心なしか大きくなっていた。そこに恐る恐る手を入れるとすぐに盥の中のガラがヒカリの手に吸い付く。確かにこしょばい。
水がぴちぴち跳ねるが小さい個体なのでそれほど飛ばない。
しばらく待ってみようと時計を横に置きながら、1分、2分……。
5分経つ頃にはガラの体が2センチから5ミリほど大きくなっただろうか。
最初は雑談をしていたのだけれど、10分経つ頃には3センチになったガラの勢いは変わらず吸い付いている。
にこやかに雑談をしていたマックスも時計を見て、盥を見て、ヒカリを見てと首をぐりぐり動かし始めた。
ちょっとどういう表情かわからない顔でヒカリに問いかける。
「うーん。体の調子はどう?」
「とくに?」
「……もしよかったら足の方でも吸い付かせてみてもいいかな?」
「はい、いいです」
一度手を引き抜こうとしたけど、ガラが吸い付いて離れないので横にいるセイリオスに靴と靴下を脱がせてもらって、足の方も盥に浸す。
「あっ」
「どうかした? しんどくなった?」
ヒカリが背を丸めて、ちいさく声を出す。ちょっとプルプル震えて、顔を上げた。
「んぅ、ぅあ、だいじょぶ、ちょとこそばい、だ、けっ。あ! あは、ふっふふ、んー、ん、んっ、ぐぅー! あぅっ」
笑いそうになるのを抑えたいけれど、手も足もガラだらけで抑えられない。
我慢しているのがバレバレだったのか、なぜかそこにいた三人で顔を合わせて頷きあって、足で魔力を吸い取るのは中止になった。
ガラが5センチくらいになったところでやめになった。
「これは、魔力が多いという事か?」
リゲルがマックスに聞くとマックスがおもむろに盥の中に手を入れた。
途端にガラたちが水を盥の外まで弾き飛ばす。はしゃぐようにマックスの手に吸い付いた。
みるみる大きくなっていくガラはその体長をさらに2センチほど大きくした。マックスはそこで無理やりガラを離し、手を拭く。
「魔力が多いと、こういう風に勢いよく吸い付いて、膨張率も大きい。つまり、ヒカリさんは魔力が多いというわけではない」
「だが、実際にガラはここまで膨張したし、ガラも満腹にはならなかった」
「そうだね。まぁ、そもそも実験段階の話だから、何か実験自体に欠陥があるのかもしれないけれど。そうだ、ちょうどいいや。リゲルさん。ちょっとヒカリさんの体調に変化はないか確認してみてくれない?」
「あぁ、いいぞ」
とヒカリは何やら健康チェックを施され始めた。手や足に傷はないかとかの外傷チェックから問診、最終的には全身スキャンされた。
結果は特に異状なし。
また、先ほどのように魔力を行使してみるも、たらたら指先から水が出てきただけ。
やっぱり、あんな感じでやってきた自分はイレギュラーな存在なのだろうか。招かれたわけではないから、ちょっと体の調整とか出来てないですけどってな感じで、バグっているのかも。
と思ったものの言わずに口を閉じる。
もしかして、セイリオスもそう思って検査しようと考えたのかもしれない。
魔力に異常があったら大変だと過敏になっていたのはどちらかと言えばセイリオスの方だった。
スピカは医者だから慣れているのか、俺がいるから安心しな的な感じでかっこいいけど、セイリオスは魔力に関しては静かに見ているだけで、でも、目を離さない感じだった。
洗礼の泉に行くときも、魔道具に魔力をそそぐときも何も言わないけれど、じっと見ていて。
スピカの方が過敏になりそうな話だと思ったのに、セイリオスの方が過剰に反応している、というかいつもとは違う対応だなとはなんとなく気になっていたのだ。
だからヒカリも慎重に、なるべくセイリオスがいるとき、いない時は絶対にスピカがいるとき、職場では指定されていた魔道具以外には魔力を注がなかった。
まずは言われたことをきちんとやれないと、次には進めぬものだ。
千里の道も一歩から、お兄ちゃんの道も一歩から。
しかし、このようなバグがあったのならもうそれもできなくなるかもしれないな。
この世界にないバグなのだから、いつ何が起きるかもわからないので魔力の使用はもうあきらめたほうがいいのかもしれない。
だってそれは。
本来の自分が持つものではないものだから。
だから使えないのは当たり前のこと。
ヒカリはそっと自分の指からたらりと垂れた水を拭った。
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