確かに俺は文官だが

パチェル

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第4章

それ以上でも、それ以下でもない4

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 ヒカリが壊れた魔道具を馬小屋から運んでいると声をかけられた。

「ヒノさん!」
「チャコさん! こんにちは」


 チャコが小走りで駆け寄ってくる。制服を着ているので町の見回りの帰りだろう。


 隣の国の人が来てから見回りが強化されて警吏課の人も忙しく、恐らく見回りで出動した馬を返しに来たのだろうとチャコの背後をよく見てみる。
 チャコのよく乗る馬が小屋の窓から顔をのぞかせていた。


 騎士課と警吏課などで飼われている馬はそれぞれ別々の小屋で飼育されていて、ここは警吏課の馬小屋になっている。
 そこからつぶらな瞳の馬がクゥーンと鳴いてチャコを見つめていた。ブラッシングをしてもらったあとなのだろう。毛並みがつやつやしている。


「チャコさんのお馬さん、よんでますよ」
「いいんだ。あいつ、ああしたら誰かが可愛がってくれるって知ってるから。またな、ヴァリオ!」


 チャコが呼びかけると、一声、ヴァフッと鳴いて首を引っ込めてしまった。ちょっと犬みたいな鳴き方だったなと眺めていたらチャコが笑った。

「ほらね、そんなに気にしないでいいんだ。それより、それ重くないかい? 運ぼうか?」
「だいじょうぶです。大きいだけで、かるいから」
「へー、そう? それより、それは何?」


 隣を歩きながら、チャコがヒカリの持っている荷物を指差す。

「これ? これは馬小屋のお水をあげるパイプです。穴が開いちゃて、水漏れがひどいから修理です」
「それ、もはや、魔道具じゃなくない?」
「えと、そうなんですけど、大元をたどれば水を流す道具は魔道具で、そうじゃないのもあるけど、おうじょうのは魔道具だから。管轄内です」


 複雑だねとチャコがまたしても笑う。
 チャコはいつ見ても機嫌がよさそうで朗らかとしているのだが、今日は特段機嫌がよさそうでヒカリもなんだかウキウキしてしまう。


 呼び方は警吏課で統一したのか、皆さんヒノと呼んでくれるようになった。
 ここ最近はいつになく砕けて話してくれるようになったので、ちょっと背中がこそばくなる時がある。

 すると、チャコがそれにしてもすごいねと話しかけてきた。

「この間、開発した盾、試作品だけど見たよ! 斬撃とかにも強いし、魔法も結構耐えるよね。あと何より、見た目より結構軽いのが驚いた」
「えへへ、そうですか? よかったです」


 耐久性のチェックなどもあり、正式な品として下ろすのは冬が終わったくらいになるそうだ。
 それまでは警吏課で試供品を試してもらっている。さらなる改良の余地がありそうならその時はまた、実験続きになるだろうが、今のところは休憩だ。


 強化ガラスと違って色を入れることもできないし、透明度はかなり落ちるので王城には今まで通り強化ガラスを使用するが、例えば騎士課や警吏課の訓練場に使う窓とかはもしかしたら糸板になるかもしれないとのことだった。


 そこで最近、忙しくて休みもあわなくなってきたセイリオスのことを思い出す。

 朝ごはんは一緒なのだが、帰りが遅いときがすごく増えた。
 本人も疲れていそうで、ヒカリもなるべく力になりたいと思い、仕事はできる雑用をかなり引き受けているし、家の用事も働く人形と張り切って分担してこなしているし、家ではソファに座ったら、お風呂に入ったら、取り敢えずビール的な感じでマッサージをしてみている。
 スピカと相談して疲れがとれるメニューを沢山用意もしている。


 時々、ちいさく息を吐いているのを見て、ちょっと心配。
 段々、目の下の隈がちょっとずつ色濃くなってきていて、かなり心配。


 そんなセイリオスとその盾の製品チェックをしに行った時の外部研究所でのことを思い出して、また、胸が何だかドキドキしてきた。


 商品の説明をした後、セイリオスは盾もそこそこ扱えるからと言って後日、ヒカリとタウを連れて盾をガンガン使っていた。


 あれは守りではない。
 最早攻撃の種類に入るのではないかとか思いながら見ていた。


 盾で流れてきた炎を受け流すのとか最高にかっこよかった。



 目線を外さずに、何にも考えてないような顔で、揺れない瞳でじぃっと見てるだけ。
 たった数秒の出来事、いや、もう少し短い間。


 あの瞳で見られるのはどんな気持ちなんだろう。



 どうやったらあの最小限の動きで避けられるんだろうとか常日頃思っていたから、ついつい話がそれてチャコとは盾の使い方で話が弾んでしまった。


「すまない、ちょっといいかな?」
「え?」


 チャコと別れた途端、またもや声をかけられた。









「お帰り、ヒノ。そんなにそれ外すの大変だったか?」


 壊れた水道のパイプを運んで、出入り口の机の上に置いているヒカリにエリオットが声をかけた。

 もう少し早く帰ってくるだろうと思っていたのに、思いのほか時間がかかっていたから、何かわからないことがあったのだろうかと様子を見に行こうとしていたのだ。


「あ、それは、全然だいじょぶだったんですけど」
「ですけど?」
「さっき、糸板を作った、人を、紹介してほしいっていわれて」
「え?」


 ヒカリが糸板を作って、セイリオスに説明したのが2週間ほど前。その時にも口酸っぱく言われていたので、ちゃんと教わった通りの断り文句を言ったのだ。


「もうしわけないのですが、魔道具関連課の仕事として引き受けているので、代表としてケーティ・デルタミラ課長と話していただいてよろしいでしょうか」


 かなり練習したので、わからないはずはないと思うのだがかなり食い下がられて。

「その人どんな感じの人だったんだ?」
「えとぅ、服がローブじゃなかくて、騎士ぽい服で、でも見たことなくて。あと、胸とか、肩とかに飾りはなかったから」

「マジで? まぁ、偉いさんじゃなくてよかったけど」


 とエリオットが入り口からそっと外を眺めると、もういない。


「中庭で別れたので、見てもだれも、いないと思うんですけど」


 糸板の特許はもう申請しているので、作った人が誰かは知られているのだがセイリオスが主な作成者は課長にしないかと提案した。


 そういうようにした方が面倒事が少なくていいと言って、魔道具関連課でそういう方針になった。
 それでいいのかとヒカリが課長に尋ねようとしたら「うんうん、いいよ、ぜひぜひ~」と何にも気にしていない感じで許可をもらった。


 いや、本当、不甲斐なくて申し訳ないとヒカリは終始ペコペコしていたら、課長にペコペコ禁止ね? と禁止令を出されてしまった。


 周りの人はとても親切なのでそれに甘えてしまっているわけだが、何か役に立ちたくて盾を作ったのにまた、お手数をおかけしちゃっている状況に少し居た堪れない。


「にしても、騎士が来たかぁ。その人は貴族っぽかったか?」
「うーん。わからないです」
「まぁ、そうだよなぁ。とりあえず、ヒノは、今日ここで俺の研究手伝ってよ」
「はい! おまかせあれ!」



 





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