確かに俺は文官だが

パチェル

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第5章

前途多難なことが多すぎるが、それでもやるつもりです 3

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 リギルは努めて優しく聞こえるように、ゆっくり話した。


「そうだね。あまり大勢の人が知るといい事はないかもしれない。現に君は今回狙われただろう。厳しい事を言うようだが、次がないとは限らない。国を巻き込む争いになることもあるだろう。話を聞くものも相応の覚悟が必要だ」



 どうやらかなりことが大きい。

「俺は構わんぞ。もとよりその覚悟で信用印を押している」

 ヒカリが顔をあげると、ダーナーがしっかりとこちらを見ていた。

「ヒノが何と言おうと、俺たちの信用印を押されたからには、そいつはもう俺のガキの一人だ。守られたくないガキじゃねえんだと言おうが勝手に守らせてもらう。何のために警吏やってると思ってるんだ」

 ふんっと鼻息荒く言い放った。
 カシオに至ってはただにっこり笑っている。

 それにつられてケーティも笑う。

「ダーナー君ったらおっかしいー。そんな当たり前のことふんふん言うものじゃないよ。ねえ、ヒノくん? もちろん僕たちにも話聞いて欲しいに決まっているよね? 大事な大事な僕の部下の幸せの話なんだからねぇ? リギル君も変なこと言うよね」

 と言って笑っていない。

 突然の大きい話にヒカリだってついていけていないのに、即答されるとどうしたらいいのか。

 ヒカリには決断できない。




「大丈夫だ」

 聞こえた声に上を向けばおでこにチュウをされた。


「ヒカリ、この人たちは梃子でも動かないと思うぞ。皆で解決しよう。俺はこんなに頼もしい人たちをほかに知らないから」
「そうだよ。ヒカリ、任せてしまおう。だてに年取ってないんだから」


 スピカがヒカリのつむじにチュウをする。


「でも、ぼくは、ぼくのせいで、誰かが傷つくのは」
「いやだよなあ……。でも、それは逆も言える。俺たちは俺たちの知らないところでヒカリが傷つくのを良しとはしない。一人で挑んでくじけなかったヒカリはすごいよ?」
「ああ、すごい。でも、言ったからな。俺はもうヒカリを離さない。毎日キスを贈るって。俺が離れないんだったら申し訳ないが、この人たちも必然的についてくる。それぐらい受け入れてくれないと困るなあ」
「嫌な舅ばっかりだな……。ごめんな、ヒカリ。この人たちが家族になるなんて嫌……」
「いやなわけ、ないっ、でしょ! そうじゃなくて!」



 言いたいことがうまく伝わらなくて、もどかしい。


「すみませんが、ヒノさん。ちょっといいでしょうか」

 するとカシオが手をあげて発言を求めたので、思わずヒカリは頷く。



「戸惑っているところ大変申し訳ないのですが、ヒノさんはセイリオスとスピカと晴れて恋人同士になったんですよね?」

 そう聞かれて、やっぱり少し頬を染めてしまう。


「おめでとうございます。そうなると思っていたのでほっとしました」

 ヒカリが少し首をかしげると、カシオが心配そうな表情をする。


「ヒノさんたちを見ているものは、いつくっつくんだ、こいつらと思っていたと思いますよ。それくらい相思相愛で、お互いに大切に思いあっていたのは、あなたたちを見ればどんな愚か者でもわかるでしょう」
「え?」

 どういうことと思って周りを見ればリギルまでもが頷いている。


「ということですから、いまさらヒノさんがセイリオスたちを遠ざけても意味はないかと思います。ヒノさんの存在がどういった危険性をはらんでいるのかは私にはわかりかねますが、その二人がヒノさんに言われてくらいでは諦めないだろうし、ヒノさんの存在を狙うものからしたらその二人を狙えば必然的にヒノさんはやってくるでしょう? それに私たち二人も恐らくヒノさんの隠さねばならない秘密とやらを聞いてしまっている可能性は大きくないですか? だってあなたを取り調べしたのは私達ですよ?」

 そう言われるとそうだ。え、じゃあ、どうすれば。
 ヒカリの眉毛がしゅんと悲しそうに垂れ下がる。それを見たカシオは、やりすぎたかと少し手を緩めた。

「ヒノさん。私達は自衛のためにもちゃんと知っておいた方がいいとお伝えしたかったのです。私もあなたは可愛い子どもだと言っても差し支えない存在だと思っているのです。ダメですかね?」

 隣でダーナーがお腹に力を入れて気合を入れ、笑わないようにしていることなど目に入らないヒカリは、うんうん悩んだ。



 そこに復活したダーナーがもう一押しと声をかける。

「よう、ヒノ。俺の見込み違いだったか? 俺の可愛いセイリオスちゃんとスピカちゃんの恋人なんだろう? お前の兄貴なんだったらこういう時はどうすると思う?」
「ぜんりょくでまもるよ。『燈兄ちゃん』だったら、絶対はなれない。どうすればいいかみんなで、相談して、一番、いい方法を考えるっ」
「じゃあ、そうするしかないだろう。お前は今はお前の兄貴には」
「『遠く及ばない』とおもう」
「遠く及ばない、だな」

 セイリオスがちゃんと訳したのを聞いたダーナーがニヤリと笑った。

「だろう? だったら、全員で知恵を、力を合わせて危険なんかぶっ飛ばすしかないだろう」




 力を合わせてぶっ飛ばす。
 それは心ときめく。


 燈兄ちゃんに困ったことはすぐに相談していた。いつも聞いてくれる兄ちゃんってすごいと言えば、兄ちゃんは真面目な顔をしてこう言った。

「困ったときに相談しちゃいけないなんて思うなよ。じゃないと、困ったっていう人にそんなこともできないのかって言ってしまう人になるぞ。兄ちゃんは困ったお前の相談に乗るけど、結局は光は自分の力で乗り越えるだろ? それは俺がかつて困ったときに同じように相談に乗ってくれた人がいたからだ。同じことを返してるだけ」

 兄ちゃんはそう言ってヒカリの頭を撫でた。
 それにな?

「お前が頑張るからそう思ったんだ。頑張っている奴がいたら、助けてやりてぇって、応援してやりてぇって思うもんだろう。俺の人間性を奪うようなことをするなよ」


 ダーナーが燈と同じようなことを言うものだから、何とかなる気がしてきた。
 ここは光がいた場所と変わりない。

 異世界だけど、ここは同じ。
 同じ心を持つ人がたくさんいて、つながりあっている。


 それならいいか。
 どうやってもヒカリより頼もしい人たちばっかりで、力も知恵もある。
 思慮深さだって、経験だってヒカリが10人いても敵わないくらいだから。


 何より一人で頑張るより、みんなで頑張る方が楽しいし。
 誰かが一人頑張るより、皆で頑張った方が好きだし。


 次々、ヒカリの頭のなかのピースがはめ込まれていく。

 そこで一言リギルが言った。


「何も、危険があるだけじゃない。ヒノさん、もう一度聞くよ。この話は信用できない人には言うべきではない。君の為にも話を聞く人はうらぎら」
「あ、それはだいじょぶです」

 ヒカリが若干食い気味に返事すると、リギルが止まって一度咳払いをする。

 ここはちゃんと説明しないとと思い、一生懸命考えていることを伝える。
 裏切ることはないし、裏切られても構わない。
 そこには何かしら理由があって、多分裏切らざるを得なかったんだということ。
 もし裏切られたら悲しいけれど、きっと卑劣な手を使われたから裏切ったんだと思う。


「えと、それにここにいる人は皆、そういうことが好きじゃないと思う。たぶん、自分が許せなく、なる? 人たちだから、そうならないように僕ががんばります」

 考えながら話しているうちに、合点がいく。

 むしろ、そう言う卑劣な相手ならやっぱり話を聞こうが聞くまいがここにいる人たちを巻き込むんじゃないだろうか。
 カシオさんの言ったとおりだ。

 絶対そんなことさせないぞ。

 自分のような目に他の人が合うと思うと、想像すらしたくなかった。 
 そう思ったら、無性に腹が立ってきてセイリオスとスピカの二人の手をぎゅっと握った。



「絶対、まもるからねっ!」



 フンスと鼻息荒く二人を交互に見ると、少しだけ無言で目を丸くしていたけれど二人して頭をぐりぐりと撫でてくる。

「まかせた、ヒカリ」
「頼んだぞ」
「うん、任せて! まずはぼくが、ぼくのみをまもることが大切! だから、リギルさん。お話お願いします」




 リギルはちょっとだけ笑ってからみんなに話をしてくれた。







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