確かに俺は文官だが

パチェル

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第5章

前途多難なことが多すぎるが、それでもやるつもりです。30

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「あのね、僕、今日、すごい元気だよ!」  


 さて、こう言われてどう返すのが正解なのか。
 ベッドの上でニコニコしながら。

 でも、少しだけ力が込められて握りしめられた手が、正座した両膝の上で俺の返事を待っている。 


 わかっている。
 こういうことに慣れていないこの子が、勇気を振り絞って俺を誘ってくれている。

 ガキか。
 ガキだわ。

 俺の方が幾分もガキ。


 この言葉はヒカリが考えた精一杯のお誘いの言葉。
 スピカは俺がこの誘いに乗るまでは、指一本出さない。
 後ろで「バーカ」と口パクで罵っている。


 ヒカリとの接触がセイリオスの魔力暴走を押さえていたと判明した。
 ヒカリはたいそう喜んだ。
 誰かのために何かできるのが嬉しいのだろう。


 あのあと急いでスピカにリギルに連絡を取ってもらい、セイリオスもケーティに連絡を取った。
 王城へ行くと、古い文献を渡された。

「異世界からの訪問者はそれなりに変わった力を持っていることが往々にしてある。これは持ち出し不可だが、見るだけなら構わないし、覚えるのもいいだろう」

 デルタミラ公爵が、目の前で息子さんを膝の上に座らそうとして拒否されているのを見なかったことにして、セイリオスはその書物を開く。

「遣わされてくるものによって個性のように力が違っていてね」

 セイリオスは一言一句見逃さないようにその書物を舐めるように見ている。

「王は心配されておられた」
「はい?」

 リギルと目が合う。

「彼があのような扱いを受けたのは魅了の力があるのではないかと」
「なぜ、そのような?」
「かつてそれを持っていた方がいらっしゃたのだ。だが、王は彼を見て魅了ではないと言っていたので安堵していたのだが」


 正確には。

「おい、デルタミラ。何がそれほど目立たないだ? 十分かわいらしい様子ではないか。お前の目は節穴か? それとも、何か。お前にとってはほとんどの人間は紙くずとそう変わらぬか」
「王、その者にとっては身内以外はそう見えるものかと」
「はあ、聞いた私がばかだった。お前の好みなど聞いておらんだろうが」
「好みではなく、事実です。我が子ほどの美貌を持ってはおられませんし、我妻ほど」
「もういい、誰がお前の家系の化け物級と比べろなどと言った。世の中にもっと目を向けろ。あの方は十分目を引く。好かれやすい見た目だ。お前の息子に聞いてみろ。はあ、目立たぬのであれば魅了でも持っていらっしゃるかと思ったがそうではなさそうだ。あれは持っているだけで厄介だから、本当に良かった」


 というやり取りがヒカリに直接会った後の王とデルタミラ公爵とリギルの会話なのだが、いらぬところは端折った。

「整える能力を持っていらっしゃったようだな」
「整える」
「簡単に言うと、洗礼の泉と同じものだ。あれは神が与えたものの一つと言われている。洗礼の泉は神の力が強すぎるため一定の年齢にならぬと扱えぬが。彼は違う」

 デルタミラが指さすところに書いてあったのは「癒し」という文字。

「かなり初期のころにやって来られた聖者殿がその能力を持っていた。幾人か来られている。その方たちが洗礼の泉の正しい使い方を世界中に広めたともいわれている。魔力暴走で傷ついた人々を癒して回った。文字を持たぬものにも触れて癒し、洗礼の泉を管理するようにとな」
「確か彼は癒しの魔力があると息子から聞いたが」
「はい、あります。ほんの少しですが」
「魔力が高いものには特に好まれやすい体質だ。魔力の通り道を整え、かつ癒しの魔力が痛みを取るのだろう。まあ、意識なく使っておられるのは少し異なることだが」

 確かにヒカリが魔力を意図的に使ってセイリオスを癒した形跡はない。
 文献にも、かつての聖者殿が触れて何かを唱えると癒されてというものばかりだった。
 むしろ、何かを唱えなくてもそう言ったことができたのは。

「聖獣殿の方であろうな。もしくは体でつながれば否が応でも効果があるが。効果があり過ぎるから、そちらの手段はあまりとっておられない方ばかりだな」
「まあ、囲われた場合はその話は書かれないですしね」
「ということで、特に異常な事ではない。神からの祝福とでも思っておけばいいだろう」
「そうですね。その能力を使って衰弱されたという方もいませんし、彼の体には負担にはなりませんよ」
「まあ、こういったことを話す相手は厳選するようにな。使いようによっては若返りの薬のようにもなるものだ。魔力は生命力とつながっている。変なことを考える輩がいるやもしれん、と王からのお言葉だ」



 というようなことがあり、すぐにヒカリに伝え、スピカと話し合った結果、幾人かには伝えることにした。
 今後、セイリオスが魔力を使う場面に出くわした時、説明する手間を省くため。
 そして、ごまかしてもらうのを手伝ってもらうためだ。

 いくらヒカリの力のことを秘密にしていても、セイリオスが何かの折に魔力を使用してしまえば否が応でも説明がいる。
 下手にごまかしてつつかれて、ヒカリのことが変に伝わるのは避けるためだ。


 そして、その日にヒカリがベッドの上でニコニコ言ったのだ。

「セイリオス、する?」
「え?」
「えち」
「え?」

 二回目の「え?」で珍しくヒカリが止まって、ポチポチボタンを外していた手を止めに入ったセイリオスの指を見ていた。

「ん? あれ?」

 戸惑うヒカリに俺が告げた。

「昨日もしたから、しんどいだろう。また、今度、元気な時にな」

 後でスピカに聞いたら。


「どこかの疲れ切った旦那のセリフみたいですね」
「セックスレスの始まりかと思ったわ」
「どんだけデリカシーないんだ、お前。まるでこっちだけがエッチしたいと言うかのような。鬼の所業。新幼妻に言ってはならぬ言葉じゃねえの。あーあ、拗らせ童貞はこれだから」

 と何故か話を知っていたカシオとダーナーにまでそう言われた。






 だから冒頭のセリフにつながる。
 ヒカリは2,3日置きにそう言ってセイリオスがその気になるのを待っている。
 実を言えばセイリオスはいつでもその気なのだが、意外にもロマンチストだった自分が戸惑っているようだった。


 因みにヒカリはセイリオスとしたらスピカともする。だから、そういう誘いをするときは二人がいる時だけなのだ。
 それも気を遣っているようにしか思えないセイリオスは、毎回申し訳ないと思いながらヒカリと行為を重ねた。
 ヒカリと一緒にカシオに初級の魔法を習っているときも楽しいけれど、いいのだろうかと申し訳なくなる。



 日に日に、魔力の流し方を覚えていく体は不思議でもあった。
 一緒に勉強しながら隣を見ると、目が合ったヒカリがセイリオスの手を握る。


「大丈夫だよ。怖くないよ」


 何よりヒカリには全部お見通しのように思える。
 セイリオスのいらぬプライドや、葛藤のようなものが落ち着くのを傍で見守られている。


 それが大変こそばくて、温かくて。
 セイリオスも自分での対応がガキだと思いつつも、少し甘えさせてもらっている。


 だから、一生懸命お誘いしてくれているのにも興奮しないわけなくて。

 俺の恋人が可愛いうえにかっこよすぎて、ダメになりそうなんだが。








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