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3章 紅炎の巫覡
12 私の太陽
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***
一方その頃。
雪の町を歩くミセリアは微笑を浮かべながらケルタの話を聞いている。
街の中心部からはさほど離れていない場所で、賑わいもある。ケルタから聞くのは事前に見たパンフレットと同じような、浅い紹介のみで正直知っている話ばかりだ。
適当に相槌を打ち続けていたが、それも限界だ。図書館の中ではソフィア達が上手くやっているだろうし、こちらも話を進めたって構わないだろう。
「ですので――」
「なるほど。素晴らしい景色だな。皆も賑わっている」
「でしょう? 幸せであると、民からそう聞きますね。それではそろそろ戻りますか」
「いや。この街は広いんだ。まだ見所はあるだろう? そうだな――あっちの方とか」
指し示したのは、ソフィアから聞いた貧民街がある方角だ。
げげげっとあからさまに顔をしかめたケルタを見るに、この男が黒であることが確信となる。フェリクスの夢のためにも、どうにか落とし前をつけたいものだ。
「そ、そちらには観光名所などはなくてですね……」
「私は観光しに来たのではない。この先、あいつが治める国の民をこの目で見ておきたい。それだけなんだ」
にっこりと笑って圧力をかけ、黙らせる。
「ちっ。どこの血筋かも分からない小娘が偉そうに……」
「何か言ったか?」
「い、いえっ」
フェリクスと出会う前は、暗殺組織を生業とする者達に散々こけにされてきたのだ、矮小な悪意を向けられようと傷にはならない。彼女はもう、悪意に屈するほど弱くない。
案内してもらうという意味を尋ねたくなる程度には、ミセリアの方からずんずんと歩みを進める。もちろん方角は貧民街だ。
広場の人気が嘘のように消え、お世辞にも綺麗とは言えない外観が見えてくる。
立ち止まったミセリアの視線を受け、ケルタは脂ぎった冷や汗を垂らすばかりだ。
「ここはずいぶんと人気がないのだな?」
「じ、実はですね……これには事情があるのです」
「ほう、聞こうではないか」
「この街は現在、精霊ビエントによって脅かされておりまして」
「なるほど? それで?」
つらつらとケルタが切り出した内容は、図書館でソフィアがアルブから聞いたものと同一だ。
とりあえず話を聞いてみることにする。
「七日ほど前です。ビエントがニクスを訪れました。人々はいつ殺されるかも分からない恐怖に怯え、その日に眠れた者はいないでしょうね……」
「ふむ」
「かの精霊はこう言いました。『八日後、贄と金を用意せよ』と。そう、つまり明日です。明日には贄と金を用意せねば、このニクスは滅んでしまう。故に私はその準備をしなければならないのです。悪辣な精霊から、この街を守るために」
「続けて」
「ですので、私は図書館に戻りたいのです。時間がないのです。今こう話をしている時間で、なにか対抗策も見つかるやもしれません」
「贄と金はどうやって用意する?」
「贄は、精霊が指定するのでなんとも。しかし金は、わたしが働いて蓄えてきた金でなんとか支払います」
「ほう……殊勝だな」
明らかに嘘である。
ビエントにとっても良い迷惑だろうが、擁護もできない。
ミセリアは両腕を組み、小さくため息をついた。白い息が空気中に溶けていく。
「それで、そこの君たちは七日前は眠れたか?」
「え?」
突然大きく声を張ったミセリアに、ケルタは目を丸くする。
貧民街の窓から覗く何人かのくぼんだ目。こっそりとこちらの様子を窺っていた貧民たちだ。彼らはひそひそと何かを話しており、ミセリアの問に答える者は――いた。
雪道の真ん中に、痩せた少年が一人歩き出る。意志の強い瞳が特徴的だった。
「眠れなかったよ――暖炉もストーブも温かい食べ物もなくて、あまりにも寒いから」
「君は精霊を見たことがあるか?」
「あるよ。でも少なくとも七日前はいなかった」
ケルタの発言と食い違いが発生する。彼の口ぶりからすれば、民全員が知るくらいには派手にビエントが訪れたはずだ。それなのに、この少年はそうではないと主張する。
「だ、そうだが? ケルタ殿」
「……こ、この少年は病気なのでしょう。可哀想に、医者に診て貰わねばなりませんね」
「それも嘘。俺も妹のルパも、風邪を引いて医者に駆け込んだ時もあったさ。なんて言ったと思う? 『治療費が払えないなら帰ってその辺で野垂れ死んでろ』だってさ」
「なななんと! 事が終わったらその医者から話を聞こう」
このままでは平行線になって終わりそうにない。
ミセリアは庇うかのように少年に背を向け、ケルタに決定的な証言を突きつけてやる。
「ケルタ殿、私を騙そうなどと思わない方が良い」
「なにを……」
「貴方は七日前に精霊ビエントが現れたと言ったが、それはあり得ない。なぜなら、半年くらい前にフェリクスがビエントと向き合い、勝った上で契約を交したからだ。今のビエントは女神の元で世界を守ることに徹している。私は彼らのやりとりをこの目で見たのだ」
「そんな……そんなの、ありえない! 暴虐非道な精霊が、あんな平和ぼけした脳天気な小僧と対等な契約なんて、そんな……あ」
今度は盛大なため息をつく。
今まで穏やかな口調を保っていたが、こうも呆気なく崩れようとは。これが彼の本性なのだ。
ミセリアは黄金の視線でケルタを睨みあげる。
「私の太陽を愚弄するな、外道」
ケルタの僅かに黄色い歯が食いしばられる。ギリギリと軋む音が雪街に響く。
「平和ぼけ? 脳天気? 世界の情勢もろくに知ろうともしない者にそれを言う資格はないぞ。あいつはよく分からない時もあるが――本気で世界を案じ、本気で自分と向き合い、怖いくらいに優しくて強い男なんだ。そうだな……例えば、他者を救うために、突きつけられたナイフを受け入れることができるか? フェリクスはそれをやってのけるさ」
そう、あれは二人が出会って間もない頃だ。
ケセラの命を盾に取られて我を失ったミセリアのナイフを、あろうことか受け止めてみせた。愚かで弱い彼女を助けたいと、好きだと言ってくれた。その言葉にどれだけ救われたことか。
「あいつは狂ってる。あまりにも世界に優しすぎる。その意志はどんなものにも揺るがない。ビエントも、それを認めた」
ふ、と懐かしむように笑む。
あれから少し経ったが、今も鮮明に思い出せる。
「……」
「さて、真実を吐いて貰おうか。この街は変わらねばならない時が来た」
「……の……が……」
わなわなと震えていたケルタだが、激怒の形相を浮かべるとミセリアの胸ぐらを掴みにかかる。
周りから悲鳴が上がるが、ミセリアが動じることはない。かつて暗殺組織でいたぶられていたときの大人達のほうが、ずっと速かった。
表情も変えずに拳を避け、ケルタの背後に回って肘で背を強めに打つ。ぐえ、と情けない声とともに頭から雪に突っ込む男を冷たく一瞥する。
「さて、どうするかな……」
その時だった。
曇天がふいに明るくなる。
上を見上げれば、黒い空に円形に回る光――否、赤い炎が見えた。どう考えても自然現象ではない。
「え、炎姫様……?」
「炎姫様がいらっしゃるのか……?」
不可思議な現象を目撃した人々が、漸く屋外に出てくる。『炎姫様』という単語を出しているのは老人達だが、中には子どもも交じっている。
皆が炎姫様とやらに沸き立つ中、たった一人、個人の名前を呟く者がいた。――あの少年だ。
「ソフィアだ」
「君は、彼女を知っているのか?」
「うん。ソフィアが俺たちに火をくれたから」
「……そうか」
***
その日、図書館前の広場に司書の男アルブが立ち、緊張の面持ちながらある宣言をする。
曰く、炎姫様のお告げがあったと。アルブが長の任を継ぎ、街を建て直せと。
彼のはるか真上では、そうだと言わんばかりに赤い炎が揺らめいて、そして消えていった。心の底では炎姫を信仰していた大人達は、その神秘的な光景にアルブを長とすることを認めざるを得ないようだった。
「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました」
「これからを担うのは貴方の仕事よ。私は何もしていないわ」
天の炎はもちろんソフィアによるものである。
ソフィアはアルブに、この街の長になるよう告げて市民の前に立たせた。神子の力を用いて盛り上げてやれば、市民の注目は確実に彼に向く。ケルタとアルブであれば、圧倒的に後者の方が長に向いている。アルブはアルブで頼りがいがないのだが、そこは王家側から少し支援してやればいい。
ケルタはというと、王家反逆の罪で逮捕される流れとなった。頭を冷やして罪を洗わなければならない。
夜。
新たな長と持ち上げられたアルブとミセリアが儀式のために民の注目を集めている最中、ソフィアは袖を引かれる感触を覚えて下を見る。
いくらか背の低い少年が、少女と共に隣に立っていた。
「ソフィア」
「あら。外に出てきて大丈夫? 寒くない?」
「さっきココア貰ったから。……それより、ちゃんと動いてくれてありがとう。おかげで死なずに済みそうだ」
「そう。特に私は何もしていないけどね」
「でもちゃんと働きかけてくれたから。――俺さ、夢が出来たんだ」
広場では聖火を持ったミセリアが、燭台の前に立って今まさに灯そうとしていた。皆が固唾を呑んで見守る中、ルプスだけはソフィアを見上げて赤い頬を微笑みにつり上げる。
「ソフィアってさ、お城の人なんだろ?」
「正確には違うけど、お城で世話になることも多いわね」
「じゃあさ、騎士になればいつでもソフィアに会えるかなぁ」
その瞳は、きらきらと輝いていた。
「そうなるかもしれないわね、多分」
「へへー、じゃあ、俺、騎士になるよ。助けて貰った分、今度はソフィアを助けるから」
「――」
明るい未来を胸に抱き、いつぞやの生意気さを消し飛ばしたルプスはニコニコと笑っている。
その未来が、絶対に訪れるとは言えなかった。
この少年が成長する頃、世界は、自分はいったいどうなっているのだろう。
ソフィアは沸き上がった疑問を飲み込み、笑顔で覆い隠した。
「……知り合いに騎士がいるの。騎士志望の男の子がいると、そう伝えておくわね」
「やったぜ」
雪の降る夜、燭台には最後の聖火が輝いていた。
一方その頃。
雪の町を歩くミセリアは微笑を浮かべながらケルタの話を聞いている。
街の中心部からはさほど離れていない場所で、賑わいもある。ケルタから聞くのは事前に見たパンフレットと同じような、浅い紹介のみで正直知っている話ばかりだ。
適当に相槌を打ち続けていたが、それも限界だ。図書館の中ではソフィア達が上手くやっているだろうし、こちらも話を進めたって構わないだろう。
「ですので――」
「なるほど。素晴らしい景色だな。皆も賑わっている」
「でしょう? 幸せであると、民からそう聞きますね。それではそろそろ戻りますか」
「いや。この街は広いんだ。まだ見所はあるだろう? そうだな――あっちの方とか」
指し示したのは、ソフィアから聞いた貧民街がある方角だ。
げげげっとあからさまに顔をしかめたケルタを見るに、この男が黒であることが確信となる。フェリクスの夢のためにも、どうにか落とし前をつけたいものだ。
「そ、そちらには観光名所などはなくてですね……」
「私は観光しに来たのではない。この先、あいつが治める国の民をこの目で見ておきたい。それだけなんだ」
にっこりと笑って圧力をかけ、黙らせる。
「ちっ。どこの血筋かも分からない小娘が偉そうに……」
「何か言ったか?」
「い、いえっ」
フェリクスと出会う前は、暗殺組織を生業とする者達に散々こけにされてきたのだ、矮小な悪意を向けられようと傷にはならない。彼女はもう、悪意に屈するほど弱くない。
案内してもらうという意味を尋ねたくなる程度には、ミセリアの方からずんずんと歩みを進める。もちろん方角は貧民街だ。
広場の人気が嘘のように消え、お世辞にも綺麗とは言えない外観が見えてくる。
立ち止まったミセリアの視線を受け、ケルタは脂ぎった冷や汗を垂らすばかりだ。
「ここはずいぶんと人気がないのだな?」
「じ、実はですね……これには事情があるのです」
「ほう、聞こうではないか」
「この街は現在、精霊ビエントによって脅かされておりまして」
「なるほど? それで?」
つらつらとケルタが切り出した内容は、図書館でソフィアがアルブから聞いたものと同一だ。
とりあえず話を聞いてみることにする。
「七日ほど前です。ビエントがニクスを訪れました。人々はいつ殺されるかも分からない恐怖に怯え、その日に眠れた者はいないでしょうね……」
「ふむ」
「かの精霊はこう言いました。『八日後、贄と金を用意せよ』と。そう、つまり明日です。明日には贄と金を用意せねば、このニクスは滅んでしまう。故に私はその準備をしなければならないのです。悪辣な精霊から、この街を守るために」
「続けて」
「ですので、私は図書館に戻りたいのです。時間がないのです。今こう話をしている時間で、なにか対抗策も見つかるやもしれません」
「贄と金はどうやって用意する?」
「贄は、精霊が指定するのでなんとも。しかし金は、わたしが働いて蓄えてきた金でなんとか支払います」
「ほう……殊勝だな」
明らかに嘘である。
ビエントにとっても良い迷惑だろうが、擁護もできない。
ミセリアは両腕を組み、小さくため息をついた。白い息が空気中に溶けていく。
「それで、そこの君たちは七日前は眠れたか?」
「え?」
突然大きく声を張ったミセリアに、ケルタは目を丸くする。
貧民街の窓から覗く何人かのくぼんだ目。こっそりとこちらの様子を窺っていた貧民たちだ。彼らはひそひそと何かを話しており、ミセリアの問に答える者は――いた。
雪道の真ん中に、痩せた少年が一人歩き出る。意志の強い瞳が特徴的だった。
「眠れなかったよ――暖炉もストーブも温かい食べ物もなくて、あまりにも寒いから」
「君は精霊を見たことがあるか?」
「あるよ。でも少なくとも七日前はいなかった」
ケルタの発言と食い違いが発生する。彼の口ぶりからすれば、民全員が知るくらいには派手にビエントが訪れたはずだ。それなのに、この少年はそうではないと主張する。
「だ、そうだが? ケルタ殿」
「……こ、この少年は病気なのでしょう。可哀想に、医者に診て貰わねばなりませんね」
「それも嘘。俺も妹のルパも、風邪を引いて医者に駆け込んだ時もあったさ。なんて言ったと思う? 『治療費が払えないなら帰ってその辺で野垂れ死んでろ』だってさ」
「なななんと! 事が終わったらその医者から話を聞こう」
このままでは平行線になって終わりそうにない。
ミセリアは庇うかのように少年に背を向け、ケルタに決定的な証言を突きつけてやる。
「ケルタ殿、私を騙そうなどと思わない方が良い」
「なにを……」
「貴方は七日前に精霊ビエントが現れたと言ったが、それはあり得ない。なぜなら、半年くらい前にフェリクスがビエントと向き合い、勝った上で契約を交したからだ。今のビエントは女神の元で世界を守ることに徹している。私は彼らのやりとりをこの目で見たのだ」
「そんな……そんなの、ありえない! 暴虐非道な精霊が、あんな平和ぼけした脳天気な小僧と対等な契約なんて、そんな……あ」
今度は盛大なため息をつく。
今まで穏やかな口調を保っていたが、こうも呆気なく崩れようとは。これが彼の本性なのだ。
ミセリアは黄金の視線でケルタを睨みあげる。
「私の太陽を愚弄するな、外道」
ケルタの僅かに黄色い歯が食いしばられる。ギリギリと軋む音が雪街に響く。
「平和ぼけ? 脳天気? 世界の情勢もろくに知ろうともしない者にそれを言う資格はないぞ。あいつはよく分からない時もあるが――本気で世界を案じ、本気で自分と向き合い、怖いくらいに優しくて強い男なんだ。そうだな……例えば、他者を救うために、突きつけられたナイフを受け入れることができるか? フェリクスはそれをやってのけるさ」
そう、あれは二人が出会って間もない頃だ。
ケセラの命を盾に取られて我を失ったミセリアのナイフを、あろうことか受け止めてみせた。愚かで弱い彼女を助けたいと、好きだと言ってくれた。その言葉にどれだけ救われたことか。
「あいつは狂ってる。あまりにも世界に優しすぎる。その意志はどんなものにも揺るがない。ビエントも、それを認めた」
ふ、と懐かしむように笑む。
あれから少し経ったが、今も鮮明に思い出せる。
「……」
「さて、真実を吐いて貰おうか。この街は変わらねばならない時が来た」
「……の……が……」
わなわなと震えていたケルタだが、激怒の形相を浮かべるとミセリアの胸ぐらを掴みにかかる。
周りから悲鳴が上がるが、ミセリアが動じることはない。かつて暗殺組織でいたぶられていたときの大人達のほうが、ずっと速かった。
表情も変えずに拳を避け、ケルタの背後に回って肘で背を強めに打つ。ぐえ、と情けない声とともに頭から雪に突っ込む男を冷たく一瞥する。
「さて、どうするかな……」
その時だった。
曇天がふいに明るくなる。
上を見上げれば、黒い空に円形に回る光――否、赤い炎が見えた。どう考えても自然現象ではない。
「え、炎姫様……?」
「炎姫様がいらっしゃるのか……?」
不可思議な現象を目撃した人々が、漸く屋外に出てくる。『炎姫様』という単語を出しているのは老人達だが、中には子どもも交じっている。
皆が炎姫様とやらに沸き立つ中、たった一人、個人の名前を呟く者がいた。――あの少年だ。
「ソフィアだ」
「君は、彼女を知っているのか?」
「うん。ソフィアが俺たちに火をくれたから」
「……そうか」
***
その日、図書館前の広場に司書の男アルブが立ち、緊張の面持ちながらある宣言をする。
曰く、炎姫様のお告げがあったと。アルブが長の任を継ぎ、街を建て直せと。
彼のはるか真上では、そうだと言わんばかりに赤い炎が揺らめいて、そして消えていった。心の底では炎姫を信仰していた大人達は、その神秘的な光景にアルブを長とすることを認めざるを得ないようだった。
「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました」
「これからを担うのは貴方の仕事よ。私は何もしていないわ」
天の炎はもちろんソフィアによるものである。
ソフィアはアルブに、この街の長になるよう告げて市民の前に立たせた。神子の力を用いて盛り上げてやれば、市民の注目は確実に彼に向く。ケルタとアルブであれば、圧倒的に後者の方が長に向いている。アルブはアルブで頼りがいがないのだが、そこは王家側から少し支援してやればいい。
ケルタはというと、王家反逆の罪で逮捕される流れとなった。頭を冷やして罪を洗わなければならない。
夜。
新たな長と持ち上げられたアルブとミセリアが儀式のために民の注目を集めている最中、ソフィアは袖を引かれる感触を覚えて下を見る。
いくらか背の低い少年が、少女と共に隣に立っていた。
「ソフィア」
「あら。外に出てきて大丈夫? 寒くない?」
「さっきココア貰ったから。……それより、ちゃんと動いてくれてありがとう。おかげで死なずに済みそうだ」
「そう。特に私は何もしていないけどね」
「でもちゃんと働きかけてくれたから。――俺さ、夢が出来たんだ」
広場では聖火を持ったミセリアが、燭台の前に立って今まさに灯そうとしていた。皆が固唾を呑んで見守る中、ルプスだけはソフィアを見上げて赤い頬を微笑みにつり上げる。
「ソフィアってさ、お城の人なんだろ?」
「正確には違うけど、お城で世話になることも多いわね」
「じゃあさ、騎士になればいつでもソフィアに会えるかなぁ」
その瞳は、きらきらと輝いていた。
「そうなるかもしれないわね、多分」
「へへー、じゃあ、俺、騎士になるよ。助けて貰った分、今度はソフィアを助けるから」
「――」
明るい未来を胸に抱き、いつぞやの生意気さを消し飛ばしたルプスはニコニコと笑っている。
その未来が、絶対に訪れるとは言えなかった。
この少年が成長する頃、世界は、自分はいったいどうなっているのだろう。
ソフィアは沸き上がった疑問を飲み込み、笑顔で覆い隠した。
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