久遠のプロメッサ 第三部 君へ謳う小夜曲

日ノ島 陽

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2章 蒼穹の愛し子

1.5 膝枕

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「あのぅ、ミセリアさん……?」
「なんだ文句でもあるのか」
「いえありません正直に言って天国ですありがとうございます」

 二人きりになった執務室。客人用の二人がけソファにミセリアは座っており、その膝にはフェリクスが頭を乗せている。否、乗せられている。
 おまけにやわやわと髪を撫でられているものだから、フェリクスは恥ずかしいようなくすぐったいような嬉しいような止めて欲しいような、そんななんとも言えない感情に襲われている。
 フェリクスはミセリアに対して大胆に抱きついたり口説いたりすることもあったが、向こうから迫られるのには大変弱い質である。そのことをきっちり学んだミセリアはそれを利用して弱った旦那を掌握している。
 時々指先が耳に触れる度に顔が熱くなる。
 この光景を見ることが出来るのは、もちろんミセリアだけの特権だ。

「それで、お前はどう思う?」
「うーん……」

 ふいに投げかけられた問いかけに、フェリクスは目を眇めながら答える。

「根拠はないけど……全て繋がっている気がするんだ」
「ほう?」
「ここ最近のこと、全部。何か誰かの手の上で踊らされているような、そんな気持ち悪さがある」
「では、ソフィアたちの失踪とレイの失踪も?」
「あぁ。根底にある理由は同じなんじゃないかと、そう思って。二人は元から繋がりがあるだろう? それに、ミセリアも直前に二人が話したがってたって言ってたろ? だから余計にそう思うのかもしれないけど」

 聞いた話によれば、レイとソフィアの二人は旅に出るまで認知されていない森の中でひっそりと暮らしていたという。最近は別行動することも多かったが、二人の奥底には家族のような繋がりがある。
 だからこそそれぞれの失踪には共通の何かがあると、少しだけ思っている。
 金赤色から離れた手が、今度は肩へ伸びる。

「可能性は捨てきれないな。なら、二人の心境を変化させた要因は一体何だ?」
「それは……」

 肩付近を撫でていた手が今度は頬に触れ、フェリクスは身じろぎをする。
 落ち着かないには落ち着かないのだが、これに嬉しさを感じてしまうあたりミセリアには弱いのだと思い知らされる。初めて会った日から本気で惚れ込んでいるせいである。
 恥ずかしいけれど、彼女の体温はフェリクスのもやもやとした黒い悩みを解きほぐしてくれる。

「あの神様、かな」

 許し難い存在だ。
 名前を言わずともにじみ出る怒気に気がつき、ミセリアはフェリクスの肩を掴んで上を向かせる。弱く揺れる石榴石の瞳。
 狂人かと言いたいくらいに強靱な精神力を持つこの国の王だが、哀しみと怒りとやるせなさで溢れかえりそうになっている。それはそうだ。初めて自らの在り方を初めて肯定してくれた人が理不尽に奪われてしまったのだから。
 無言で両頬を包み込み、ミセリアは顔を近づけた。それから触れるだけのキスをして、夜空色の髪で視界を塞いだ。
 今のフェリクスには彼女の黄金色の眼差ししか見えない。

「忘れるな。私はお前の半身だ。お前を守る者だ。一人で抱えられると思うなよ」

 そこで、フェリクスはようやく笑った。

「あはは、君にはやっぱり負けるなぁ。ありがと、ミセリア」
「私を口説き落としてみせた報酬とでも思っておけ」
「かっこいいね」

 今度はフェリクスの方から頬にキスを返し、それから幾分迷いの消えた表情を浮かべる。

「もう少しだけ、話し合おうか」
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