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夜明けの幻想曲 1章 黄金蝶の予言者
21 夜明け
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「私には分からない。お姉ちゃんが何故何も残さずに消えなければならなかったのか。イミタシアはどうして生まれなければならなかったのか」
夜風がミセリアの長い髪を揺らす様をフェリクスは見ていた。人気のない森の外、セラフィら王国騎士団が用意した宿屋の前に広がる小高い丘の上に二人はいた。
あれからなんとか遺跡の外に出て、騎士団に保護されたフェリクス達に与えられたのは休息だった。フェリクスが眠れずに外に出てきたその時にはもう、ミセリアは丘で一人佇んでいた。
「俺にも分からない。初めて知ったことばかりだ。でも、ケセラさんから教えてもらったことは、覚えているよ」
「お姉ちゃんから?」
「そう」
フェリクスはミセリアの横に立って夜空を仰ぎ見る。日の出が近いのか、遠くの空はうっすらと明るくなっている。
「――イミタシアは、精霊が生み出そうとした新しい神だ。苦しみの果て、死ねば何も残らない。そんな悲しい存在を、精霊は量産しようとしていたってことだろう?」
フェリクスは深い憤りを覚えた。あの時、ミセリアの腕の中にいたケセラは跡形もなく消えた。そこに本当にいたのかも怪しいと、幻でないかと疑ってしまうほどに。後に残されたのは、彼女に対する感情と、精霊に対する怒りだけだった。
「結局人間は奪われ、虐げられる立場のまま。――でも、ケセラさんは教えてくれたよ。人間にも、戦う手段はあると」
「お姉ちゃんが、言ったのか。それは一体、何なのだ?」
「神子。ずっと昔に女神様から力を与えられた一族だってさ。具体的にどんな力を持つのかまでは分からなかったけど、俺にはその力があるらしい」
フェリクスは自らの手のひらを握りしめる。
「俺、その力について知りたい。精霊から人間、人間から人間、どちらにも悲しいこの現実を変えたいと思うよ。いや、助ける。約束する。」
ミセリアはフェリクスの横顔を見る。
強い意志がそこにあった。それを感じ取って、ミセリアは微笑んだ。
「そうか。なら私も、お前を助けるよ。光が差す方へ導くことがお姉ちゃんの願いでもある。それに、私自身もお前を助けたいと思っている――約束する」
「ミ、ミセリア!!」
感激してフェリクスが飛びつこうとした動きを察知して、ミセリアは華麗に避ける。ドシーン、と豪快に倒れこんだフェリクスを見下ろしてミセリアは噴き出した。
「ふふ。……ああ、そうだ。確か話したい事があると言っていなかったか?」
「あ、そうだ」
むくりと起き上がり、フェリクスはミセリアに座るよう促す。それに従ってミセリアも座る。
「なんで俺がミセリアに自分を重ねてたかってことを話しておきたかったんだ。ミセリアになら話してもいいと思ってさ」
「ほう」
「――俺にもさ、姉さんがいるんだよ。血の繋がった姉さんが」
「ほう。――ん?」
訝しげにミセリアは眉を顰める。
「シアルワ王家に女性の後継者はいなかったはずだが。赤子ならまだしも、姉? 聞いたことがない」
「そりゃそうだよ。姉さんは父さんの方針で、いないことになっているんだ」
フェリクスは姉について話した。口外を禁じられた存在を、初めて王家と関係のない他人に話している。ミセリアは目を丸くしながらもしっかりと聞いていた。そしてなんとなく理解した。フェリクスもまた、姉想いだったのだ。夜華祭りで買っていたペンダントも姉に向けてのものであることも察しがついた。
「なるほど。優しい弟だな、お前は。ところでそんなことを私に言ってもよかったのか? 国家機密だろう?」
「平気だよ。ミセリアは信用できると思っているし。だってそうだろう? ミセリアこそ優しいから」
「――人タラシ」
「ミセリア限定だよ、多分」
「多分ってなんだ、多分って」
ひとしきりコントを続け、二人は気が付いた。
――太陽が昇っている。
「綺麗だな」
ミセリアがこぼした一言に、フェリクスも頷いた。
「また新しい一日が始まる。これからもよろしくな、ミセリア」
「ああ」
朝焼けに照らされて二人は肩を寄せ合った。
丘には、二人分の影だけが伸びていた。
久遠のプロメッサ 第一部一章 黄金蝶の予言者 完
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久遠のプロメッサ 第一部二章 異端の花守
夜風がミセリアの長い髪を揺らす様をフェリクスは見ていた。人気のない森の外、セラフィら王国騎士団が用意した宿屋の前に広がる小高い丘の上に二人はいた。
あれからなんとか遺跡の外に出て、騎士団に保護されたフェリクス達に与えられたのは休息だった。フェリクスが眠れずに外に出てきたその時にはもう、ミセリアは丘で一人佇んでいた。
「俺にも分からない。初めて知ったことばかりだ。でも、ケセラさんから教えてもらったことは、覚えているよ」
「お姉ちゃんから?」
「そう」
フェリクスはミセリアの横に立って夜空を仰ぎ見る。日の出が近いのか、遠くの空はうっすらと明るくなっている。
「――イミタシアは、精霊が生み出そうとした新しい神だ。苦しみの果て、死ねば何も残らない。そんな悲しい存在を、精霊は量産しようとしていたってことだろう?」
フェリクスは深い憤りを覚えた。あの時、ミセリアの腕の中にいたケセラは跡形もなく消えた。そこに本当にいたのかも怪しいと、幻でないかと疑ってしまうほどに。後に残されたのは、彼女に対する感情と、精霊に対する怒りだけだった。
「結局人間は奪われ、虐げられる立場のまま。――でも、ケセラさんは教えてくれたよ。人間にも、戦う手段はあると」
「お姉ちゃんが、言ったのか。それは一体、何なのだ?」
「神子。ずっと昔に女神様から力を与えられた一族だってさ。具体的にどんな力を持つのかまでは分からなかったけど、俺にはその力があるらしい」
フェリクスは自らの手のひらを握りしめる。
「俺、その力について知りたい。精霊から人間、人間から人間、どちらにも悲しいこの現実を変えたいと思うよ。いや、助ける。約束する。」
ミセリアはフェリクスの横顔を見る。
強い意志がそこにあった。それを感じ取って、ミセリアは微笑んだ。
「そうか。なら私も、お前を助けるよ。光が差す方へ導くことがお姉ちゃんの願いでもある。それに、私自身もお前を助けたいと思っている――約束する」
「ミ、ミセリア!!」
感激してフェリクスが飛びつこうとした動きを察知して、ミセリアは華麗に避ける。ドシーン、と豪快に倒れこんだフェリクスを見下ろしてミセリアは噴き出した。
「ふふ。……ああ、そうだ。確か話したい事があると言っていなかったか?」
「あ、そうだ」
むくりと起き上がり、フェリクスはミセリアに座るよう促す。それに従ってミセリアも座る。
「なんで俺がミセリアに自分を重ねてたかってことを話しておきたかったんだ。ミセリアになら話してもいいと思ってさ」
「ほう」
「――俺にもさ、姉さんがいるんだよ。血の繋がった姉さんが」
「ほう。――ん?」
訝しげにミセリアは眉を顰める。
「シアルワ王家に女性の後継者はいなかったはずだが。赤子ならまだしも、姉? 聞いたことがない」
「そりゃそうだよ。姉さんは父さんの方針で、いないことになっているんだ」
フェリクスは姉について話した。口外を禁じられた存在を、初めて王家と関係のない他人に話している。ミセリアは目を丸くしながらもしっかりと聞いていた。そしてなんとなく理解した。フェリクスもまた、姉想いだったのだ。夜華祭りで買っていたペンダントも姉に向けてのものであることも察しがついた。
「なるほど。優しい弟だな、お前は。ところでそんなことを私に言ってもよかったのか? 国家機密だろう?」
「平気だよ。ミセリアは信用できると思っているし。だってそうだろう? ミセリアこそ優しいから」
「――人タラシ」
「ミセリア限定だよ、多分」
「多分ってなんだ、多分って」
ひとしきりコントを続け、二人は気が付いた。
――太陽が昇っている。
「綺麗だな」
ミセリアがこぼした一言に、フェリクスも頷いた。
「また新しい一日が始まる。これからもよろしくな、ミセリア」
「ああ」
朝焼けに照らされて二人は肩を寄せ合った。
丘には、二人分の影だけが伸びていた。
久遠のプロメッサ 第一部一章 黄金蝶の予言者 完
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久遠のプロメッサ 第一部二章 異端の花守
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