久遠のプロメッサ 第一部 夜明けの幻想曲

日ノ島 陽

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外伝

ケセラ編 星のない夜に 1 (第一部一章読破後の閲覧推奨)

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 眠れない夜というのは度々訪れる。
 両親と住んでいたあの屋敷でも、母親と引っ越した後の家でも、この精霊から与えられた真っ白な檻の中でも。 
 ケセラは暖かな布団を深々と被って、自身を暗闇の中に閉ざす。暗闇の中にいれば、余計なことを考えなくて済む。
 部屋にたった一つだけ取り付けられている大きな窓からは――けれど決して出口にはなり得ない――星のない空が広がっている。月の光が強すぎて他の星々がかき消されてしまう。
 そんな夜は決まって眠れない。
 あの目が頭から離れなくて。あの目がずっとケセラを見つめているから。

――君に助けてもらったのは、今日みたいな星のない空の夜だった。


 幼いケセラはひとりで泣いていた。一本だけ木が立つさみしい丘の上。空には大きな月が昇りかけている。周りに大人の姿はいない。ケセラの側にいるのは、村に住んでいる子供たちばかり。年齢はケセラと同じくらいの、学校に通う前の幼い子供たち。
 彼等はケセラの髪を力任せに引っ張った。金色のヘアピンで飾られたエメラルドグリーンの綺麗な髪の毛は、時折ブチリと切れて地面に落ちていく。

「おまえがつぎの“イケニエ”なんだろー?」
「かあちゃんたちがいってたぞ」
「こんなかみのけ、はじめてみた」

 ケセラは泣きながら子供たちの手を振り払おうともがく。痛い。髪を引っ張られるのも、手をつねられるのも痛い。

「し、しらない。わたし、イケニエじゃないもん・・・・・・!!」

 子供たちの無邪気な笑い声が怖かった。母親は朝から寝込んでいて、元気がなさそうだった。少し前に越してきた小さな村に、ケセラはまだ友達はいない。きっと、誰も助けに来てくれない。
 そのときだった。

「あ・・・・・・」

 突然子供たちがケセラの髪を離したかと思うと、目を見合わせてそそくさと走り去っていった。
 ケセラは顔を上げる。
 涙で視界がぼやける中、見えたのは月に照らされた綺麗な緑色。夏の木々で風に揺れる葉のような、鮮やかな緑色。紫紺の瞳が、じっとケセラを見つめていた。

「大丈夫?」

 涼やかな、しかし抑揚のない声だった。見た目はケセラと同じくらいの少年だというのに、とても大人びて見えた。

「う、うん」

 なんとかケセラは頷いた。この少年の名前は知っている。この村の村長の子供だということも知っている。しかし、この少年が村から遠巻きにされている理由は分からない。村は、この少年を恐れているようにも見える。
 それでも、少年が登場したことによってケセラが助かったのは事実である。いかに幼いといえど、そのくらいはケセラにも理解できた。

「ありがとう。えっと、セルペンス君」
「無事で良かった。あの子たちには、ぼくからお話しておくから」

 少年セルペンスは微笑んだ。どこか空虚な微笑みだった。

「君も早く家に帰った方がいい。君のお母さんが心配している」
「わ、分かった。それじゃあ本当にありがとう。おやすみなさい」

 セルペンスが指した方角に向かってケセラは走り出す。母親に躾けられた通り、挨拶は怠らない。
 その日以降、ケセラがいじめられることはなかった。
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