久遠のプロメッサ 第一部 夜明けの幻想曲

日ノ島 陽

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外伝

ケセラ編 星のない夜に 2

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「あのね、お母様。今日は素敵な男の子に助けてもらったの」

 ベッドサイドの椅子に腰掛けて、ケセラは母親に語りかけた。
 ベッドに横たわる母親はにこ、とやつれた顔に微笑みを貼り付けてケセラの話を聞いていた。

「あら、どんな男の子だったのかしら。向かいの家のエドワードくん?」
「いいえ。違うわ」
「それじゃあ、道具屋さんのジャレタくんかしら」
「いいえ。もっと素敵な男の子よ」

 母親が言った二人はむしろケセラをいじめた張本人でもある。そのことをケセラは言わない。母親の心労をこれ以上は増やしたくなかったのだ。

「誰なのかしら。ケセラ、教えてちょうだい」
「ふふ、それはね」

 ケセラは少年を思い出して口元をほころばせる。
 昔母親に読んでもらった絵本に出てきた王子様なのかもしれない。ケセラはまだ絵本の存在に憧れてもおかしくはない年齢だ。セルペンスは、母親を除けば村で唯一ケセラを気にかけて助けてくれる男の子。あの夜はセルペンスに言われるまま帰ってきてしまったが、いつかまたお礼を言わなくてはならないとケセラは感じていた。

「村長さんのところのセルペンスくん」

 その瞬間、母親の顔から笑みが消えた。
 冷えた空気に、ケセラは一度瞬きをした。母親から表情が抜け落ちる時は、決まってケセラが何か間違いをしたときだ。ケセラは必死に考える。わたしは何かしてはいけないことをしてしまっていたのだろうか。

「ケセラ」
「お母様?わたし、なにか」
「やめなさい」

 母親は腕を伸ばしてケセラの頬に触れた。冷たい指先が頬をなでる感触にほんの少し恐怖を感じながら、ケセラは理由を聞いた。間違えてしまったことがあるのなら、謝らなければならない。

「あの子とだけは、関わるのをやめなさい」

 その声があまりにも冷たくてケセラは身震いをした。

「どうして?セルペンスくんに、なにか悪いことでもあるの?」
「いいから、やめなさい。あなたのためなのよ」
「分からない、分からないわお母様。どうしてなの?」
「・・・・・・今日は寝なさい、ケセラ。明日は絵本を読んであげるわ」

 その夜は母親の部屋から退散するしかなかった。あてがわれた自分の部屋に入り、ケセラはベッドに寝転がる。
 ――釈然としない。
 なぜ村人は彼を避けるのだろう。なぜ母親は関わるのをやめろと言うのだろう。
 彼が悪いことをしている様子を見たことはない。この村に来てさほど時間はたっていないが、ケセラがセルペンスを見るときは決まって彼はひとりぼっちだった。時間帯によって場所は違うが、常にひとりで一日を過ごしているらしい。

(私は好きなのにな)

 ケセラは布団を被って目を閉じる。
 明日、もう少しだけお話してみよう。


***

 翌日、日が高く昇る前にケセラは家から出た。
 なるべく人通りの少ない道を選んで村の外れに向かう。周りの大人はケセラのことをかわいそうなものを見る目で見てくるし、子供たちはいじめてくる。ここでケセラのことをまともに見てくれるのは、母親と村長さん、そしてセルペンスくらいだ。
 朝の丘の上にはいつもセルペンスがいることは分かっていた。たったひとりで風に当たっているか、座って本を読んでいるかの二択だ。
 今日は風に当たっているようだった。綺麗な緑髪が揺れている。
 ケセラはセルペンスを見つけて安心した。人の本質を見るにはまず話をしなくては。助けてもらったはいいものの、ケセラはろくに話をしたことはなかった。村に来て日が浅いのも理由の一つだが、さりげなくセルペンスに追い返されてしまうのだ。

(母上もみんなもセルペンス君のことを遠ざけるけれど、私は理由もなしにそんなことしたくない)

 ケセラはサクサクと芝を踏みながらセルペンスに近づいていく。
 大木に背を預け、遠くを見つめている。傍らには分厚い本が3冊積まれている。

「あ、あの!」

 ケセラは勇気を出して声をかけた。
 セルペンスはひとつ瞬きをして、ケセラの方を見た。
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