102 / 115
外伝
ケセラ編 星のない夜に 2
しおりを挟む「あのね、お母様。今日は素敵な男の子に助けてもらったの」
ベッドサイドの椅子に腰掛けて、ケセラは母親に語りかけた。
ベッドに横たわる母親はにこ、とやつれた顔に微笑みを貼り付けてケセラの話を聞いていた。
「あら、どんな男の子だったのかしら。向かいの家のエドワードくん?」
「いいえ。違うわ」
「それじゃあ、道具屋さんのジャレタくんかしら」
「いいえ。もっと素敵な男の子よ」
母親が言った二人はむしろケセラをいじめた張本人でもある。そのことをケセラは言わない。母親の心労をこれ以上は増やしたくなかったのだ。
「誰なのかしら。ケセラ、教えてちょうだい」
「ふふ、それはね」
ケセラは少年を思い出して口元をほころばせる。
昔母親に読んでもらった絵本に出てきた王子様なのかもしれない。ケセラはまだ絵本の存在に憧れてもおかしくはない年齢だ。セルペンスは、母親を除けば村で唯一ケセラを気にかけて助けてくれる男の子。あの夜はセルペンスに言われるまま帰ってきてしまったが、いつかまたお礼を言わなくてはならないとケセラは感じていた。
「村長さんのところのセルペンスくん」
その瞬間、母親の顔から笑みが消えた。
冷えた空気に、ケセラは一度瞬きをした。母親から表情が抜け落ちる時は、決まってケセラが何か間違いをしたときだ。ケセラは必死に考える。わたしは何かしてはいけないことをしてしまっていたのだろうか。
「ケセラ」
「お母様?わたし、なにか」
「やめなさい」
母親は腕を伸ばしてケセラの頬に触れた。冷たい指先が頬をなでる感触にほんの少し恐怖を感じながら、ケセラは理由を聞いた。間違えてしまったことがあるのなら、謝らなければならない。
「あの子とだけは、関わるのをやめなさい」
その声があまりにも冷たくてケセラは身震いをした。
「どうして?セルペンスくんに、なにか悪いことでもあるの?」
「いいから、やめなさい。あなたのためなのよ」
「分からない、分からないわお母様。どうしてなの?」
「・・・・・・今日は寝なさい、ケセラ。明日は絵本を読んであげるわ」
その夜は母親の部屋から退散するしかなかった。あてがわれた自分の部屋に入り、ケセラはベッドに寝転がる。
――釈然としない。
なぜ村人は彼を避けるのだろう。なぜ母親は関わるのをやめろと言うのだろう。
彼が悪いことをしている様子を見たことはない。この村に来てさほど時間はたっていないが、ケセラがセルペンスを見るときは決まって彼はひとりぼっちだった。時間帯によって場所は違うが、常にひとりで一日を過ごしているらしい。
(私は好きなのにな)
ケセラは布団を被って目を閉じる。
明日、もう少しだけお話してみよう。
***
翌日、日が高く昇る前にケセラは家から出た。
なるべく人通りの少ない道を選んで村の外れに向かう。周りの大人はケセラのことをかわいそうなものを見る目で見てくるし、子供たちはいじめてくる。ここでケセラのことをまともに見てくれるのは、母親と村長さん、そしてセルペンスくらいだ。
朝の丘の上にはいつもセルペンスがいることは分かっていた。たったひとりで風に当たっているか、座って本を読んでいるかの二択だ。
今日は風に当たっているようだった。綺麗な緑髪が揺れている。
ケセラはセルペンスを見つけて安心した。人の本質を見るにはまず話をしなくては。助けてもらったはいいものの、ケセラはろくに話をしたことはなかった。村に来て日が浅いのも理由の一つだが、さりげなくセルペンスに追い返されてしまうのだ。
(母上もみんなもセルペンス君のことを遠ざけるけれど、私は理由もなしにそんなことしたくない)
ケセラはサクサクと芝を踏みながらセルペンスに近づいていく。
大木に背を預け、遠くを見つめている。傍らには分厚い本が3冊積まれている。
「あ、あの!」
ケセラは勇気を出して声をかけた。
セルペンスはひとつ瞬きをして、ケセラの方を見た。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる