久遠のプロメッサ 第一部 夜明けの幻想曲

日ノ島 陽

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外伝

ケセラ編 星のない夜に 3

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 どこまでも無機質な紫紺の瞳にケセラの姿が映り込む。無表情だった顔に、うっすらと微笑みを貼り付けてセルペンスは軽く会釈をした。

「・・・・・・おはよう」
「お、おはよう!隣、いいかな」

 ケセラのうわずった声にセルペンスは小さく頷いた。
 ケセラはホッとしてセルペンスの隣に腰を下ろした。セルペンスはケセラから目を離し、再び遠くを見つめようとする。それに気がついたケセラは慌てて話を振る。

「えっと、何の本を読んでいるの?」

 ケセラの質問にセルペンスは視線をケセラに戻す。次いで本に視線を落とす。分厚い本を手に取って、抑揚のない声で答える。

「医療の本」
「医療?・・・・・・あ、お医者様のための本だね、難しそう」
「読む?」

 差し出された本をケセラは受け取ろうとする。腕を伸ばしたところで、突然セルペンスに掴まれた。

「え、何?」
「・・・・・・怪我」

 セルペンスはケセラの袖からのぞく痣を見ていた。昨日つけられた引っかき傷よりも古い、黒い痣。
 セルペンスの反応にケセラは困ったように笑うしかなかった。

「えっとね、痛くないから大丈夫だよ」
「・・・・・・治さないと」

 ぼそりと呟いて、セルペンスは身体の向きを変えてケセラに向き合う。
 小さな手が痣のある腕に添えられる。心地よいぬくもりに目を細めながらもケセラは困惑に首を傾げた。
 セルペンスの手のひらから淡いエメラルドグリーンの光が溢れる。

「えっ」

 ほどよく暖かいその光はとても美しかった。幻想的で、夜に見たらもっと綺麗なんだろうとケセラはぼんやりと考えた。
 光が消えたとき、ケセラの腕には痣も引っかき傷もなくなっていた。すべての怪我が消えた腕に痛みは微塵も残っていない。

「す」

 ケセラが驚いている間にじりじりと後ずさりをしていたセルペンス。彼にとってケセラは予想外の反応を見せた。

「すごい!!セルペンス君は優しい魔法使いなんだね!」

 ほんのりと頬を染めて、目を輝かせて。ケセラは興奮しながらセルペンスに詰め寄って手を握りしめた。

「ありがとうセルペンス君!!」

 流石のセルペンスも目を見開いて驚いたようだった。ぎゅっと握りしめられた両手とキラキラと輝くケセラの顔を交互に見合わせて、言葉もないままに小さく頷いた。

「実はね、これはここに来る前お父さんから叩かれてしまって。それで、お母さんの家のあるこの村まで逃げてきたの」

 ケセラは興奮したまま語り続ける。自分はこの村で生まれたが、生まれて間もなく都市に引っ越したこと。父親はかなりの短気で母親や自分に手を上げていたこと。それで母親とこの村まで逃げてきたこと。村に来て良いことがあまりないので、少し心細かったこと。
 だからこそ、少しでも優しくしてくれる人がいて嬉しかったこと。

「やっぱりセルペンス君は悪い人なんかじゃないよね!あ、そうだ。お礼をしないと」

 ケセラは悩んだあと、前髪につけていた金のヘアピンを外した。そしてセルペンスに手を伸ばす。
 セルペンスは目を閉じた。その間にケセラはセルペンスの長い前髪をヘアピンで留めてやる。目にかかっていた髪がなくなる。癖の少ない髪はよく手入れされているのか、さらさらとしている。

「これで本も読みやすくなると思うの。それあげるから良かったら使ってね」

 セルペンスは留められたヘアピンに触れて、光のない目でケセラを見やる。

「・・・・・・ありがとう」

 その声には一欠片の感情が宿っていた。幼いケセラはさほど気にしていなかったが、その様子を見ていた人影は驚きの表情を浮かべていた。
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