45 / 115
夜明けの幻想曲 2章 異端の花守
16 目覚めた先で(レイ視点)
しおりを挟むじんわりと意識が浮上する。視界は赤い空で覆い尽くされていた。どうやら日が沈む時間帯になってしまったらしい。
レイは身体を起こして思考する。自分は一体どうしてここに倒れているのか。
さっと辺りを見回して、レイは両隣にシャルロットとアルが眠っていることに気がついた。そして、それを見た瞬間自分たちは崖から落ちてしまったのだということを思い出した。今はもう揺れは収まり、静寂に満ちている。自分たちが横たわっていたのは比較的平らな岩の上で、仲良く三人並んでいた。崖から落ちてきたという状況にしては綺麗に整えられている気がする。しかし、周りは同じく落ちてきたであろう大きな岩が転がっている。やはり、夢ではないようだ。
「起きたのか」
そこへ第三者の声がした。
警戒しつつレイが声を主へ目を向ける。しかし、その男はレイにとって見覚えのある姿をしていた。片目を黒髪で覆った背の高い男。レイが見た時はきらびやかなタキシードを纏っていたのだが、今は黒色を基調とした衣服を身に纏っている。そのほとんどが外套に隠れていたが。
「貴方は・・・・・・エルデさんですね。どうしてここに・・・・・・それに、助けてくださったのですか?」
「そう。あのパーティーぶりだね、レイ君。城の者から君たちが塔へ向かったと聞いて心配になってね、追いかけてきたというわけさ。あの地震が収まったあとここに立ち寄ったら君たちが倒れていた。私は介抱しただけだよ。特に怪我はなさそうだったけれどね」
「そう、だったんですか。ありがとうございます」
エルデはちょうど良い大きさの岩に腰掛けて微笑んだ。
若干の違和感をおぼえつつ、レイはエルデに感謝の意を伝えた。エルデはいいんだよ、と手を振る。
「レイ君たちはこれからどうするつもりなんだい?」
「ええと、正直どうしたら良いのか分かっていなくて。フェリクスさんたちを探せばいいのか、先に進んでしまってもいいのか。とりあえずは二人が起きるまで待つつもりですけど」
「それでは私から助言させてもらうよ。そこの二人が起きたら、夜が明けるまで待って塔の方へ向かいなさい。入れ違いになるといけないからね、シアルワの王子たちもおそらくはそうするだろう。ああ、そうだ。この先少し進むと小さな洞窟がある。今日はそこで休むと良い」
「は、はい。ありがとうございます」
エルデが指さした先は歩けそうな道が続いている。崩落で散乱しているはずの岩は奇跡的に道を塞いではいない。
「君が無事で良かったよ」
エルデは微笑み、近くに落ちていた小石を拾い上げる。手のひらでころころと転がして、突然岩陰に向かって小石を投げた。小石を手放す僅かな時間、その顔に貼り付いていたのは無だ。レイはそれに対して微かな恐怖をおぼえ、無意識のうちに自らの服の袖を握りしめる。
小石はからん、と軽い音を立てて岩に当たった。
「どうかしたんですか?」
「いや、ネズミでもいるのかと思ったのでね。気のせいだったようだ」
「そうですか・・・・・・」
一瞬垣間見えた無表情は消え、レイの方を向いてエルデは頭を掻いた。「早とちりだったよ」と恥ずかしそうに眉尻を下げる様子に、レイは握りしめていた手の力を抜いて微笑み返した。完全に恐怖が抜けきったワケではないが、金縛りのような状態からは回復できた。
「ありますよね、ネズミかと思ったら気のせいだったことって。俺も経験ありますよ」
「そうかい?なら良かったよ。・・・・・・それじゃあ、私は城に戻るとしよう。仕事が残っているのでね」
「暗くなりますが大丈夫ですか?」
「平気さ。さぁ、日が沈む前に二人を起こして洞窟へ向かいなさい。道なりに進んでいけば、明日はすんなり王子たちと合流できるはずさ」
「はい。改めてありがとうございました。お気をつけて」
血のような赤目を細め、エルデは立ち上がる。軽く手を振り、立ち去っていった。
エルデの姿が見えなくなった頃、レイはすうすうと寝息を立てている二人を揺すり起こした。このまま目を覚ますまで待っていようか、とも思ったがエルデの言う通り起こして行動を共にした方が良い。
「ううん・・・・・・?」
うめき声をあげながらシャルロットもアルも簡単に目を覚ました。その後二人目を合わせて瞬きを数回、そして同時に目を見開いてレイの方を見た。
その動きがあまりにもシンクロしていたため、レイは思わず吹き出してしまう。
「わ、私たち無事なの!?それともここは天国なの!?」
「あわわぁ!!どうしましょう!?」
「二人とも、安心して。確かに俺たちは崖から落ちてしまったみたいだけど、大きな怪我もなく無事だよ。外交官のエルデさんが助けてくれたみたい」
「外交官のエルデさん?ああ、確かそんな人がいたような?」
レイが目覚めてからの経緯をさっくりと説明する。アルはエルデの名を出した途端首を傾げていた。あまり関わりはなかったのかもしれない、とレイは考える。花守の一族は政治にはあまり関わっていないようなので、それが一番自然な考えと言えるだろう。
「この先に洞窟があるらしいから、今日はそこで寝よう。暗い中進んで遭難してしまったら大変だし」
「この状況は既に遭難と言える気もするけど。でも、風をしのげる場所があるならありがたいよね」
エルデが指し示した方角に向かって三人は歩き出す。上を見上げれば崩れてしまった岩肌が高い位置にあるのが窺える。あんなに高い場所から落ちても無傷であることが不思議だった。こうして三人で歩いているが、足に痛みは全くない。強いていうのなら鈍痛はあるのだが、間違いなくそれは疲れによる筋肉痛だ。
その疑問は三人ともが持ったものであるが、誰も口には出さなかった。疑問を解消してくれる答えはおそらく見つからないだろうし、それに今は休みたかった。
***
「はぁ~~危ないなぁ。あのまま居座ってたら今頃粉微塵に――いや、それすらも残っていなかったかもな」
いかに好奇心旺盛であることを自覚していると言えど、あの眼差しにはつい冷や汗をかいてしまった。恐怖というものを久しぶりに感じたかもしれない。いや、事実感じていた。
「ふふ、ふふふふふふ」
笑いがこみ上げてくる。あの時は一目散に逃げたが、どうやら更に面白いことが発見できたようだ。
「目をつけられてしまったかな?これ以上近づいたら殺られちゃうかな?そいつは困るな。今は大人しくルシたんのパシリでもやりますか」
白衣の男は漏れる笑いを隠すことはせずに立ち上がり、岩の転がる霊峰を下っていく。勝手に研究所から抜け出してこんな場所にまで来てしまったことが相棒にばれてしまった時にはしばらく口も利いてもらえなくなるな、と予想しながら。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる