62 / 115
夜明けの幻想曲 3章 救国の旗手
1 彼女の居場所
しおりを挟むラエティティア王国の王城にある一室。フェリクスは部屋の空気が沈んでいることに冷や汗をかく。穏やかな夕日が差し込む客室にいるのはフェリクスを含めて五人。その中でもとりわけレイの表情が硬い。
その原因は、ほんの数分前にセラフィが口に出した一人の名だ。
――ソフィア。
フェリクスはソフィアという人間について知っていることはほとんどない。暗殺組織の件で地下施設に潜入した際、チラリと姿を見たことがあるだけだった。怜悧な美しさを秘めた女性だな、という印象だけが頭に残っている。
「……とりあえず、ソフィアという人に会いにいくという方針でいいんだな」
その微妙な空気の中をミセリアの凜とした声が通り抜けていく。確認の問いにフェリクスは乗る。
「そ、そうだな。でも、どこに行けばいいんだ?」
ミセリアの問いに肯定した瞬間に、重要な問題点が浮かび上がる。会いに行くにしても居場所が分からなければどうしようもない。セラフィが彼女は行方不明だった、と語っていることから誰も明確な住処を知らない。……と思われたが。
「レイ君、ソフィアについて知っていることはありませんか?」
セラフィがレイに向かって問いかけた。何故ここでレイに問いかけるのか、とフェリクスは首を傾げたがすぐに思い出した。地下でソフィアに出会った時、彼女はレイに何かを話しかけていた。フェリクスは内容までは覚えていないが。
「……住んでいる場所、なら知っています。でも、多分そこにはもういないと思います」
数秒黙り込んだ後、レイは意を決して口を開く。本来なら隠すべきである森の住処を口に出す。今はソフィアのためにも話した方が良いはずだった。フェリクス達にならば話しても良い、と信頼からの発言でもある。シャルロットもその横でじっとレイを見つめている。
「そうですか。ちなみに、君とソフィアは今までどこで暮らしていたんです?」
「シアルワ王国の領地にある、迷いの森と言われる森の中です。あの森には精霊に故郷を奪われた人々が暮らす集落があるんです。俺とソフィアは、そこで隠れて暮らしていました」
「迷いの森?あの広大な森に集落があるなんて聞いたことがないぞ。……もしかして、王家に届け出てない?」
「そうですね……恐らくは。今まで黙っていてごめんなさい」
しゅん、と肩を落としたレイにフェリクスは慌てて手を振る。
「いや、気にしなくてもいいよ。確かにあの森はろくに手入れもされていないから人も寄りつかないだろうし、精霊が近寄らないかも~なんて考えるのも可笑しくはなさそうだし。それより、ソフィアさんって人がどこにいそうか分かるか?予想でもいいけど」
「ありがとうございます。う~ん、居場所かぁ……あ、そうだ。ひとつだけあります。確実にいるという保証はないですが」
「ぜひ教えてくれ」
レイは頷いて、フェリクスとセラフィが仰天する地名を口にした。
「マグナロアという所です」
「「マグナロア???あの戦闘狂の巣窟の??」」
「さすが主従。仲が良いな」
ボソッと呟かれたミセリアの言葉に主従二人が顔を見合わせているところでシャルロットがポンと両手を合わせた。
「そっか。ソフィア、そこに修行に行ってるって言ってたね!」
「待って。シャルロットもあの時以外に彼女と面識があるのかい?」
「うん。言ってなかったっけ?私、村をビエントに襲われた時に気を失ってしまって。気がついたらレイとソフィアが助けてくれていたの。その時に少しお話を聞いたんだ」
「そ、そうだったのか」
セラフィがいつもの敬語を崩して驚く横で、今度はミセリアが首を傾げた。
「マグナロア……戦闘狂?」
「そうそう、マグナロアはシアルワ王国の中でも一等変わった街なんだ。あの街では戦闘能力が何よりも重視されていて、統率者は街で一番の強者って話だよ。それだけならいいんだけど」
「ほう?」
「街に入るのにも、ある程度の戦闘能力が必要なんですよ。門番と模擬戦をして、門番に認められたら許可証を貰える……そんな仕組みの街です。その分、のうき……いえ、力というものに忠実で、誠実な人が多いイメージがありますね」
なるほど、とミセリアは頷いた。若干興味が湧いたことは口に出さない。自分だったら街に入ることはできるのだろうか、とズレた思考をしかけるが努めて冷静に本題へ切り替える。
「マグナロアについての概要は分かった。そこにソフィアという人がいるかもしれないのなら行ってみるべきではないか?無駄にはならないだろう」
「そうだな。マグナロアかぁ……行くんだったら……いや、何でもない。レイが回復したら行こうか、と思ったけどレイとシャルロットはどうする?ここに残ってもいいし」
フェリクスはベッドに腰掛けるレイとシャルロットの方を見る。しばらく行動を共にしていた二人だったが、無理してもらう必要性はまったくない。
レイとシャルロットはお互いに顔を見合わせ、言葉もなしに頷き合う。この二人の間には確かな絆があるらしい、と窺わせる微笑みを浮かべて。
「もちろん一緒に行きますよ」
「私も。ソフィアはレイと並んで私の恩人だもの、ちゃんとしたお礼を言えてないから伝えなくちゃ」
「ありがとう、二人とも!」
これでこの部屋にいる全員が道を同じくすることが確定した。フェリクスは嬉しそうに頷く。その一方でセラフィは良い笑顔を浮かべて、レイを見る。それに気がついたレイがどういう反応をしたら良いのか分からない、といったように視線をうろつかせている。
「ところでレイ君」
「は、はい」
「前から聞こうと思っていたのですが、ようやく機会が得られました。ソフィアについて知っていることを教えてくださいね。彼女の安否を僕ら、とても心配していたんですから。少しくらいお話聞いても、いいですよね」
「ハ、ハイ」
笑顔から溢れる圧にレイがピンと背筋を伸ばして声を強張らせた。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる