久遠のプロメッサ 第一部 夜明けの幻想曲

日ノ島 陽

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夜明けの幻想曲 3章 救国の旗手

1 彼女の居場所

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 ラエティティア王国の王城にある一室。フェリクスは部屋の空気が沈んでいることに冷や汗をかく。穏やかな夕日が差し込む客室にいるのはフェリクスを含めて五人。その中でもとりわけレイの表情が硬い。
 その原因は、ほんの数分前にセラフィが口に出した一人の名だ。
 ――ソフィア。
 フェリクスはソフィアという人間について知っていることはほとんどない。暗殺組織の件で地下施設に潜入した際、チラリと姿を見たことがあるだけだった。怜悧な美しさを秘めた女性だな、という印象だけが頭に残っている。

「……とりあえず、ソフィアという人に会いにいくという方針でいいんだな」

 その微妙な空気の中をミセリアの凜とした声が通り抜けていく。確認の問いにフェリクスは乗る。

「そ、そうだな。でも、どこに行けばいいんだ?」

 ミセリアの問いに肯定した瞬間に、重要な問題点が浮かび上がる。会いに行くにしても居場所が分からなければどうしようもない。セラフィが彼女は行方不明だった、と語っていることから誰も明確な住処を知らない。……と思われたが。

「レイ君、ソフィアについて知っていることはありませんか?」

 セラフィがレイに向かって問いかけた。何故ここでレイに問いかけるのか、とフェリクスは首を傾げたがすぐに思い出した。地下でソフィアに出会った時、彼女はレイに何かを話しかけていた。フェリクスは内容までは覚えていないが。

「……住んでいる場所、なら知っています。でも、多分そこにはもういないと思います」

 数秒黙り込んだ後、レイは意を決して口を開く。本来なら隠すべきである森の住処を口に出す。今はソフィアのためにも話した方が良いはずだった。フェリクス達にならば話しても良い、と信頼からの発言でもある。シャルロットもその横でじっとレイを見つめている。

「そうですか。ちなみに、君とソフィアは今までどこで暮らしていたんです?」
「シアルワ王国の領地にある、迷いの森と言われる森の中です。あの森には精霊に故郷を奪われた人々が暮らす集落があるんです。俺とソフィアは、そこで隠れて暮らしていました」
「迷いの森?あの広大な森に集落があるなんて聞いたことがないぞ。……もしかして、王家に届け出てない?」
「そうですね……恐らくは。今まで黙っていてごめんなさい」

 しゅん、と肩を落としたレイにフェリクスは慌てて手を振る。

「いや、気にしなくてもいいよ。確かにあの森はろくに手入れもされていないから人も寄りつかないだろうし、精霊が近寄らないかも~なんて考えるのも可笑しくはなさそうだし。それより、ソフィアさんって人がどこにいそうか分かるか?予想でもいいけど」
「ありがとうございます。う~ん、居場所かぁ……あ、そうだ。ひとつだけあります。確実にいるという保証はないですが」
「ぜひ教えてくれ」

 レイは頷いて、フェリクスとセラフィが仰天する地名を口にした。

「マグナロアという所です」
「「マグナロア???あの戦闘狂の巣窟の??」」
「さすが主従。仲が良いな」

 ボソッと呟かれたミセリアの言葉に主従二人が顔を見合わせているところでシャルロットがポンと両手を合わせた。

「そっか。ソフィア、そこに修行に行ってるって言ってたね!」
「待って。シャルロットもあの時以外に彼女と面識があるのかい?」
「うん。言ってなかったっけ?私、村をビエントに襲われた時に気を失ってしまって。気がついたらレイとソフィアが助けてくれていたの。その時に少しお話を聞いたんだ」
「そ、そうだったのか」

 セラフィがいつもの敬語を崩して驚く横で、今度はミセリアが首を傾げた。

「マグナロア……戦闘狂?」
「そうそう、マグナロアはシアルワ王国の中でも一等変わった街なんだ。あの街では戦闘能力が何よりも重視されていて、統率者は街で一番の強者って話だよ。それだけならいいんだけど」
「ほう?」
「街に入るのにも、ある程度の戦闘能力が必要なんですよ。門番と模擬戦をして、門番に認められたら許可証を貰える……そんな仕組みの街です。その分、のうき……いえ、力というものに忠実で、誠実な人が多いイメージがありますね」

 なるほど、とミセリアは頷いた。若干興味が湧いたことは口に出さない。自分だったら街に入ることはできるのだろうか、とズレた思考をしかけるが努めて冷静に本題へ切り替える。

「マグナロアについての概要は分かった。そこにソフィアという人がいるかもしれないのなら行ってみるべきではないか?無駄にはならないだろう」
「そうだな。マグナロアかぁ……行くんだったら……いや、何でもない。レイが回復したら行こうか、と思ったけどレイとシャルロットはどうする?ここに残ってもいいし」

 フェリクスはベッドに腰掛けるレイとシャルロットの方を見る。しばらく行動を共にしていた二人だったが、無理してもらう必要性はまったくない。
 レイとシャルロットはお互いに顔を見合わせ、言葉もなしに頷き合う。この二人の間には確かな絆があるらしい、と窺わせる微笑みを浮かべて。

「もちろん一緒に行きますよ」
「私も。ソフィアはレイと並んで私の恩人だもの、ちゃんとしたお礼を言えてないから伝えなくちゃ」
「ありがとう、二人とも!」

 これでこの部屋にいる全員が道を同じくすることが確定した。フェリクスは嬉しそうに頷く。その一方でセラフィは良い笑顔を浮かべて、レイを見る。それに気がついたレイがどういう反応をしたら良いのか分からない、といったように視線をうろつかせている。

「ところでレイ君」
「は、はい」
「前から聞こうと思っていたのですが、ようやく機会が得られました。ソフィアについて知っていることを教えてくださいね。彼女の安否を僕ら、とても心配していたんですから。少しくらいお話聞いても、いいですよね」
「ハ、ハイ」

 笑顔から溢れる圧にレイがピンと背筋を伸ばして声を強張らせた。
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