久遠のプロメッサ 第一部 夜明けの幻想曲

日ノ島 陽

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夜明けの幻想曲 3章 救国の旗手

4 孤高の戦乙女

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「なにぃ?マグナロアに入りたい?いいよいいよ、入りな!殿下とセラ坊は前回許可したし、シャルロットちゃんとレイ君、ミセリアちゃんはそこの情報屋の戦いっぷりに免じて合格ってしとくよ!」

 と、なんとも軽い調子で街に入ることを許されたフェリクス達は、堅牢な石造りの壁を通り抜けた。壁の先も石造りの建物が並び、いかにも強そうな雰囲気を漂わせる男女が闊歩している。街の所々に控えめながらも観客席が用意された広場が設けられている。恐らくはそこで模擬戦を繰り広げるのだろう。
 フェリクスは何度かこの街に来たことがあるとはいえ、この場では自分が蟻のように小さな存在であると感じてしまう。
 一方レイは首こそあまり動かさないものの、視線はキョロキョロと辺り見回していた。シャルロットはそれに気がついていたが、何も言わなかった。

(きっと不安なんだろうなぁ)

 物心ついた時から一緒に暮らしていた家族のような人が実はイミタシア、なんて聞かされたら不安になるのも仕方がないことだ。イミタシアには能力の他に代償も付き纏うのだから。ソフィアも例外ではない、と考えるのが自然だろう。

(……セラフィお兄ちゃんは本当に平気なのかな)

 自分の一歩先を歩む兄をそっと見やる。セラフィには特異な能力も代償も何も見当たらないが、果たして本当に大丈夫なのか。もやもやと考えてしまう心を、顔をペチッと両手で挟む事で落ち着かせる。今はシャルロット自身のやりたいことを考えるべきだ。

(ソフィアにあのこと、ちゃんと伝えないと)

 きっと彼女は何も知らないだろうから。


***


 連れて行かれたのは街の中心部、他の建物に比べても随分と大きな建造物だった。円柱型の建物には様々な文様が描かれた旗が揺れている。

「これがこの街の中心部、アタシの城にして闘技場さ。殿下とセラ坊はともかく、そこの三人は見たことないだろう?よぉく目に焼き付けておきな」

 レオナはくるりと振り返り、両腕を広げた。大きく張り上げた声は空へと響いていく。
 
「本物の闘技場、初めて見た……!!」
「ラエティティア王国のお城も大きくて綺麗だったけど、ここも凄いね。なんかこう、重みを感じるというか」
「確かにそんな雰囲気を感じるな」

 マグナロアに初めて来た三人は感嘆の声をあげる。
 レオナは自慢げに笑って一行を案内した。
 両開きの扉を開くと、最初に見えるのは広間だ。無駄な飾り気のないそこには英雄を模してあるらしい石像や、名前が織り込まれているらしいタペストリーが設置されている。同じように飾り気のない廊下を進み、謁見室らしい部屋に通される。中には高級そうな素材で作られた調度品が置かれている。壁には歴代の長の肖像画と武器が飾られている。
 レオナはソファに座るように言って、自分は書斎机に腰掛ける。

「さて。殿下達がここに来たのには理由があるんだろう?それを聞こうじゃないか」
「はい。ある人がここにいるらしい、と聞いてここまでうかがいました。レオナさんなら知っているかは分からないけれど」
「この街に住んでいる奴なら把握しているよ。遠慮せずに名前を言ってごらん?」

 フェリクスはセラフィ、そしてレイを見て二人が頷いたことを確認して口を開いた。

「……ソフィア、という名前の女性なんですが」
「ソフィア、ねぇ」

 ふむ、と腕を組んでレオナは目を伏せた。何かを考えているようだ。
 
「この街にはいない人なのでしょうか」
「あーうー」

 言葉にならない声を発して、今度は頭をぐしゃぐしゃと掻く。そして、問いかけた。

「もし、アタシがソフィアを知っているとして、どうして彼女に会いたいんだい?教えてくれよ」

(あ、これ知ってるな)とフェリクス達の誰もが感じたが、それに対してはツッコミを入れることはしない。レオナの問いに答えたのはセラフィだ。

「ソフィアは僕の幼馴染みでして。ここ数年会えていなくて……とても心配しているんです。もしも危険な目に遭ってしまっていたらと考えると怖くて」

 (間違ってはいないけどものすごく誤魔化したな)とレオナを除く全員が感じた。
 レオナはその返答に「そうかい」と頷いて、迷いを捨てた顔でセラフィを見た。

「アンタもだってことだね?」

 その言葉に部屋の空気に少しだけ緊張が混じった。

「レオナさんはソフィアのことを知っているということですね?彼女が抱えるものについても」
「あぁ、モチロン。なんたってアタシの自慢の娘……のような存在だからね。まさかセラ坊もそうだったなんて思わなかったけどね。アンタも大変だったね」
「いえ。僕は別に。それよりも、彼女は今どこにいるんです?貴女なら知っているでしょう?」
「そうだね。今は……西の丘に行ってみな。多分そこで鍛錬していると思うから。近くに小さな池があると思うから、それを目印にして捜してみな」


***


「……って言われたけど、西の丘ってどこにあるんだっけ」
「すっかり忘れましたね―。以前来たのも相当前ですし。クロウは知ってます?」
「門番に試された時点で街に入ったことないのは察してくれ。レオナさん本人には会ったことあるけど……さて、俺はちょいと別行動させてもらうぜ」

 そう言ってクロウは口笛を吹き始める。

「会わなくてもいいんですか?」
「俺は情報屋だぜ?アイツの居場所なんて簡単に探れるっての。あの地下遺跡にソフィア呼んだの誰だと思ってんだ」
「え、クロウがあの人を呼んだのか?っていうか知り合いだったのかぁ」

 驚くフェリクスにクロウは自慢げに語る。

「森の集落で暮らしているらしい住人にばったり会ってな。そいつがソフィアの事を知ってるっぽかったから着いていったのさ。森に行ったら本当に集落があったんだ。なんとかソフィアの家っぽいのを見つけてさ、そこに置いてあった手紙に夜華祭りに行くとか書いてあったから追っかけて。途中で出会ったレイ自身からソフィアがマグナロアにいるってことを聞き出したっていう流れ」
「俺、ソフィアの話をした覚えがないんですが。そしてあの手紙も勝手に見たんですか」
「ははは、すまんすまん。ははははは」

 明らかに何かを誤魔化しているような笑いをしながらクロウは人々の喧噪の中へと消えていった。ここでは長身の男女が多いためか、クロウの姿はあっという間に見えなくなる。
 不満そうな顔をしているレイを見て苦笑いして、そしてフェリクスはふと思った。

「なぁセラフィ、クロウについてなんだけど」
「う~ん。殿下が何を質問しようとしているのかなんとなくは分かるのですが、ここでは控えさせていただきますね」
「そっかー。本人が自分から言ってくれるのを待つしかないのかな」
「まぁそうですね。その方がいいでしょうね」

 そんな会話をする主従二人組に対して、レイとシャルロットは首を傾げた。ミセリアは無表情で黙りこくっている。

「……手分けして探す?」

 控えめに手を挙げて提案をしたのはシャルロットだ。その発言にミセリアが返す。

「そうだな。しかし、ひとりで探すのは心許ない。この街に慣れていないからな……どう組み分けしようか?」
「あ、それなら私はレイと行くよ。ね?」
「え、あ、うん。二人ならなんとかなる……と思うよ」

 シャルロットはレイの袖を引く。レイは戸惑いがちに頷いた。
 その様子を見てセラフィは「ははーん」と微笑む。

「そうですね、お二人でごゆっくり。って、この場合僕が空気を読むと単独行動とらざるを得ないのでは。でもまぁ、それもそれでいいか」
「何を言っているんだ?」
「いえ、こっちのことです……というワケで僕、クロウに用事を思い出したので追いかけてきますねー!ミセリアは殿下のことをよろしくお願いします!」
「どういうワケだ」

 フェリクスとミセリアに頑張ってください、と手を振りながらセラフィはクロウが消えた方向へ走り去って行った。その声色は明るく、顔はニコニコしていた。
 レイとシャルロットもニコニコしながらその場を離れていく。
 残された二人は顔を見合わせた。一瞬カチリと目が合い、ミセリアは目を逸らした。フェリクスは顔を綻ばせ、ミセリアの手を取った。

「行こう、ミセリア。早くソフィアさんって人を捜さないと!二人で!」
「ちょ、それはそうだが手!手を離せ!」


***


 今日は何故か無心になれない。いつもは軌跡の美しさも感じない、高鳴る心臓の鼓動すら聞こえない程に無心でいられるのに。
 今日も何人もの戦士を敗北へ追いやった。何日も何日も挑戦し続けてくるその情熱には感心する。自分自身の鍛錬にもなるから断ることはしない。

「聞いたぜ?お前、“孤高の戦乙女”とか呼ばれているらしいじゃないか。かっこいいよな」
「そうだね、そんな二つ名に憧れた時期もあるよ」

 後ろから声がした。懐かしいような気もしたがそうでもないか、と思い直す。つい最近聞いたばかりの声だ。
 動かし続けていた身体を負担がかからないようにゆっくりと止める。数回深呼吸をし、後ろを振り返った。

「よ、他の連中が来る前に少しだけ話をしようぜ?」
「久しぶりだね、ソフィア」
「……そうね」

 優しい風が吹く。
 高い位置で結い上げられた淡藤の髪がふわりと靡いた。
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