思い出した

春夏

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『ミツル』のページには住所や電話番号の記載はない。連絡を取るにはメールを送るしかない。[壮に会いたい]たったひとことそう送ったメールに返事があったのは、真が待ちくたびれてまた人形になりかけた2ヶ月後だった。

充に指定された喫茶店の隣には大きな病院。店内には外出を許された患者とその家族なのか「もうすぐ退院ね」「やっと家に帰れるよ」などと笑顔で話している。マスクをつけ帽子を深く被った真は、居心地の悪さに耐えながら充を待つ。

「お待たせしてすみません」「いや、俺の方こそ…あのメールを信じてくれてありがとう」「…壮はあなたのことを話しません」「…思い出してもらえていない?」充は首を振る。「今の壮は…何も話せないんです」「…どういうことだよ」「僕とは話せていたんです。だんだん何も言葉にしなくなって…僕ももう壮の声を忘れそうです」「…なんで」「“さようなら”を言いたくないって」「え?」「もう誰にもサヨナラを言いたくない、って。壮は話すことをやめたんです」「…壮に会わなきゃ…」「…僕もあなたにしか治せない、ってわかってました。でもあなたを忘れると決めた壮のことを思うと、あなたに会わせていいのかどうか迷いました。それに、あなたにどうやって連絡を取ったらいいのかもわからなかったし…僕のこと、ご存じだったんですか?」

真はキーケースを取り出す。「壮に貰ったんだ。充君が作ったんだろ?これと同じデザインのブレスレットを共演者がしてて、君のことを教えてもらった」「あぁ…あれ、壮があなたの為に考えたデザインを使わせてもらいました。『もうオレのものじゃないから充の好きにして』って。今は壮がいろいろデザインしてくれています」「オレのものじゃない…」「僕は壮が誰の為にデザインしたのかは知らなかったけれど…何度か『使わせてくれ』って頼んだんです。そのたびに『オレのものだからダメ』って断られて。退院のときに許してくれたんです。あなたと…別れたから」
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