「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)

文字の大きさ
10 / 28

第9章 家族の楽しみ

しおりを挟む
街では、午後が終わりに向かっていた。太陽はもはや頭上高くなく、地平線へと沈み始め、空をオレンジ色に染めていた。

「若様」エララがそっとアイトの肩に触れた。「そろそろお戻りになる時間かと」

工房で職人が革細工をしているのを見ていたアイトは、がっかりした表情で振り返った。

「もう帰るの?」彼の声には一抹の悲しみが込められていた。「でも…もう少しだけいたかったな。ずるいよ」

彼のそんな様子を見て、エララの心は小さく痛んだ。しかし、彼女はしっかりしなければならなかった。国王夫妻は彼女にアイトの世話を任せており、それには適切な時間に連れ帰ることも含まれていた。

「もうこれ以上はおられません、若様」彼女は優しくも、しっかりとした口調で言った。「まもなく暗くなります。日が暮れると、通りは危険になります。ご両親がご心配なさいます」

アイトはうつむき、その言葉を受け止めた。一瞬、エララは彼が怒り出し、足を踏み鳴らし、彼女が見てきた他の貴族の子供たちのように駄々をこねるのではないかと心配した。しかしアイトは他の子供たちとは違っていた。

彼は顔を上げた。金色の目にはまだ悲しみが映っていたが、決然と頷いた。

「わかった」彼は言った。「帰ろう」

彼らは黙って帰路についた。アイトはうつむき加減に歩き、見たものすべて、感じたものすべてを反芻していた。エララは彼の様子を気にかけ、横目で見守っていた。

「悲しまないでください、若様」彼女はついに沈黙を破って言った。「また、何度でもお出かけになれますよ。もう少し大きくなったら、お望みなら街中を探検できるようになります」

アイトは顔を上げて彼女を見た。一瞬、彼の目は希望の光で輝いた。

「本当に、そう思う?」

「ええ、確かに」エララは微笑んで答えた。「あなたはすぐに大きくなりますよ、きっと。そして、もっと大人になったら、世界はあなたのものになるんです」

アイトは彼女の言葉を心で反芻し、すると突然、笑顔が彼の顔を照らした。失っていたエネルギーをすべて取り戻すような、心からの温かい笑顔だった。

「そうだね、そうだ!」彼は小さく跳び上がって叫んだ。「大きくなったら、もっとたくさん出かけられるんだ! ははは!」

エララも思わず笑ってしまった。この子の気分の回復力は驚くべきものだった。一分前は悲しんでいたのに、次の瞬間には、何事もなかったかのように笑って跳ねている。

なんて特別な子なんだろう、と彼女は思った。なんて素晴らしい子なんだろう。

---

宮殿が遠くに見えた。夕焼けのオレンジ色の空を背景に、威風堂々とそびえ立っていた。大きな門をくぐり、中庭に入ると、アイトは深く息を吸い込んだ。見慣れた匂い、見知った衛兵たちの顔、我が家の安心感を感じ取ったのだ。

「母さん、お姉ちゃん、ただいま!」彼は声を張り上げて挨拶し、新たな活力に満ちて大広間に入っていった。

肘掛け椅子に座って本を読んでいたセシリアは顔を上げ、彼を見て微笑んだ。

「ああ、お帰りなさい、坊や」彼女は本を脇に置いて言った。「どうだった?」

「うん、楽しかっ…」アイトが言いかけた時、彼の言葉は遮られた。

「アイト!」

カリシアがどこからともなく現れた。輝く目をしたつむじ風のように、彼女はアイトの前に仁王立ちし、両手を腰に当てた。

「いたずらっ子の弟め!」彼女は怒っているふりをして眉をひそめ、叫んだ。「よくも私を置いて出かけたわね?」

アイトは突然の姉の出現に驚いて、まばたきした。

「だって、お姉ちゃんがいなかったんだもん」彼は正直に答えた。「いろんなとこ探したんだけど、いなかったんだ」

「そんな言い訳、通用しないわよ?」カリシアは彼の説明を信じずに言った。「授業中に私を呼びに来ればよかったじゃない?家庭の事情だって言えば、先生だって分かってくれるわ」

「お嬢ちゃん」セシリアが優しく口を挟んだ。「弟を怒らないであげて。急に決まったことだったのよ」

カリシアはふんと鼻を鳴らしたが、その姿勢はわずかに和らいだ。アイトはこれがチャンスとばかりに、それを利用することにした。

「それじゃあ、お姉ちゃん」彼は仲直りの笑顔で言った。「許してもらうには、どうしたらいい?」

カリシアの目が悪戯っぽく輝いた。まさにその質問を待っていたのだ。

「うーんとね、それじゃあ、あ・な・た・は…」

「やあ、アイト!」入り口から男性の声が遮った。「やっと帰ってきたんだね!」

エリエルが本を小脇に抱え、満面の笑みを浮かべて大広間に入ってきた。どうやらその日の勉強を終え、夕食前のひととき、ちょっとした会話を求めているようだった。

「そうだよ、エリエル兄さん」アイトは彼に会えて嬉しそうに答えた。

しかしカリシアは…カリシアは嬉しくなかった。

彼女はゆっくりと兄の方に向き直り、その目は嵐を予告するかのようにきらめいていた。

「おい」エリエルは彼女の視線の鋭さに気づいて言った。「どうしてそんな目で見るんだ、妹よ?」

「よくもまあ、そんな目で見る理由が分からないなんて言えるわね?」カリシアは血も凍るような声で答えた。「せっかくアイトに謝らせて、すごいお願いをしようとしてたのに、あなたがそれを台無しにしたのよ!」

エリエルはまばたきした。全く訳が分からなかった。

「え?何を台無しにしたって?」彼は困惑して尋ねた。

肘掛け椅子から、セシリアは面白そうにこの光景を眺めていた。これは面白くなりそうだ。

アイトはと言えば、困惑と面白さが混ざった表情で兄と姉を見ていた。何が起きているのかよく分からなかったが、カリシアがあんなにエリエルに怒っているのを見るのは…面白かった。

「た、助けてくれ、妹よ!」エリエルは叫び、カリシアが決然と迫るのを後ずさりしながら見ていた。

「嘆願してももう遅いわ、エリエル・グレイモント!」カリシアは宣言した。「邪魔した代償は払ってもらうからね!」

こうして、笑い声とふりをした悲鳴の中、三人の兄弟は大広間中を駆け回り、追いかけ合い、かわし合い、宮殿中を、どんな贅沢や肩書きも買えないような喜びで満たした。

セシリアは彼らを見守っていた。感謝の気持ちで胸がいっぱいだった。私の家族。私の家。私の人生。

そして、エリエルが必死に逃げ、カリシアが容赦なく追いかけ、アイトがその光景を見て大笑いする中、王妃は絶対的な確信を持って知った。この瞬間をこの世の何物とも決して交換したくないと。

ありがとう、と彼女は天井に向かって思った。彼女が夢見たすべてを与えてくれた、あの気まぐれな運命に。この家族をありがとう。この愛をありがとう。すべてをありがとう。

太陽は地平線に沈み、空には星々が現れ始め、王宮は再び笑い声と、光と、生命で満たされた。

あるべき姿で。

いつもそうであるように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

処理中です...