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ー第22話ー
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インヘリット・ルームには壁にいくつかの扉があった。正面の一つはここに来るときにくぐった扉だが、ほかの扉は開けたことがない。
ジルはカインを連れそのうちの一枚の扉の前で立ち止まった。
ガチャ
鍵もかかっていないその扉は、ドアノブを回すと音を立て、部屋の奥へと傾いていく。二人は開かれた扉の先、その部屋の中へと足を踏み入れた。
「なんだこれ、何もないじゃん」
カインの言う通り、その部屋には何もなかった。ただ壁と天井で四角く囲っただけの空間。メインルームの様に家具や照明があるわけでもなく、当然窓もない。今開けた扉以外は一面壁と床と天井に囲われた、文字通り何もない部屋だった。
一つおかしなところがあるとすれば、それは照明らしいものが天井に付いていないのにこの部屋は明るいということだろう。
「そう、文字通り何もない部屋だよ。練習にはうってつけだろう?」
そういうとジルはいつの間にか持っていた紙を数枚地面に置いた。
1枚は正方形が描かれた紙。
1枚は立方体の展開図が描かれた紙。
最期の一枚は黒い点が4つ、ちょうど正方形の角に当たる箇所に記された紙だった。
「これは目印だよ」
そう言ってジルはしゃがんでそのしるしを指さす。
「空間正常術式の第一工程である空間指定。実はこれが一番難しいんだ。脳内で作った結界を現実世界にトレースする、イメージ力が試される。これはその補助のための紙だよ」
「現実世界にトレース・・・ねぇ。要は鍵付きの箱が紙の上に本当にあるように想像するってことだろ?」
「その通り!」
ジルは3枚の内一枚、正方形の書かれた紙をぺらりと持ち上げる。
「通常脳内の出来事を現実世界であるように見せるのは非常に難しいけど、今の君は空間施錠術式を保持している状態。そこまで難しくはないはずだよ。この印からにょきっと生えてくるとか、展開図がパタパタと組みあがって箱になるとか、この点同士が結びついて面を作り箱になるとか、自分に合った方法でトレースしてくれて構わない」
「出現まではすぐできると思うけど、イメージをそのままの形で保持するのが難しいんだ。立方体の一面、一ラインでも崩れ始めればそこからすべて瓦解するからね。論より証拠、まずは作ってみてよ」
「お、おう」
カインは正方形の紙に焦点を合わせ、印が上に向かって柱の様に伸びるさまをイメージする。
「お・・・おぉ!なんか出てきた!!!」
死に際で得た鍵内部の構造を脳内で再現するあの感覚。それを現実世界で見るイメージ。すると現れたのは、青い結晶のような、半透明のパネルで作られた四角い柱だった。
が、しかし・・・
ペキッ!
「うぉ!!」
柱のてっぺんに当たる面が斜めに傾く!ひずみが生じた柱は一瞬ではじけ飛び跡形もなく姿を消してしまった。
「びっくりした・・・粉砕するとは思わなかった」
「いや、大したものだよ。あれだけのサイズのものをいきなり出現させるなんてね。初回は普通、ちょっと頭が出てくるくらいで限界なんだ。これは結構すぐものにできそうだね」
派手に破裂してしまったが、どうやらこれでもカインは結構センスのある方らしい。ジルのやけに満足げな顔からも、それがお世辞や嘘でないことがうかがえる。
「何度も練習して、片手間に出現させるくらいにはならないとね。戦闘中は戦いながらこれをやらないといけないし。形は立方体に限らず、いろんな形を作ることができる。階段状にして上ったり、壁を作って盾にしたり・・・といっても強度はそんなにないけど」
「結構使い勝手がいいな!これは俄然やる気が出てきた!」
こうしてカインの『戦える鍵師』になる特訓が幕を開けた。
ジルはカインを連れそのうちの一枚の扉の前で立ち止まった。
ガチャ
鍵もかかっていないその扉は、ドアノブを回すと音を立て、部屋の奥へと傾いていく。二人は開かれた扉の先、その部屋の中へと足を踏み入れた。
「なんだこれ、何もないじゃん」
カインの言う通り、その部屋には何もなかった。ただ壁と天井で四角く囲っただけの空間。メインルームの様に家具や照明があるわけでもなく、当然窓もない。今開けた扉以外は一面壁と床と天井に囲われた、文字通り何もない部屋だった。
一つおかしなところがあるとすれば、それは照明らしいものが天井に付いていないのにこの部屋は明るいということだろう。
「そう、文字通り何もない部屋だよ。練習にはうってつけだろう?」
そういうとジルはいつの間にか持っていた紙を数枚地面に置いた。
1枚は正方形が描かれた紙。
1枚は立方体の展開図が描かれた紙。
最期の一枚は黒い点が4つ、ちょうど正方形の角に当たる箇所に記された紙だった。
「これは目印だよ」
そう言ってジルはしゃがんでそのしるしを指さす。
「空間正常術式の第一工程である空間指定。実はこれが一番難しいんだ。脳内で作った結界を現実世界にトレースする、イメージ力が試される。これはその補助のための紙だよ」
「現実世界にトレース・・・ねぇ。要は鍵付きの箱が紙の上に本当にあるように想像するってことだろ?」
「その通り!」
ジルは3枚の内一枚、正方形の書かれた紙をぺらりと持ち上げる。
「通常脳内の出来事を現実世界であるように見せるのは非常に難しいけど、今の君は空間施錠術式を保持している状態。そこまで難しくはないはずだよ。この印からにょきっと生えてくるとか、展開図がパタパタと組みあがって箱になるとか、この点同士が結びついて面を作り箱になるとか、自分に合った方法でトレースしてくれて構わない」
「出現まではすぐできると思うけど、イメージをそのままの形で保持するのが難しいんだ。立方体の一面、一ラインでも崩れ始めればそこからすべて瓦解するからね。論より証拠、まずは作ってみてよ」
「お、おう」
カインは正方形の紙に焦点を合わせ、印が上に向かって柱の様に伸びるさまをイメージする。
「お・・・おぉ!なんか出てきた!!!」
死に際で得た鍵内部の構造を脳内で再現するあの感覚。それを現実世界で見るイメージ。すると現れたのは、青い結晶のような、半透明のパネルで作られた四角い柱だった。
が、しかし・・・
ペキッ!
「うぉ!!」
柱のてっぺんに当たる面が斜めに傾く!ひずみが生じた柱は一瞬ではじけ飛び跡形もなく姿を消してしまった。
「びっくりした・・・粉砕するとは思わなかった」
「いや、大したものだよ。あれだけのサイズのものをいきなり出現させるなんてね。初回は普通、ちょっと頭が出てくるくらいで限界なんだ。これは結構すぐものにできそうだね」
派手に破裂してしまったが、どうやらこれでもカインは結構センスのある方らしい。ジルのやけに満足げな顔からも、それがお世辞や嘘でないことがうかがえる。
「何度も練習して、片手間に出現させるくらいにはならないとね。戦闘中は戦いながらこれをやらないといけないし。形は立方体に限らず、いろんな形を作ることができる。階段状にして上ったり、壁を作って盾にしたり・・・といっても強度はそんなにないけど」
「結構使い勝手がいいな!これは俄然やる気が出てきた!」
こうしてカインの『戦える鍵師』になる特訓が幕を開けた。
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