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ー第23話ー
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(・・ろ、起きろ!・・・チッ、この愚図が。水をかけてやれ)
バッシャッ!
「ッッ!!!」
マルスは自分の体にぶつけられた冷水で目を覚ます。
(なんだ、ここはどこだ・・!?)
辺りを見回そうと体に力を込めた瞬間に感じる強い抵抗力。ここでようやくマルスは自分の体が椅子に縛り付けられていることに気が付いた。
マルスのいるその部屋はやけに薄暗く、窓が付いていない。少し埃っぽく空気はひんやりしており、まるで地下室のようだ。
そしてマルスの正面には、よく知った人物が腕を組みマルスを見下ろしていた。
「ソリッズ・・・これは・・・?」
自分の置かれた状況に混乱しながらも、マルスは必至で途切れる前の記憶を追った。
(ソリッズ・・・そうだ、ソリッズの家を訪ねて仲間とカイン狩りに出かけた。そしたらあいつ、別人みたいに変わってて…俺は‥‥っ!?)
ガタタッ!
一瞬で脳天まで沸騰したマルスは縛られていたことすら忘れ、座ったままの姿勢で藻掻く!
「カイン、カイン!!許せねぇ、ゴミムシの分際で俺を投げとばすだと!!クソがっ!!なぁソリッズ?何してんだよ、この縄ほどいてくれよ!俺の腹の虫がおさまらねぇ、カインをボコボコにしに行こうぜ、な?あのナメクジ野郎に今度こそ思い知らしめて・・・」
「ナメクジ野郎はどっちだ脳筋マルス。お前はこの状況を理解してないのか?」
ゾクッ!!!
初めてみるソリッズの表情にマルスは背筋が凍るのを感じた。あれは人間を見る目ではない。地を這う虫、死んだ獣、汚らわしい汚物を見る目。
「ソ・・・ソリッズ?」
言い得ぬ不安感がマルスを襲う。頭に上った熱は氷点下まで急降下し、思考は停止する。
「おだててやればのぼせやがって。愚鈍な貴様のおかげでこの俺は恥をかいた。万死に値するぞ」
「何、言ってんだよソリッズ」
マルスの声は震えていた。
「あんなのまぐれだろ?俺は『戦士』だぞ?『鍵師』に負けるわけないだろ。それに俺はお前の専属の・・・」
「もういい、ちょっと黙れ」
「ごふっ!!」
ソリッズはマルスの腹部に打撃を与えた。押し上げられ圧迫された肺から逃げ出した空気が吐き出され、呼吸が苦しくなる。
「本当に脳みそが筋肉でできているんだな。あんなものは口約束でしかない。お前は所詮お遊びの中で振るう暴力以外の何物でもない。そもそもお前のようなギルドでもお荷物扱いの戦士など、だれが雇うというんだ?」
「!?ソリッズ、まさか・・・」
マルスの額から流れ落ちる脂汗が、飛び出るほどに開かれた目が、どれほどの衝撃かを物語っている。
ソリッズの顔が悪意に満ちた笑みで染まった。あのカインに向けられた目と同じ恐ろしい残虐な色をした目。
「見ていたさ、すべてな」
「嘘だ、意味が解らない!そもそも理由がない!信じないぞ!」
「ふっ。理由ならあるさ」
クククッと腕を組み笑うソリッズ。
「お前に恵んだ飾り物でお前がどんな醜態をさらすか見るためだろうが!でなきゃお前にやった意味がないだろう!」
高らかに笑うソリッズとは対照的に、突きつけられた事実をいまだ理解できず憔悴するマルスの顔面は蒼白であった。
「あっはははは!薬草採りだぞ、馬鹿かお前!!足場も悪い森をあんなにガッシャンガッシャンと・・くふぅ!くははは!!あの冒険者たちのお前を見る目!!そのくせお前は無駄にプライドが高いからなっ!最っ高の見世物だった!!」
マルスは俯いたままもう微動だにしなかった。何かをぶつぶつとつぶやいていた気もするが、その声を聞き取っていたものなど誰もいない。
「なんだ、元気がないじゃないか!まぁいい。本題はここからだ」
ソリッズはマルスに少し近づいた。しかしマルスはやはりうなだれたまま。目線は地面に伏せ動く気配はない。
「貴様をここに連れてきたのは俺に恥をかかせた罰を与えることが一つ。安心しろ、お前のような奴殺す価値もない。死なない程度に痛めつけた後回復魔術でもかけて外へ転がしてやるよ。そしてもう一つは警告だ」
ソリッズの合図で前へ出る屈強な男。最初にマルスに水を吹っ掛けたのもこの男だ。
「今後一切俺に近づくんじゃない。禁を破れば命はないと思え。お前の周りには常にこいつらが付きまとっているぞ。反職組織がな」
「!!?」ガタッ!!
死んだように無言だったマルスの体がアンチジョブという言葉にビクンと跳ねる。見上げたその顔は死人のように真っ青で、体の震えが止まらない。冗談のような怯えようだ。
「なんだ、意外か?役人が裏組織とパイプがあるというのは。まぁお前のような腐った脳みそでは分からないだろう。こいつらは大金をもらって武力と地位を付けたい。俺は表で手を汚さずに邪魔者を排除してうまく立ち回りたい。まさにWin-Winの関係だ。子供の俺でも分かることだというのになぜ大人たちは頑なにパイプを持つことを拒否するのか、天才の俺には全く分からんよ」
ソリッズはマルスに背を向け男に耳打ちをした。
「半殺しだ。痛みと恐怖を植え付けた後回復させろ。通報でもされたら厄介だからな。あとは任せた」
部屋を後にするソリッズの背中に浴びせられるマルスの悲痛な叫び。再びソリッズの顔は醜く歪んだ笑みを張り付けていた。
バッシャッ!
「ッッ!!!」
マルスは自分の体にぶつけられた冷水で目を覚ます。
(なんだ、ここはどこだ・・!?)
辺りを見回そうと体に力を込めた瞬間に感じる強い抵抗力。ここでようやくマルスは自分の体が椅子に縛り付けられていることに気が付いた。
マルスのいるその部屋はやけに薄暗く、窓が付いていない。少し埃っぽく空気はひんやりしており、まるで地下室のようだ。
そしてマルスの正面には、よく知った人物が腕を組みマルスを見下ろしていた。
「ソリッズ・・・これは・・・?」
自分の置かれた状況に混乱しながらも、マルスは必至で途切れる前の記憶を追った。
(ソリッズ・・・そうだ、ソリッズの家を訪ねて仲間とカイン狩りに出かけた。そしたらあいつ、別人みたいに変わってて…俺は‥‥っ!?)
ガタタッ!
一瞬で脳天まで沸騰したマルスは縛られていたことすら忘れ、座ったままの姿勢で藻掻く!
「カイン、カイン!!許せねぇ、ゴミムシの分際で俺を投げとばすだと!!クソがっ!!なぁソリッズ?何してんだよ、この縄ほどいてくれよ!俺の腹の虫がおさまらねぇ、カインをボコボコにしに行こうぜ、な?あのナメクジ野郎に今度こそ思い知らしめて・・・」
「ナメクジ野郎はどっちだ脳筋マルス。お前はこの状況を理解してないのか?」
ゾクッ!!!
初めてみるソリッズの表情にマルスは背筋が凍るのを感じた。あれは人間を見る目ではない。地を這う虫、死んだ獣、汚らわしい汚物を見る目。
「ソ・・・ソリッズ?」
言い得ぬ不安感がマルスを襲う。頭に上った熱は氷点下まで急降下し、思考は停止する。
「おだててやればのぼせやがって。愚鈍な貴様のおかげでこの俺は恥をかいた。万死に値するぞ」
「何、言ってんだよソリッズ」
マルスの声は震えていた。
「あんなのまぐれだろ?俺は『戦士』だぞ?『鍵師』に負けるわけないだろ。それに俺はお前の専属の・・・」
「もういい、ちょっと黙れ」
「ごふっ!!」
ソリッズはマルスの腹部に打撃を与えた。押し上げられ圧迫された肺から逃げ出した空気が吐き出され、呼吸が苦しくなる。
「本当に脳みそが筋肉でできているんだな。あんなものは口約束でしかない。お前は所詮お遊びの中で振るう暴力以外の何物でもない。そもそもお前のようなギルドでもお荷物扱いの戦士など、だれが雇うというんだ?」
「!?ソリッズ、まさか・・・」
マルスの額から流れ落ちる脂汗が、飛び出るほどに開かれた目が、どれほどの衝撃かを物語っている。
ソリッズの顔が悪意に満ちた笑みで染まった。あのカインに向けられた目と同じ恐ろしい残虐な色をした目。
「見ていたさ、すべてな」
「嘘だ、意味が解らない!そもそも理由がない!信じないぞ!」
「ふっ。理由ならあるさ」
クククッと腕を組み笑うソリッズ。
「お前に恵んだ飾り物でお前がどんな醜態をさらすか見るためだろうが!でなきゃお前にやった意味がないだろう!」
高らかに笑うソリッズとは対照的に、突きつけられた事実をいまだ理解できず憔悴するマルスの顔面は蒼白であった。
「あっはははは!薬草採りだぞ、馬鹿かお前!!足場も悪い森をあんなにガッシャンガッシャンと・・くふぅ!くははは!!あの冒険者たちのお前を見る目!!そのくせお前は無駄にプライドが高いからなっ!最っ高の見世物だった!!」
マルスは俯いたままもう微動だにしなかった。何かをぶつぶつとつぶやいていた気もするが、その声を聞き取っていたものなど誰もいない。
「なんだ、元気がないじゃないか!まぁいい。本題はここからだ」
ソリッズはマルスに少し近づいた。しかしマルスはやはりうなだれたまま。目線は地面に伏せ動く気配はない。
「貴様をここに連れてきたのは俺に恥をかかせた罰を与えることが一つ。安心しろ、お前のような奴殺す価値もない。死なない程度に痛めつけた後回復魔術でもかけて外へ転がしてやるよ。そしてもう一つは警告だ」
ソリッズの合図で前へ出る屈強な男。最初にマルスに水を吹っ掛けたのもこの男だ。
「今後一切俺に近づくんじゃない。禁を破れば命はないと思え。お前の周りには常にこいつらが付きまとっているぞ。反職組織がな」
「!!?」ガタッ!!
死んだように無言だったマルスの体がアンチジョブという言葉にビクンと跳ねる。見上げたその顔は死人のように真っ青で、体の震えが止まらない。冗談のような怯えようだ。
「なんだ、意外か?役人が裏組織とパイプがあるというのは。まぁお前のような腐った脳みそでは分からないだろう。こいつらは大金をもらって武力と地位を付けたい。俺は表で手を汚さずに邪魔者を排除してうまく立ち回りたい。まさにWin-Winの関係だ。子供の俺でも分かることだというのになぜ大人たちは頑なにパイプを持つことを拒否するのか、天才の俺には全く分からんよ」
ソリッズはマルスに背を向け男に耳打ちをした。
「半殺しだ。痛みと恐怖を植え付けた後回復させろ。通報でもされたら厄介だからな。あとは任せた」
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