ある悪役令嬢と執事

ぴぴみ

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敵わない

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 ジェームズ・キングは、自他共に認める優秀な男だった。大した家の出でないにも関わらず成り上がり、今はアイゼン子爵家に仕えている。

 そんな男が激しく取り乱していた。周囲に人がいないことを確認する余裕はまだある。
とはいえ、叫んで落ち着こうとするのが、日常になりつつあった。


「いやいや…ほんとに…姫!!何してくれてんの!?」


◇◇


「ジェームズ、どうしたの?」

 可愛らしく、こてんと首を傾げるエリザ。

「…なんでもございません、お嬢様。」

 執事は素知らぬ顔をして、そう答えた。

「何でもない、なんて嘘でしょう?」
「…………では、僭越ながら申し上げますが…」

 彼は重々しく口を開いた。

「先程、屋敷に穴を開けられましたのは…どういったわけで…?」
「?壁に嵌め込まれてた石がいくつか欲しかったの。すごい魔石だって聞いて」
「…なるほど。…ではあの爆発は…」
「あれはね…どのくらい燃えるのか確かめたくて、実験したの!ちゃんと窓を開けたのよ」

 そう言うエリザはどこか得意気だ。

「……。……それでは庭の花を全滅させたというのは…?」
「ああ…あれは申し訳なく思ってる。羽虫に驚いちゃって…」
「…さようで…ございますか…」


 ほわほわとエリザは質問に答えていく。
だが、執事は知っていた。
─羽虫というのが彼女の婚約者のことだと。


「…何か危害などを加えられましたか?」
「ええ!!いきなり突進してきてね…!そのまま私、顔を打ち付けちゃったの!…その衝撃で花を燃やしてしまったわけだけど」

 見るとエリザの額は前髪で隠れているものの、少し赤くなっていた。

「いけませんお嬢様…!早く手当てしなくては…」
「いいの。こんなもの、すぐ治るわ。それに誤解しないでね…。ちゃんとやり返したから!」
「…と、いうと?」
「噴水に落として、水魔法でぐるぐるしたの」
「…ぐるぐる。ぐるぐる…ですか。え、ぐるぐる?」

 執事は聞き返した。

「空高く上っていったんだけど、途中で魔力がきれたわ」
「いえ…そういうことではなくて…ハロルド様は」
「無事よ。ぐっすり眠ってはいたけれど…。すやすやと気持ちよさそうに…。
そんなことよりジェームズにプレゼントがあるの!」

 そう言って小さな手の中身を見せた。

「…石の花ですか?」
「ええ!上手くできているでしょう?」

 身長差があるので執事は必然、屈むことになる。そんな彼のすぐ目の前に青い花がつきだされている。

「拝見しても?」
「もちろん!ジェームズのために作ったのだから」

 形は歪ながらも美しい花だ。

「もしかして、壁の魔石から…?」
「そうよ!気に入ってくれた?形を整えるの大変だったのよ?ちょっとずつ燃やして…」

 これは、戻さなくてはいけないのでは…と考えたがエリザの気持ちも無駄にはできなかった。

「…ありがとうございますお嬢様」
「うふふ。喜んでくれてよかった!あなたの瞳の色と同じでしょう?穏やかな海の色」
「……」
「あなたの喜ぶ顔も見られたし…安心した…ら…眠くなってきちゃった。」

 見ると、彼女のきれいな月色の瞳がとろんと今にも閉じようとしている。
 執事はエリザを部屋へと案内した。

***

 彼女には、まだお昼寝の時間が必要だ。
 

「手を握っていて?」
「…いけませんお嬢様」
「むー。だめなの…?」
「はい。立派な淑女になられるのでしょう?」
「そんなの…なるより、ジェームズに…側にいてほし…」

 途中で寝てしまったのか、規則正しい息遣いが聞こえた。

 振り回されているとはいっても、執事はかわいいお嬢様のことが大好きだ。


「っほんと…ずるいな…姫は」


 姫という言葉に思いを込め、ジェームズは、赤くなった顔を隠すかのように手で覆った。

 将来が末恐ろしいなと思いながら。

    
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